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書斎を出て静かな廊下を歩いていると、角にある小広間に母の姿を見つけます。傍らのテーブルには淹れたばかりであろう、ハーブティーが置かれていました。
母の方でも私を見つけたらしく、その手が静かに椅子を引きました。
「リリアーナ、お疲れさま。少し休んでいきなさい」
「お母様……ありがとうございます」
母の申し出に頷き、引かれた椅子へと腰を掛けます。差し出されたティーカップを手に取り口元へ寄せると、湯気と共に広がる香りが強張っていた肩の力を抜いてくれました。
「……お父様とお話しして参りましたが……今回の件は伯爵家として正式に抗議を行い、婚約の話も白紙に戻すと仰ってくださいました」
私の言葉を聞くと、母は満足そうに目を細めました。
「そう。お父様がそう仰るなら、もう何も案ずることはありません。それにね……」
母の方でもティーカップを手に取って、その香りを楽しんでいるようです。
「婚約とは言うけれど、まだあなたたちはお互いが口約束しかしていない段階なの。周知だってしていないわ」
母の言葉に、私は改めて頷きます。
アルフレッド様からの婚約の申し出を受け、私は確かに頷きました。その心に、その時嘘はなかったのです。
そして婚約の周知……それをする地盤固めのために、ご挨拶のために向こうへ出向いたのが本日のこと。
(ご挨拶は確かに終えたけれど……でも、それも侯爵家だけでのこと)
公式な手続きが進んでいなかったことは、家門の傷を最小限に抑えるための救いだったのかもしれません。
「はい。……正式な場に出る前で、本当によかったと思います」
「ええ。……けれど相手方はその口約束を盾に、あなたの拒絶を見ないこととしています。これは我が家に対する明らかな侮辱に繋がるわ」
「侮辱……」
……当然と言えば当然のことです。
「お話が通じなかったのでしょう。そんな輩は常識の範囲で動くとは限らないわ。お父様もエリオットも、そこを一番の問題視しているのだと思うの」
母の方でも私を見つけたらしく、その手が静かに椅子を引きました。
「リリアーナ、お疲れさま。少し休んでいきなさい」
「お母様……ありがとうございます」
母の申し出に頷き、引かれた椅子へと腰を掛けます。差し出されたティーカップを手に取り口元へ寄せると、湯気と共に広がる香りが強張っていた肩の力を抜いてくれました。
「……お父様とお話しして参りましたが……今回の件は伯爵家として正式に抗議を行い、婚約の話も白紙に戻すと仰ってくださいました」
私の言葉を聞くと、母は満足そうに目を細めました。
「そう。お父様がそう仰るなら、もう何も案ずることはありません。それにね……」
母の方でもティーカップを手に取って、その香りを楽しんでいるようです。
「婚約とは言うけれど、まだあなたたちはお互いが口約束しかしていない段階なの。周知だってしていないわ」
母の言葉に、私は改めて頷きます。
アルフレッド様からの婚約の申し出を受け、私は確かに頷きました。その心に、その時嘘はなかったのです。
そして婚約の周知……それをする地盤固めのために、ご挨拶のために向こうへ出向いたのが本日のこと。
(ご挨拶は確かに終えたけれど……でも、それも侯爵家だけでのこと)
公式な手続きが進んでいなかったことは、家門の傷を最小限に抑えるための救いだったのかもしれません。
「はい。……正式な場に出る前で、本当によかったと思います」
「ええ。……けれど相手方はその口約束を盾に、あなたの拒絶を見ないこととしています。これは我が家に対する明らかな侮辱に繋がるわ」
「侮辱……」
……当然と言えば当然のことです。
「お話が通じなかったのでしょう。そんな輩は常識の範囲で動くとは限らないわ。お父様もエリオットも、そこを一番の問題視しているのだと思うの」
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