親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

文字の大きさ
66 / 105

66

書斎を出て静かな廊下を歩いていると、角にある小広間に母の姿を見つけます。傍らのテーブルには淹れたばかりであろう、ハーブティーが置かれていました。

母の方でも私を見つけたらしく、その手が静かに椅子を引きました。

「リリアーナ、お疲れさま。少し休んでいきなさい」

「お母様……ありがとうございます」

母の申し出に頷き、引かれた椅子へと腰を掛けます。差し出されたティーカップを手に取り口元へ寄せると、湯気と共に広がる香りが強張っていた肩の力を抜いてくれました。

「……お父様とお話しして参りましたが……今回の件は伯爵家として正式に抗議を行い、婚約の話も白紙に戻すと仰ってくださいました」

私の言葉を聞くと、母は満足そうに目を細めました。

「そう。お父様がそう仰るなら、もう何も案ずることはありません。それにね……」

母の方でもティーカップを手に取って、その香りを楽しんでいるようです。

「婚約とは言うけれど、まだあなたたちはお互いが口約束しかしていない段階なの。周知だってしていないわ」

母の言葉に、私は改めて頷きます。
アルフレッド様からの婚約の申し出を受け、私は確かに頷きました。その心に、その時嘘はなかったのです。

そして婚約の周知……それをする地盤固めのために、ご挨拶のために向こうへ出向いたのが本日のこと。

(ご挨拶は確かに終えたけれど……でも、それも侯爵家だけでのこと)

公式な手続きが進んでいなかったことは、家門の傷を最小限に抑えるための救いだったのかもしれません。

「はい。……正式な場に出る前で、本当によかったと思います」

「ええ。……けれど相手方はその口約束を盾に、あなたの拒絶を見ないこととしています。これは我が家に対する明らかな侮辱に繋がるわ」

「侮辱……」

……当然と言えば当然のことです。

「お話が通じなかったのでしょう。そんな輩は常識の範囲で動くとは限らないわ。お父様もエリオットも、そこを一番の問題視しているのだと思うの」

あなたにおすすめの小説

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。