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「えっ……」
差し出された紙束は不意打ちと言ってもいいような用意。驚きながらも受け取った私の横から父が覗き、呆れたような声を漏らしました。
「お前、まさかこれを作っていて睡眠にあてる時間を削ったのか」
お父様の声につられるように紙束へと視線を落とします。エリオットの言う通り、それは独身の貴族男性の名を記したものでした。
母も目を丸くして話し掛けます。
「まあ……あなた、今日一日大丈夫?」
枚数はけっして多くはないのですが、一人一人の家柄や人となりが弟の筆致で書き連ねてあるものです。
知ってる名前も知らない名前もありますが、おそらくは皆エリオットの知る人物たちなのでしょう。
彼の顔に残った疲労の理由が、まさかこのようなことだったなんて。
「吟味を重ねた結果です。学業に支障が出るほどではありません」
弟は特段に難しいことをしたという気配を何も含めずにさらりと言います。
だけれども。
(成長期の次期当主の睡眠を削ってしまうだなんて……)
感謝の気持ちはもちろんのこと、胸の奥が締め付けられるような申し訳なさを覚えます。
「エリオット、なんてお礼を言ったらいいのか……」
しかしエリオットは、私のその感動にも本当に興味が薄いようでした。
「別に要りません。それよりも、これから結ぶ縁については慎重にお願いします、この件以上に僕たちの手を煩わせないように」
「気を付けます。ありがとう……」
紙束を皺にならないようにやんわりと胸へと抱くと、エリオットは不可思議そうに眉を寄せます。
「何を考えすぎているか知らないけれど、僕は本当にあそこの家と縁が繋がるのだけはごめんですから」
どの侯爵家を示しているのかが誰にでも分かるような、明確な拒否。
「……そのことも厳しく耳に書き留めておくわ……」
私は深く頷き、その決意を胸に刻みました。それぞれが馬車に乗り込む際、母が名残惜しそうに窓から顔を覗かせます。
「それでは私たちは行くけれど……くれぐれも気をつけてちょうだい」
「うむ」
差し出された紙束は不意打ちと言ってもいいような用意。驚きながらも受け取った私の横から父が覗き、呆れたような声を漏らしました。
「お前、まさかこれを作っていて睡眠にあてる時間を削ったのか」
お父様の声につられるように紙束へと視線を落とします。エリオットの言う通り、それは独身の貴族男性の名を記したものでした。
母も目を丸くして話し掛けます。
「まあ……あなた、今日一日大丈夫?」
枚数はけっして多くはないのですが、一人一人の家柄や人となりが弟の筆致で書き連ねてあるものです。
知ってる名前も知らない名前もありますが、おそらくは皆エリオットの知る人物たちなのでしょう。
彼の顔に残った疲労の理由が、まさかこのようなことだったなんて。
「吟味を重ねた結果です。学業に支障が出るほどではありません」
弟は特段に難しいことをしたという気配を何も含めずにさらりと言います。
だけれども。
(成長期の次期当主の睡眠を削ってしまうだなんて……)
感謝の気持ちはもちろんのこと、胸の奥が締め付けられるような申し訳なさを覚えます。
「エリオット、なんてお礼を言ったらいいのか……」
しかしエリオットは、私のその感動にも本当に興味が薄いようでした。
「別に要りません。それよりも、これから結ぶ縁については慎重にお願いします、この件以上に僕たちの手を煩わせないように」
「気を付けます。ありがとう……」
紙束を皺にならないようにやんわりと胸へと抱くと、エリオットは不可思議そうに眉を寄せます。
「何を考えすぎているか知らないけれど、僕は本当にあそこの家と縁が繋がるのだけはごめんですから」
どの侯爵家を示しているのかが誰にでも分かるような、明確な拒否。
「……そのことも厳しく耳に書き留めておくわ……」
私は深く頷き、その決意を胸に刻みました。それぞれが馬車に乗り込む際、母が名残惜しそうに窓から顔を覗かせます。
「それでは私たちは行くけれど……くれぐれも気をつけてちょうだい」
「うむ」
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