親同士の決め事でしょう?

泉花ゆき

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朝から装っていた寛大という仮面はじわじわと剥がれる。代わりに得体の知れない不安がじわりと広がり始めていた。

アルフレッドは、自分が拒絶されているという可能性を認めることはしていない。ただリリアーナが自分を待たせているという事実にだけ、ただ憤りを覚え始めていた。

(…………まさかとは思うが、本当に来ないというのか)

窓の外が茜色から深い群青へと変わり、庭園の木々が黒い影を落とし始めた。

アルフレッドは何度目か分からない動作で懐中時計を確認し、荒々しくバチンッと蓋を閉じる。
約束の時間は、すでに数時間も過ぎていた。

「アルフレッド様。……そろそろ、門を施錠させて頂くお時間です……」

控えていた使用人が消え入りそうな声で告げた。その言葉はつまり、リリアーナは来なかったという事実に他ならない。
静まり返った応接室において、アルフレッドのプライドを切り裂く宣告のようであった。
 
「…………好きにするがいい」
 
アルフレッドの頬が微かに震える。

(ありえない。彼女がこの僕を無視するなんて……!)

使用人には何ということのないように応えたが、その苛立ちと焦燥は誰の目から見ても明らかだった。
アルフレッドは椅子の肘掛けを指先で叩き、自らの正当性を守るための歪んだ理論を構築し始める。

そして一つの、彼だけの答えに辿り着いた。

(……そうか、手紙が……?)

昨晩、酒の勢いで書き殴った言葉の断片を思い出す。

具体的には思い出せないが、相当に厳しいものだったようにも思えてきた。それも、彼女の不備を責め立てるような内容だったはずだ。

(あまりに正論を突きつけすぎたのかもしれない………)

そうであってほしい、という思いが、そうに違いない、という妄想へと変化していく。
アルフレッドの頭の中には、怯えきったリリアーナの姿が浮かぶ。

(あの繊細なリリアーナのことだ……僕の怒りに怯え、家から出られなくなっているに違いない。もしも泣いてしまったのだとしたら目が腫れて、鏡を見るのも嫌がっているのでは………)

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