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石造りの廊下に、ヒールの音だけが冷たく響いていた。
放課後の校舎は大半の生徒が帰宅している。窓から差し込む夕日が赤い。
「……本当に、どこへ行かれたのかしら」
小さく溜息を吐き出す私の腕の中には、分厚い革張りのファイルが一冊。
私はヴィクトリア・セレスティア。セレスティア侯爵家の娘であり、この国の第二王子ジェラルド殿下の婚約者である。
今日、私はずっと殿下を探し回っていた。理由は単純で、明日の予定が急遽変更になったからだ。
本来であれば、側近を通じて連絡すれば済む話であるけれど……ジェラルド殿下は「堅苦しいのは嫌いだ」と側近たちを遠ざけてしまっていることが多い。
だというのに、ご自身のスケジュール管理はずさん極まりないのだから困ったものです。
メモを渡しても読まずに捨ててしまうし、口頭で伝えても右から左へ聞き流す…… 結果として、私がこうして公務の変更を伝えるためだけに探し回る羽目になるのだ。
婚約者というよりも、小間使いのようね……
「あと探していないのは、中庭かしら……」
王族専用執務室にも、食堂にもいなかった。図書室も覗いてみたけれど姿はない。
そうなるとあの方が行きそうなところの中で、残る場所は限られている。
殿下が息抜きと称して好んで訪れる、人目の少ない裏庭のガゼボだ。屋外にありながらも椅子と屋根があって、休めるようになっている。
私は足早に中庭へと続く回廊を抜けた。手入れの行き届いた植え込みの陰に隠れるように、白いガゼボが建っている。
季節外れの薔薇が咲き誇るその場所へ近づくにつれ、風に乗って甘ったるい香りと……それ以上に甘く、あまり聞きたくないような声が聞こえてきた。
「……だってぇ、ヴィクトリア様が怖いんですものぉ」
足が止まる。心臓がどくんと嫌な音を立てた。私の名を呼んだ、その猫なで声には聞き覚えがあったから……
ここ最近、殿下に付き纏っている男爵令嬢のミナだ。
放課後の校舎は大半の生徒が帰宅している。窓から差し込む夕日が赤い。
「……本当に、どこへ行かれたのかしら」
小さく溜息を吐き出す私の腕の中には、分厚い革張りのファイルが一冊。
私はヴィクトリア・セレスティア。セレスティア侯爵家の娘であり、この国の第二王子ジェラルド殿下の婚約者である。
今日、私はずっと殿下を探し回っていた。理由は単純で、明日の予定が急遽変更になったからだ。
本来であれば、側近を通じて連絡すれば済む話であるけれど……ジェラルド殿下は「堅苦しいのは嫌いだ」と側近たちを遠ざけてしまっていることが多い。
だというのに、ご自身のスケジュール管理はずさん極まりないのだから困ったものです。
メモを渡しても読まずに捨ててしまうし、口頭で伝えても右から左へ聞き流す…… 結果として、私がこうして公務の変更を伝えるためだけに探し回る羽目になるのだ。
婚約者というよりも、小間使いのようね……
「あと探していないのは、中庭かしら……」
王族専用執務室にも、食堂にもいなかった。図書室も覗いてみたけれど姿はない。
そうなるとあの方が行きそうなところの中で、残る場所は限られている。
殿下が息抜きと称して好んで訪れる、人目の少ない裏庭のガゼボだ。屋外にありながらも椅子と屋根があって、休めるようになっている。
私は足早に中庭へと続く回廊を抜けた。手入れの行き届いた植え込みの陰に隠れるように、白いガゼボが建っている。
季節外れの薔薇が咲き誇るその場所へ近づくにつれ、風に乗って甘ったるい香りと……それ以上に甘く、あまり聞きたくないような声が聞こえてきた。
「……だってぇ、ヴィクトリア様が怖いんですものぉ」
足が止まる。心臓がどくんと嫌な音を立てた。私の名を呼んだ、その猫なで声には聞き覚えがあったから……
ここ最近、殿下に付き纏っている男爵令嬢のミナだ。
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