婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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そろり、とわたしはもう一度二人の方を覗き見る。視界に入る殿下の顔には笑みが浮かんでいた。私には一度たりとも向けられたことのないような、甘い存在を見る時の笑顔。

「そう焦るな……僕だって、あのような女にはうんざりしているんだ」

殿下は困ったような、それでいて嗜虐的な笑みを浮かべていた。 

「顔を合わせれば公務だ予算だ、説教ばかり。可愛げのかけらもない」 

「ですよねぇ!私なら、ジェラルド様がにってしてくれるだけで幸せなのにぃ」 

「もちろん……君だけが僕を癒してくれるんだ。……安心していい。準備は進めている」

殿下は勝ち誇ったように話しを続ける。

「来月のデビュタント。あの夜を、僕たちの記念日にしよう」

「えっ?デビュタントって……貴族が集まる、あの?」

「そうだ。あの華やかな舞台こそ、僕たちの仲を公表するのにふさわしい。大勢の貴族の前で、僕は高らかに宣言してやるさ。ヴィクトリアとの婚約を破棄し、君を新たな婚約者に選ぶとね!」

がんと、何か硬いもので頭を殴られたような衝撃を感じる。
来月のデビュタント……それは私が一年も前から準備を進めて予算を組んだ儀式。
招待状の手配から警備体制の構築まで、すべてを取り仕切っている夜会だ。

私が整えた舞台で、私と婚約破棄をする……?
そして、あの女との婚約が発表される……

「素敵っ、まるでこの前一緒に観劇した物語みたい!」 

「そうだろう?それに……その時、あの女の澄ました顔がどれほど歪むか見ものだ。泣いて縋ってくるかもしれないな」

「捨てないでくださあい!って言われるかもしれませんよぉ?」

「もちろん言うだろう、何せあいつの存在意義なんてそれしかないんだ。ちゃんと側室にでもしてこき使ってやるさ」

「うふふ、お仕事大好きなんでしょお?絶対喜びますっ。ずっと二人で、使ってあげましょうね」

「ぷっ……あまりに無様だな。あいつの悪役顔がぐちゃぐちゃになるところが簡単に想像出来る。笑うなよ?ミナ」
 
「ふふっ、ちゃんと我慢しまあす。でもざまぁみろですね!あー楽しみ。早くその日にならないかなぁ」

二人の笑い声が重なる。世界には自分たちしかいないとでも言うように彼らは抱き合い、再び唇を重ねようとしていた。

その光景を見て……

(……ああ、そう)
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