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(馬鹿みたい……)
乾いた瞳からは当然のように涙は出なかった。……確かに、冷たいのかもしれない、と自分でも感じた。
婚約者の不貞を前にして、こんな風に思っているだなんて。
それどころか、心が急速に冷えていくのを感じていた。私が必死に支え守ろうとしていた婚約者としての何もかもも、当の本人にとっては邪魔な足枷でしかなかったのだ。
(ああ……どうしてやろうかしら。私がここで何を知っても、何の証拠にもならないの……?)
けれどもこのまま、何の覚悟も持っていないあの婚約者のために自分をすり減らしてしまうのは嫌……
「見事なものだな」
すぐ背後で、低い声がした。心臓が跳ね上がる。慌てて振り返ると、そこには黒い影が立っていた。
「……!」
声を出そうとして、慌てて口元を手で覆う。
そこにいたのは、漆黒の髪に黄金の瞳を持つ長身の青年。公爵家の嫡男、ジークフリート様だった。
王立学園の生徒会長を務め、その卓越した手腕と人を寄せ付けない冷徹な雰囲気から遠巻きにされているが、ひそやかに貴公子などと呼ばれて男女ともにファンの多いお方。
彼は私と同じように、植え込みの陰からガゼボの惨状を見つめていた。黄金の瞳は、侮蔑の色を隠そうともしていない。
「ジークフリート様……なぜ、ここに」
「おそらくは君と同じだ、明日の件で殿下に確認を取りに来た。……だが、随分と盛り上がっているようだな」
彼は皮肉っぽく口の端を歪めた。金色のまなざしは鋭く、相対する私は思わず目を伏せてしまう。今の私は、どんな顔をしているのだろう。婚約者の浮気現場を目撃し、絶望に打ちひしがれた惨めな女の顔だろうか。
「……お聞きになりましたのね」
「ああ。デビュタントでの計画も、君への評価も」
彼は何の感慨もないような声で頷いた。……下手に同情されるよりは、マシに感じる。
「殿下は、君が泣いて縋るのが見ものだ、と言っていたが……どうやら予想は外れることになりそうだな」
乾いた瞳からは当然のように涙は出なかった。……確かに、冷たいのかもしれない、と自分でも感じた。
婚約者の不貞を前にして、こんな風に思っているだなんて。
それどころか、心が急速に冷えていくのを感じていた。私が必死に支え守ろうとしていた婚約者としての何もかもも、当の本人にとっては邪魔な足枷でしかなかったのだ。
(ああ……どうしてやろうかしら。私がここで何を知っても、何の証拠にもならないの……?)
けれどもこのまま、何の覚悟も持っていないあの婚約者のために自分をすり減らしてしまうのは嫌……
「見事なものだな」
すぐ背後で、低い声がした。心臓が跳ね上がる。慌てて振り返ると、そこには黒い影が立っていた。
「……!」
声を出そうとして、慌てて口元を手で覆う。
そこにいたのは、漆黒の髪に黄金の瞳を持つ長身の青年。公爵家の嫡男、ジークフリート様だった。
王立学園の生徒会長を務め、その卓越した手腕と人を寄せ付けない冷徹な雰囲気から遠巻きにされているが、ひそやかに貴公子などと呼ばれて男女ともにファンの多いお方。
彼は私と同じように、植え込みの陰からガゼボの惨状を見つめていた。黄金の瞳は、侮蔑の色を隠そうともしていない。
「ジークフリート様……なぜ、ここに」
「おそらくは君と同じだ、明日の件で殿下に確認を取りに来た。……だが、随分と盛り上がっているようだな」
彼は皮肉っぽく口の端を歪めた。金色のまなざしは鋭く、相対する私は思わず目を伏せてしまう。今の私は、どんな顔をしているのだろう。婚約者の浮気現場を目撃し、絶望に打ちひしがれた惨めな女の顔だろうか。
「……お聞きになりましたのね」
「ああ。デビュタントでの計画も、君への評価も」
彼は何の感慨もないような声で頷いた。……下手に同情されるよりは、マシに感じる。
「殿下は、君が泣いて縋るのが見ものだ、と言っていたが……どうやら予想は外れることになりそうだな」
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