婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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「……けれども同時に、どのような可能性も否定すべきではないと考えております」

「屁理屈を言うな、どうせお前がやったに決まっていることを……」

殿下は私の言葉を頭から否定した。 彼の中では、世界はミナが善であるということとヴィクトリアか悪であるという単純な構造で成り立っているらしい。

…………何度も考えはしてきたけれど、婚約者のいる相手に近付き不貞をしている女のどこを善だと思っているのかしら。

「素手で破けないなら、道具を使ったんだろう。ハサミか、ナイフか……とにかく、刃物を使って切り刻んだに違いない」

「刃物ですか」

ようやく、議論が物理的な話に移りはしたが。

「確かに鋭利な刃物を使えば、羊皮紙を裁断することは可能です。ですが殿下、この断面は毛羽立っておりますし……ハサミで切ったような滑らかな線ではありません」

「だ、だったら……ペーパーナイフのようなもので、無理やり押し切ったに違いない」

「ペーパーナイフ……」

その単語が出た瞬間、ミナ嬢の顔が微かに強張ったのを私は見逃さなかった。

「そうですね……そのようなもので繊維を押し潰すように切断すれば、このような無惨な断面になるかもしれません」

私は頷いてみせた。

「けれども、ここでもう一つ疑問が生じます。時間と手間の問題です」

私は床に散らばる紙片の一つを拾い上げようとして、思いとどまった。自分の痕跡が移るなどして、難癖を付けられてはたまらない。

「これほど細かく、原形を留めないほどに切り刻むには相当な時間がかかるのでしょうね。一枚一枚、ペーパーナイフでそんなことをされるなんて……」

代わりに手で紙片を示した。

「私が先程の僅かな時間で誰にも気づかれずに、この作業を完遂できたと思われますか?」

「お前ほどの恨みを持つものなら何も不思議ではないだろう……」

ジェラルド殿下の顔にも、疑念が浮かんできたようだったが。けれども未だに犯人が私である、というご立派な主張は続けていくようだった。

「百歩譲って、私が何らかの早業でそれを成し遂げたとしましょう。では、その際に使われた道具が一体どこにあるというのでしょうか」

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