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ミナ嬢が答えあぐねていた、その時。
「随分と賑やかなことだ」
教室の入り口から、涼やかな声が響いた。その声には、ざわついていた教室の空気も引き締まるように静けさを得る。
「ジークフリート様……」
生徒たちが自然とその人物に対して道を開けた。現れたのはジークフリート様だ。
彼の手には一対の白い手袋と、何か小さなガラス瓶のようなものが握られている。
「教科書が損壊されたと生徒会へ報告が入った。……どうやら、それのようだな」
「ほ、報告って……!一体誰がっ」
ミナがぎょっとしてジークフリート様を見る。しかしジークフリート様はその言葉にも取り合わずに手袋を着用し始める。
「魔術科の研究室から試薬を借りてきた。これを使えば、痕跡など数秒で判別できるはずだ」
小瓶を手にしながらジークフリート様が言う。その姿に、ミナが青褪めて何か言おうとするが、先に叫んだのはジェラルド様だった。
「ジ、ジークフリート!なぜここへ……」
ジェラルド殿下の声が荒くなる。殿下にとって公爵令息であるジークフリート様は、身分こそ下だが能力的には頭の上がらない苦手な相手……
その彼があろうことか証拠判定の道具を持って現れたのだから、動揺するのも無理はない。
ジークフリート様は、ジェラルド殿下の動揺にも構うところはないようだった。
「なぜ、とは異なことを仰る。学園の風紀維持は生徒会長である私の務めです。特に、貴重な備品である教科書の損壊……および冤罪騒動となれば、見過ごすわけにはいきません」
「え、冤罪とはどういうことだ。僕は正しいことを言っている!ヴィクトリアがやったに決まっているんだ!」
「それはこれから分かることです」
ジークフリート様は冷ややかに殿下を見据えた。
「けれども……廊下で聞いておりましたが、ヴィクトリア嬢は自身の無実を証明するために所持品を差し出していた。さらには鑑定を提案したそうですね。対して、被害者であるはずのミナ嬢はそれを頑なに拒んでいる。……客観的に見て、どちらがやましい態度を取っているかは明白ですが」
「うっ……そ、それは……ミナが優しいからだ!婚約者に何かあればこちらの体裁に関わると……っ」
「優しさですか」
ジークフリート様は、床に座り込んだまま青ざめているミナ嬢に視線を移した。
「随分と賑やかなことだ」
教室の入り口から、涼やかな声が響いた。その声には、ざわついていた教室の空気も引き締まるように静けさを得る。
「ジークフリート様……」
生徒たちが自然とその人物に対して道を開けた。現れたのはジークフリート様だ。
彼の手には一対の白い手袋と、何か小さなガラス瓶のようなものが握られている。
「教科書が損壊されたと生徒会へ報告が入った。……どうやら、それのようだな」
「ほ、報告って……!一体誰がっ」
ミナがぎょっとしてジークフリート様を見る。しかしジークフリート様はその言葉にも取り合わずに手袋を着用し始める。
「魔術科の研究室から試薬を借りてきた。これを使えば、痕跡など数秒で判別できるはずだ」
小瓶を手にしながらジークフリート様が言う。その姿に、ミナが青褪めて何か言おうとするが、先に叫んだのはジェラルド様だった。
「ジ、ジークフリート!なぜここへ……」
ジェラルド殿下の声が荒くなる。殿下にとって公爵令息であるジークフリート様は、身分こそ下だが能力的には頭の上がらない苦手な相手……
その彼があろうことか証拠判定の道具を持って現れたのだから、動揺するのも無理はない。
ジークフリート様は、ジェラルド殿下の動揺にも構うところはないようだった。
「なぜ、とは異なことを仰る。学園の風紀維持は生徒会長である私の務めです。特に、貴重な備品である教科書の損壊……および冤罪騒動となれば、見過ごすわけにはいきません」
「え、冤罪とはどういうことだ。僕は正しいことを言っている!ヴィクトリアがやったに決まっているんだ!」
「それはこれから分かることです」
ジークフリート様は冷ややかに殿下を見据えた。
「けれども……廊下で聞いておりましたが、ヴィクトリア嬢は自身の無実を証明するために所持品を差し出していた。さらには鑑定を提案したそうですね。対して、被害者であるはずのミナ嬢はそれを頑なに拒んでいる。……客観的に見て、どちらがやましい態度を取っているかは明白ですが」
「うっ……そ、それは……ミナが優しいからだ!婚約者に何かあればこちらの体裁に関わると……っ」
「優しさですか」
ジークフリート様は、床に座り込んだまま青ざめているミナ嬢に視線を移した。
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