婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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学園に入学してからの日々は、まさに積み上げた砂の城が崩されていくばかりの毎日だった。

ミナ・ペルルという人物は、瞬く間にジェラルド殿下の日常に入り込む。彼女の手口は単純だった。
殿下が少しでも辛いだとか面倒だとかという顔をすれば、即座に彼を持ち上げにいった。

『ジェラルド様ってばすごい』

『無理しなくていいんですぅ』

『ありのままのジェラルド様が一番素敵!』

……それは、重圧に耐えていた彼の心には、さぞ甘美な蜜の味だったことだろう。 
けれども彼は王族で国の公務に関わる存在。為政者にとってその蜜は、思考を麻痺させる毒でしかなかった。

ある日の放課後のことだった。 

私は約束通り、殿下と図書室で次期試験の勉強をするはずだった。けれども、約束の時間になっても彼は現れない。
探し回った末に見つけた、彼は中庭のベンチで惰眠を貪っているところだった。
……こともあろうに、ミナの膝枕で。

『……殿下。ここは寝室ではございません』

私が声をかけると、殿下は不機嫌そうに片目を開けた。

『なんだ、ヴィクトリアか。せっかく気持ちよくまどろんでいたのに……』

『明日は試験がございます。前回は、基準点よりも低かったことをお忘れですか……対策をしたいと、あなたから仰っていたのに』

『うるさいな! 今は休憩中だと言っているだろう!』

殿下はうるさそうに私の言葉を遮った。

『あーあ、ヴィクトリア様ってば、本当に厳しいんですねぇ』

口を挟んだのは、私の存在など意に介さずに殿下の髪を弄っていたミナだった。

『ジェラルド様は、公務でお疲れなんです。おかわいそう……少し休むくらい、許してあげればいいのに』

『……休憩とおっしゃいますが、授業が終わってからもう一時間も経過しております。これ以上は……』

私がたしなめると、彼女は頬を膨らませながら身を起こした殿下の方へとすり寄り始めた。

『ほらぁ、また怒られた。怖いですねぇ、ジェラルド様』

『……全くその通りだ』

殿下は私を睨みつけた。その目にはもはや私に向けていた信頼の色はなく、明確な敵意が宿っていた。

『お前には人の心というものがないのか?ミナの言う通りだ……僕がどれだけ疲れているか、お前は想像しようともしない。ただ機械のようにやれ勉強しろだの命令するだけだ』

『命令など……私は……』

『もういい、今日の勉強は中止だ。お前の顔を見ているだけで気分が悪くなる!』

『……っ』

『あーあ。せっかくいい気分だったのに台無しですねぇ。邪魔が入っちゃった』

そう言って、彼はミナ嬢を連れて去っていく。残された私は、呆然と立ち尽くすしかなかった。
ミナは、ただ楽しそうに棒立ちとなったくすくすと笑い、殿下に腕を絡ませながら去っていった。



(……過去に戻れるなら、その時の自分に伝えたいわ。さっさと見切りをつけた方がいい、と……)

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