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「失望……?僕に向かって、お前が……!」
「ええ。わたくしが夜な夜な手伝っていたのは婚約者として、この国の民として……あなたのような立場を持つ方が堕落していくのを見過ごせなかっただけです」
「彼女に対しても、ご学友であるという以上の感情を持ち合わせておりません。ましてや嫉妬などと」
ヴィクトリアからすれば当然、ミナに対してマイナス面では思うことは多々ある。けれどそれは羨ましいなどと考えるようなことではなかった。
「……だというのに、そのような方との時間にうつつを抜かして……ご自身一人では何もできないだなんて、今更おっしゃいませんわよね?」
「ぐ……っ」
ジェラルドは顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりと忙しく表情を変えたが、ヴィクトリアの冷徹な正論を跳ね返す言葉は出てこなかった。
「さあ、殿下。お喋りの時間は終わりです」
ジークフリートが、机の上の書類の山を示す。
「先程言っていたように明日の朝までに、その全てを完璧に終わらせてください。もし一つでもミスがあれば、あるいは白紙のままであれば……」
「な、何だと言うんだ……」
「陛下にありのままを報告しなければ。殿下には執務能力がなく、婚約者に全てを押し付け……さらには公金を私的に流用しようとしたとね」
「……っ!」
ジェラルドは、絶望的な表情で書類の山を見つめた。
学園外に持ち出されては叱責がどう降りるか分からない。しかも眼の前の公爵令息は、それをやると言ったら本当にやってしまうのだろう。
当のジークフリートは涼しい顔をしてヴィクトリアへ話し掛ける。
「参りましょう、ヴィクトリア嬢。仕事熱心な殿下の邪魔をしてはいけません」
「ええ。……それでは、ジェラルド様。失礼いたします」
「な……待て!ヴィクトリア、行くな……何のためにお前を呼んだと……っ」
ジェラルドの情けない叫びが背後で響いたが、二人が足を止めることはなかった。
バタン、と扉が閉まる音。直後に室内から何かが激しく倒れる音と、ジェラルドのうめき声が聞こえてきたが、二人は気にも留めなかった。
「ええ。わたくしが夜な夜な手伝っていたのは婚約者として、この国の民として……あなたのような立場を持つ方が堕落していくのを見過ごせなかっただけです」
「彼女に対しても、ご学友であるという以上の感情を持ち合わせておりません。ましてや嫉妬などと」
ヴィクトリアからすれば当然、ミナに対してマイナス面では思うことは多々ある。けれどそれは羨ましいなどと考えるようなことではなかった。
「……だというのに、そのような方との時間にうつつを抜かして……ご自身一人では何もできないだなんて、今更おっしゃいませんわよね?」
「ぐ……っ」
ジェラルドは顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりと忙しく表情を変えたが、ヴィクトリアの冷徹な正論を跳ね返す言葉は出てこなかった。
「さあ、殿下。お喋りの時間は終わりです」
ジークフリートが、机の上の書類の山を示す。
「先程言っていたように明日の朝までに、その全てを完璧に終わらせてください。もし一つでもミスがあれば、あるいは白紙のままであれば……」
「な、何だと言うんだ……」
「陛下にありのままを報告しなければ。殿下には執務能力がなく、婚約者に全てを押し付け……さらには公金を私的に流用しようとしたとね」
「……っ!」
ジェラルドは、絶望的な表情で書類の山を見つめた。
学園外に持ち出されては叱責がどう降りるか分からない。しかも眼の前の公爵令息は、それをやると言ったら本当にやってしまうのだろう。
当のジークフリートは涼しい顔をしてヴィクトリアへ話し掛ける。
「参りましょう、ヴィクトリア嬢。仕事熱心な殿下の邪魔をしてはいけません」
「ええ。……それでは、ジェラルド様。失礼いたします」
「な……待て!ヴィクトリア、行くな……何のためにお前を呼んだと……っ」
ジェラルドの情けない叫びが背後で響いたが、二人が足を止めることはなかった。
バタン、と扉が閉まる音。直後に室内から何かが激しく倒れる音と、ジェラルドのうめき声が聞こえてきたが、二人は気にも留めなかった。
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