婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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確かに彼女は書類の上に紅茶をたっぷりとこぼしてしまった。けれどミナの認識では、あんな邪魔な場所に書類を広げていた王子の方が悪いのであり、自分はむしろ紅茶をこぼされた被害者ということになっている。

『せっかく用意してやったのに何よ!ていうかドレスまで断られちゃうなんてどういうこと……?』

ミナは焦りを感じ始めていた。

このゲームにおいて、夜会でのドレスアップは攻略対象の好感度パラメータを一気に引き上げるためのものだ。ここに高価なアクセサリーが加われば、その効果はさらに跳ね上がる。

ミナの本命は、あくまで公爵令息のジークフリート。

彼を確実に落とすためには、夜会の場で他の誰よりも輝く姿を見せつけなければならない。それこそあの忌々しい侯爵令嬢ヴィクトリアを圧倒するほどでなければ意味がないのだ。

そのためには、本命の恋人にふさわしい最高級のドレスがどうしても必要だった。

……けれども現状、彼女にはその対価として用立てることの出来るものがない。
散々来たジェラルドからも、見返りを得ることなく追い出されてしまうだなんて。

(財布がいなくなっちゃった……他に使えそうな手駒ってまだあったかなぁ)

廊下を歩く足取りが、いつの間にか重くなっていく。
何もかもがおかしかった。

ジェラルドの攻略難易度が、まるで急なアップデートでも入ったかのように跳ね上がってしまったのもその一つだった。

(……信じらんない。それもこれも全部あの女のせいなんだろうけど……)

ミナは廊下を進みながら、内心で毒づいた。
あの悪役令嬢がやるべき執務をすべてジェラルドに押し付け、彼を余裕のない状態に追い込んだ。

あいつさえ余計な真似をしなければ、ジェラルドは今頃クッキーを食べてミナを膝に乗せたっぷりと甘やかしていたはずだった。

(ま、でも……逆に言ったら、よ?)

ジェラルドは執務さえ片付けばまた元のように自分を甘やかす都合のいい王子に戻るということだ。

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