婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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彼女は優雅だと……少なくとも、本人はそう感じているような仕草でご自身の髪をゆっくりと肩の後ろへと払った。
湾曲わんきょくな貴族らしい棘の在り方だった。以前のサロンではあれだけ顔を赤くして黙り込んでいたのに、したたかなことだと思う。

明らかに難癖をつけるような含みのある笑いを浮かべた彼女の言葉に、周囲の令嬢たちが息を呑むのが分かった。
私は手に開いていた作業書をゆっくりと閉じる。そうしてから彼女の視線を正面から受け止めた。

「ソフィア様が以前の私をそうまで頻繁に観察してくださっていたとは、存じ上げませんでした」

口元のみで微笑んであまり抑揚のない声で返すと、彼女は一瞬だけ言葉に詰まったようだった。今ので動揺を誘えるとでも思っていたのだろうか。あいにくとこちらは動じることなく、自身の袖口に施された刺繍へと視線を落とす。
精緻に差し込まれている刺繡糸すらも入手の困難そうな代物だった。

「背伸び、とおっしゃいましたけれど……確かにそうかもしれません」

視線をソフィアへと戻すと、私が素直に認めたからかどこか訝しい表情をしている。

「これまではただ、指定されたものを取り寄せて着用するばかりでしたから。正直に申し上げて、流されていたようなものでした」

言いがかりのように声を掛けられたけれども、強く突き放す気にはならなかった。それは、余裕の表れにもなるのかもしれない。

「けれどもこれからはこのような……自分の肌に合うものを纏うことも。無理をしているなどと思われないようにこなしていきたいわ」

自らの過ちを認めるような静かな物言いに、彼女の表情が強張る。嫌味を言いに来たはずの相手が、そのことに何の気も配らない佇まいで自省を口にしたからだろうか。

「……っ、そんな殊勝なことをおっしゃっても。急にそのような色を纏ったところで、周囲が驚くだけかと思うわ」

ふ、と唇には笑みが漏れてしまう。随分と子供じみた言い掛かりに変わってしまったようだった。

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