婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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立ち上がり、壁に掛けられたドレスの傍らへと歩み寄った。滑らかな生地が、医務室の光を反射して静かに光っている。それを手にとって彼女の隣へと座ると、隣からそっと身体へと合わせた。

「……でしたら、このドレスに相応しい振る舞いを身に着けるつもりで」

ぱっとソフィアが顔を上げてこちらを見た。

「どの道、着替えは必要なのでしょう。でしたらこのドレスに着替えて、堂々と顔を上げてお帰りになって」

ソフィアは手を伸ばし、ドレスへと触れた。今私の着ているものと形や色は違えと生地の上質さに差はなく、なめらかな触り心地が直に触れていることだろう。

「……ありがとうございます、ヴィクトリア様」

元より彼女は、私のドレスに強い関心を示していた内の一人だった。声には心無しか活力のようなものが含まれている気がする。

頬にも血色が戻ってきていた。休息とハーブティーもよかったのかもしれない。その姿を見て、口許に笑みを作る。 

「どういたしまして。……ここで待っているから、着替えはあちらでどうぞ」

そう言うと、控えていた侍女が入室しソフィアをカーテンの向こうへと促す。

「失礼いたします、ソフィア様」

「ええ……」

私は再びソファに腰を下ろし、冷めかけたハーブティーに口をつけた。カーテンの向こうからは、衣擦れの音と、コルセットの紐を引くようなかすかな音が聞こえてくる。

「……ヴィクトリア様、まだいらしてくださるの?」

衝立の向こうから、ソフィアの声が聞こえた。

「ええ。着替えが終わるまで、話し相手が必要でしょう?」

私は手元のカップを見つめたまま答えた。
医務官はソフィアの診察を終えた時から席を外している。元々今日は授業などない日なのだから、この部屋をもう少し借りていても構わないのだろう。

医務室の静かな空間に、侍女がソフィアの身なりを整える動作音だけが響く。
不意にソフィアからの問いが聞こえた。

「先ほどのあの方は……ミナ嬢は、あなたに対していつもあのような振る舞いをなさるのですか」

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