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レストランを出た私は、そのまま馬車をタウンホールへと走らせた。
(……前日に、打ち合わせに行くと言っても。私の場合は何の不思議でもないことよね)
季節外れの冷たい風は頭の中の雑音を削ぎ落としてくれる。ギルベルト様の推測が正しければ……ヴィンセントはリリアンに唆され、婚約披露パーティーへ何らかの綻びを作ろうとするのだろう。
(彼を単純に欠席させるものだと思っていたけれど……あれだけ脅してしまったから、別の手で来てもおかしくはないわ)
「お嬢様、到着いたしました」
「ありがとう……馬車はこのまま、そこへ駐めておいてちょうだい」
「かしこまりました」
白亜のタウンホールには、予想通りに人がいた。明日の準備のためにも、事務官たちが詰めているのだろう。
「これはエルアナ様、ようこそおいでくださいました」
正面入り口ではなく、関係者用の通用口から中へ入る。慣れ親しんだ廊下を進み、事務局へと向かう扉に手をかける。
突然の訪問にも関わらず、中にいた壮年の責任者はにこやかに私を出迎えてくれた。
「急にごめんなさい、明日へ向けて簡単な打ち合わせと……それから別途、確認したいことがあるのだけれど……」
「確認でございますか、何なりとお申し付けください」
「その……ヴィンセントは、こちらへ顔を出したことがあったかしら。明日……私とパーティーを上げる、婚約者なのだけれど」
(……何て間抜けな紹介の仕方かしら。明日ここへ来るだけで義務の果たせることとは言え、肝心の主役が責任者と面通しも済ませていないだなんて)
ヴィンセントは、準備は愚か挨拶にも来たことがない、と言っているようなものだ。彼というよりも、その影にいるリリアンの影響だろう。
婚約に関わることをことごとく邪魔をして来ているのだから。
私が密やかに自重をしている間に、その責任者は書類を捲った。
「……いえ、お越しになってはいないようです。何か私共とで行き違いがございましたか」
(……前日に、打ち合わせに行くと言っても。私の場合は何の不思議でもないことよね)
季節外れの冷たい風は頭の中の雑音を削ぎ落としてくれる。ギルベルト様の推測が正しければ……ヴィンセントはリリアンに唆され、婚約披露パーティーへ何らかの綻びを作ろうとするのだろう。
(彼を単純に欠席させるものだと思っていたけれど……あれだけ脅してしまったから、別の手で来てもおかしくはないわ)
「お嬢様、到着いたしました」
「ありがとう……馬車はこのまま、そこへ駐めておいてちょうだい」
「かしこまりました」
白亜のタウンホールには、予想通りに人がいた。明日の準備のためにも、事務官たちが詰めているのだろう。
「これはエルアナ様、ようこそおいでくださいました」
正面入り口ではなく、関係者用の通用口から中へ入る。慣れ親しんだ廊下を進み、事務局へと向かう扉に手をかける。
突然の訪問にも関わらず、中にいた壮年の責任者はにこやかに私を出迎えてくれた。
「急にごめんなさい、明日へ向けて簡単な打ち合わせと……それから別途、確認したいことがあるのだけれど……」
「確認でございますか、何なりとお申し付けください」
「その……ヴィンセントは、こちらへ顔を出したことがあったかしら。明日……私とパーティーを上げる、婚約者なのだけれど」
(……何て間抜けな紹介の仕方かしら。明日ここへ来るだけで義務の果たせることとは言え、肝心の主役が責任者と面通しも済ませていないだなんて)
ヴィンセントは、準備は愚か挨拶にも来たことがない、と言っているようなものだ。彼というよりも、その影にいるリリアンの影響だろう。
婚約に関わることをことごとく邪魔をして来ているのだから。
私が密やかに自重をしている間に、その責任者は書類を捲った。
「……いえ、お越しになってはいないようです。何か私共とで行き違いがございましたか」
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