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【番外編】甘い言葉を唇にのせて
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「よし、俺の勝ちだ!」
よっぽど嬉しかったのか、ザフィルは腕を突き上げて高らかに叫ぶ。
「悔しい……! あと少しだったのに!」
対するファテナは、拳を握りしめて唇を尖らせる。
寝台の上で小さな盤を挟んで向かい合う二人の表情は、対照的だ。
ザフィルが行商人から買い求めたという玩具を持ってきたので、寝る前に少しだけ遊んでみようと試しに始めたところ、つい白熱してしまったのだ。
どうせなら何かを賭けようと、負けた方が勝った方の言うことをひとつだけ聞くという約束までして。
「それで、ザフィルは何を望むの?」
敷布の上に散らばった玩具を片付けながら、ファテナはザフィルを見上げる。
悔しいけれど、勝負に負けたのだから仕方ない。それに、彼が何を言い出すのかは純粋に興味があった。
「そう、だな……」
勝利の余韻に浸っているのか、嬉しそうに緩む頬を押さえながらザフィルがファテナをそっと抱き寄せた。そして耳元に顔を寄せて囁く。
「あのな。俺のことをどう思ってるのか……聞きたい」
「え?」
思いがけない内容に、ファテナは目を瞬く。
自分が勝ったなら、ザフィルには美味しい菓子をねだろうと考えていたファテナにとって、彼の望みはあまりに抽象的過ぎた。
族長として日々頑張るザフィルのことを、褒めればいいのだろうか。今更ファテナの気持ちを疑うわけもないだろうし、彼が何を求めているのか分からない。
困惑して首をかしげたファテナを見て、ザフィルは低く唸って口元を押さえると横を向いた。こちらに向いた耳が、何故か真っ赤になっている。
「だってほら、あんたはなかなか気持ちを口にしてくれないから。時々は、その……甘い言葉を聞きたく、なるんだ」
「え、あ……」
思わずファテナは言葉に詰まった。確かにファテナは、ザフィルに対して自分の想いを伝えることが少ない。抱かれている時には、いつも好きだと伝えようとしているのだけど、彼に与えられる快楽に翻弄されて言葉にならないのだ。
だけど、そんなことを願うザフィルの言葉の方が、よっぽど甘い。
彼の耳と同じくらい真っ赤になっているであろう頬を押さえて、ファテナはうつむいた。
「なんというか……あらためて言葉にするのは、すごく恥ずかしいわ」
「だけど、負けたら言うことを聞くって約束だ」
「うぅ、そうだけど……」
頑なな様子で言い張るザフィルは、どうしてもファテナに甘い言葉を言わせたいらしい。
恥ずかしさで小さく唸りつつも、ファテナは意を決して顔を上げた。なのに、期待のまなざしでこちらを見つめる青い瞳と目が合った瞬間に何も言えなくなってしまう。
「やっぱり無理! そもそも甘い言葉なんて急に言われても……」
「何でもいいから」
「そんなこと言ったって……。ちょっと待って、少し考えるから」
「考えないと出てこないくらい、何も浮かばないってことか?」
「そ、そんなことないってば!」
拗ねたようなザフィルの言葉に、ファテナは慌てて首を振った。確かにこれでは、ファテナがザフィルに何も想いを抱いていないように思われてしまう。
ファテナは身体の中にこもる熱を逃すように深く息を吐くと、ザフィルを見上げた。
「えっとじゃあ、あの……目を、閉じて」
「目を?」
「見られていると、何だか照れてしまうから」
「分かった」
素直にうなずいて、ザフィルは目を閉じた。微かに口元が緩んでいるのは、ファテナの言葉を期待しているからだろうか。
もう一度息を吐くと、ファテナはそっと彼に顔を近づけた。
「……大好きよ、ザフィル。いつも頑張ってるあなたのことも、優しくて時々意地悪なあなたのことも、大好き」
早口で囁いて、頬に掠めるような口づけをする。それだけで全身が燃えるように熱くなった。
激しい羞恥心に襲われて敷布に顔を埋めようとしたら、ザフィルの腕に腰を抱かれて引き寄せられる。
「ありがとう、ファテナ」
耳元で聞こえたザフィルの声は、隠し切れないほどの喜びにあふれていた。彼が喜んでくれたのならいいやと、ファテナは黙ってこくりとうなずく。だけどまだ恥ずかしくてたまらないので、ファテナは真っ赤になっているであろう顔を隠すためにザフィルの胸元に頬をすり寄せてうつむいた。
「すごく嬉しいんだけどさ」
ファテナを抱きしめたまま、ザフィルが小さな声で言う。彼の手は、ファテナの髪を慈しむようにゆっくりと梳いている。少し伸びて肩を過ぎるほどになった髪は、何度ザフィルに抱かれても純白のままだ。
「どうせなら口づけは頬じゃなくて唇に欲しかったな」
髪を梳いていた指先がするりと滑ってファテナの頬に触れ、顔を上げるようにと促される。思わず見上げた先には、青空のような瞳がにっこりとファテナを見つめていた。
「か、賭けの約束は、ひとつだけよ」
「そうだな」
恥ずかしさのあまり、可愛くないことを言ったのに、ザフィルは笑ってうなずく。
「だから、口づけは俺からしよう。ファテナにもらった言葉のお礼に」
「……っ」
ファテナに甘い言葉をねだっておきながら、やっぱりザフィルの言葉の方がずっと甘い。
小さく息をのんだファテナの唇は、彼のもので優しく塞がれた。何度も啄まれて、思わずうっとりとその甘く柔らかな口づけに溺れる。
「これだけじゃ、足りないよな」
しばらくして、微かに唇を離した状態でザフィルが囁く。間近にある青い瞳の奥に情欲の色が浮かんでいるのを見て、ファテナはこくりとうなずいた。いつまでたっても、寝台の上で交わす口づけは、二人の夜の始まりの合図なのだ。
「もっとして、ザフィル。大好きなあなたに抱いてほしいの」
「それは、最高に甘い言葉だな」
嬉しそうに笑ったザフィルが、ゆっくりとファテナの身体を寝台の上に押し倒す。
お互い目を合わせて笑いあい、何度も口づけを交わしながら、二人は甘い夜を過ごした。
よっぽど嬉しかったのか、ザフィルは腕を突き上げて高らかに叫ぶ。
「悔しい……! あと少しだったのに!」
対するファテナは、拳を握りしめて唇を尖らせる。
寝台の上で小さな盤を挟んで向かい合う二人の表情は、対照的だ。
ザフィルが行商人から買い求めたという玩具を持ってきたので、寝る前に少しだけ遊んでみようと試しに始めたところ、つい白熱してしまったのだ。
どうせなら何かを賭けようと、負けた方が勝った方の言うことをひとつだけ聞くという約束までして。
「それで、ザフィルは何を望むの?」
敷布の上に散らばった玩具を片付けながら、ファテナはザフィルを見上げる。
悔しいけれど、勝負に負けたのだから仕方ない。それに、彼が何を言い出すのかは純粋に興味があった。
「そう、だな……」
勝利の余韻に浸っているのか、嬉しそうに緩む頬を押さえながらザフィルがファテナをそっと抱き寄せた。そして耳元に顔を寄せて囁く。
「あのな。俺のことをどう思ってるのか……聞きたい」
「え?」
思いがけない内容に、ファテナは目を瞬く。
自分が勝ったなら、ザフィルには美味しい菓子をねだろうと考えていたファテナにとって、彼の望みはあまりに抽象的過ぎた。
族長として日々頑張るザフィルのことを、褒めればいいのだろうか。今更ファテナの気持ちを疑うわけもないだろうし、彼が何を求めているのか分からない。
困惑して首をかしげたファテナを見て、ザフィルは低く唸って口元を押さえると横を向いた。こちらに向いた耳が、何故か真っ赤になっている。
「だってほら、あんたはなかなか気持ちを口にしてくれないから。時々は、その……甘い言葉を聞きたく、なるんだ」
「え、あ……」
思わずファテナは言葉に詰まった。確かにファテナは、ザフィルに対して自分の想いを伝えることが少ない。抱かれている時には、いつも好きだと伝えようとしているのだけど、彼に与えられる快楽に翻弄されて言葉にならないのだ。
だけど、そんなことを願うザフィルの言葉の方が、よっぽど甘い。
彼の耳と同じくらい真っ赤になっているであろう頬を押さえて、ファテナはうつむいた。
「なんというか……あらためて言葉にするのは、すごく恥ずかしいわ」
「だけど、負けたら言うことを聞くって約束だ」
「うぅ、そうだけど……」
頑なな様子で言い張るザフィルは、どうしてもファテナに甘い言葉を言わせたいらしい。
恥ずかしさで小さく唸りつつも、ファテナは意を決して顔を上げた。なのに、期待のまなざしでこちらを見つめる青い瞳と目が合った瞬間に何も言えなくなってしまう。
「やっぱり無理! そもそも甘い言葉なんて急に言われても……」
「何でもいいから」
「そんなこと言ったって……。ちょっと待って、少し考えるから」
「考えないと出てこないくらい、何も浮かばないってことか?」
「そ、そんなことないってば!」
拗ねたようなザフィルの言葉に、ファテナは慌てて首を振った。確かにこれでは、ファテナがザフィルに何も想いを抱いていないように思われてしまう。
ファテナは身体の中にこもる熱を逃すように深く息を吐くと、ザフィルを見上げた。
「えっとじゃあ、あの……目を、閉じて」
「目を?」
「見られていると、何だか照れてしまうから」
「分かった」
素直にうなずいて、ザフィルは目を閉じた。微かに口元が緩んでいるのは、ファテナの言葉を期待しているからだろうか。
もう一度息を吐くと、ファテナはそっと彼に顔を近づけた。
「……大好きよ、ザフィル。いつも頑張ってるあなたのことも、優しくて時々意地悪なあなたのことも、大好き」
早口で囁いて、頬に掠めるような口づけをする。それだけで全身が燃えるように熱くなった。
激しい羞恥心に襲われて敷布に顔を埋めようとしたら、ザフィルの腕に腰を抱かれて引き寄せられる。
「ありがとう、ファテナ」
耳元で聞こえたザフィルの声は、隠し切れないほどの喜びにあふれていた。彼が喜んでくれたのならいいやと、ファテナは黙ってこくりとうなずく。だけどまだ恥ずかしくてたまらないので、ファテナは真っ赤になっているであろう顔を隠すためにザフィルの胸元に頬をすり寄せてうつむいた。
「すごく嬉しいんだけどさ」
ファテナを抱きしめたまま、ザフィルが小さな声で言う。彼の手は、ファテナの髪を慈しむようにゆっくりと梳いている。少し伸びて肩を過ぎるほどになった髪は、何度ザフィルに抱かれても純白のままだ。
「どうせなら口づけは頬じゃなくて唇に欲しかったな」
髪を梳いていた指先がするりと滑ってファテナの頬に触れ、顔を上げるようにと促される。思わず見上げた先には、青空のような瞳がにっこりとファテナを見つめていた。
「か、賭けの約束は、ひとつだけよ」
「そうだな」
恥ずかしさのあまり、可愛くないことを言ったのに、ザフィルは笑ってうなずく。
「だから、口づけは俺からしよう。ファテナにもらった言葉のお礼に」
「……っ」
ファテナに甘い言葉をねだっておきながら、やっぱりザフィルの言葉の方がずっと甘い。
小さく息をのんだファテナの唇は、彼のもので優しく塞がれた。何度も啄まれて、思わずうっとりとその甘く柔らかな口づけに溺れる。
「これだけじゃ、足りないよな」
しばらくして、微かに唇を離した状態でザフィルが囁く。間近にある青い瞳の奥に情欲の色が浮かんでいるのを見て、ファテナはこくりとうなずいた。いつまでたっても、寝台の上で交わす口づけは、二人の夜の始まりの合図なのだ。
「もっとして、ザフィル。大好きなあなたに抱いてほしいの」
「それは、最高に甘い言葉だな」
嬉しそうに笑ったザフィルが、ゆっくりとファテナの身体を寝台の上に押し倒す。
お互い目を合わせて笑いあい、何度も口づけを交わしながら、二人は甘い夜を過ごした。
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