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前編
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今夜開催される星祭りで、最後の打ち上げ花火を二人きりで見たら、幸せになれる――。
最近SNSで話題になっている噂だ。
それにあやかって個室デートプランなんかも人気だし、想い人に星祭りへの誘いをかける人も多い。
すれ違った同僚たちが、今夜は誰と星祭りに行くのかと話しているのを聞きながら、梨香は抱えた書類の陰でため息をついた。
「いいなぁ」
ちょっと僻みっぽい口調になってしまったのは仕方ない。一週間前に告白され、付き合った人に「なんか違う」という理由で振られたばかりなのだ。多分、二回目のデートでスプラッター映画を希望したのがよくなかった。
だって、梨香の好きな映画でいいよって言ったのだ。多分彼は、その隣で公開されていた『ピュアで甘酸っぱい恋愛映画』を選ぶと思ったのだろう。
そして梨香は、映画の後にあっさりと振られてしまった。優しそうな人だったし、今度こそうまくいくと期待していたのだけど。
梨香は、服装の好みや外見から、大人しそうに見られがちだ。おしとやかで家庭的だと勘違いした男に告白されるも、中身を知られると漏れなく振られる。
実際は家事全般が苦手だし、嫌なことは嫌だとはっきり言う方だ。
可愛らしい服やメイクは好きだけど、内面とのギャップで勝手に失望されることが多いのだ。
ともかく梨香は、今夜の星祭りに行く相手も、一緒に花火を見たい人もいない。
「どこにいるのかな、私の運命の人」
つぶやいて、梨香は再び歩き始めた。
デスクに戻ると、栄養ドリンクの瓶が一本置いてあった。梨香が残業時に気合を入れるためにいつも飲んでいるものだ。よく見ると、『今日中にデータ入力お願いします!』とメモが貼り付けられている。隣に積み上げられた書類は大量で、栄養ドリンク一本では割に合わない。
「ねぇ、白川くん。私の労働力を安く買い叩きすぎじゃない? ものすごい量なんだけど」
低い声で向かいに座る男に声をかけると、彼はてへっと音が聞こえてきそうな表情で笑った。
「明日の会議で絶対必要なんですよう。俺、タイピング遅いし、もう梨香さんに頼るしかなくて。もちろん、お礼します! 駅前の立ち飲み屋、梨香さん好きでしょ」
「しょうがないな~」
ため息をつきつつ、梨香はうなずいた。梨香のタイピングは部署一の速さと言われるほどだし、頼られるのは嫌いじゃない。それに、駅前の立ち飲み屋に連れて行ってくれるなら大歓迎だ。あの店のおでんは美味しい。
「おいおい、白川。お礼の食事が立ち飲み屋って、それはないだろう。森さんなら、イタリアンとかさぁ……」
通りがかった上司がそんなことを言うのを笑ってかわし、梨香は席についた。
梨香がイタリアンよりも立ち飲み屋の方が好きなことを、白川はよく分かってくれている。五つ下の後輩である彼とは、立ち飲み屋で偶然会って以来、時々一緒に飲みに行く仲なのだ。
人懐っこい大型犬を彷彿とさせる白川には好感を抱いているものの、年が離れすぎていてさすがに恋愛対象にはならない。それでも、食の好みも映画の好みも合う彼と過ごす時間は好きだ。
終業後を楽しみにしながら、梨香はパソコンに向かった。
最近SNSで話題になっている噂だ。
それにあやかって個室デートプランなんかも人気だし、想い人に星祭りへの誘いをかける人も多い。
すれ違った同僚たちが、今夜は誰と星祭りに行くのかと話しているのを聞きながら、梨香は抱えた書類の陰でため息をついた。
「いいなぁ」
ちょっと僻みっぽい口調になってしまったのは仕方ない。一週間前に告白され、付き合った人に「なんか違う」という理由で振られたばかりなのだ。多分、二回目のデートでスプラッター映画を希望したのがよくなかった。
だって、梨香の好きな映画でいいよって言ったのだ。多分彼は、その隣で公開されていた『ピュアで甘酸っぱい恋愛映画』を選ぶと思ったのだろう。
そして梨香は、映画の後にあっさりと振られてしまった。優しそうな人だったし、今度こそうまくいくと期待していたのだけど。
梨香は、服装の好みや外見から、大人しそうに見られがちだ。おしとやかで家庭的だと勘違いした男に告白されるも、中身を知られると漏れなく振られる。
実際は家事全般が苦手だし、嫌なことは嫌だとはっきり言う方だ。
可愛らしい服やメイクは好きだけど、内面とのギャップで勝手に失望されることが多いのだ。
ともかく梨香は、今夜の星祭りに行く相手も、一緒に花火を見たい人もいない。
「どこにいるのかな、私の運命の人」
つぶやいて、梨香は再び歩き始めた。
デスクに戻ると、栄養ドリンクの瓶が一本置いてあった。梨香が残業時に気合を入れるためにいつも飲んでいるものだ。よく見ると、『今日中にデータ入力お願いします!』とメモが貼り付けられている。隣に積み上げられた書類は大量で、栄養ドリンク一本では割に合わない。
「ねぇ、白川くん。私の労働力を安く買い叩きすぎじゃない? ものすごい量なんだけど」
低い声で向かいに座る男に声をかけると、彼はてへっと音が聞こえてきそうな表情で笑った。
「明日の会議で絶対必要なんですよう。俺、タイピング遅いし、もう梨香さんに頼るしかなくて。もちろん、お礼します! 駅前の立ち飲み屋、梨香さん好きでしょ」
「しょうがないな~」
ため息をつきつつ、梨香はうなずいた。梨香のタイピングは部署一の速さと言われるほどだし、頼られるのは嫌いじゃない。それに、駅前の立ち飲み屋に連れて行ってくれるなら大歓迎だ。あの店のおでんは美味しい。
「おいおい、白川。お礼の食事が立ち飲み屋って、それはないだろう。森さんなら、イタリアンとかさぁ……」
通りがかった上司がそんなことを言うのを笑ってかわし、梨香は席についた。
梨香がイタリアンよりも立ち飲み屋の方が好きなことを、白川はよく分かってくれている。五つ下の後輩である彼とは、立ち飲み屋で偶然会って以来、時々一緒に飲みに行く仲なのだ。
人懐っこい大型犬を彷彿とさせる白川には好感を抱いているものの、年が離れすぎていてさすがに恋愛対象にはならない。それでも、食の好みも映画の好みも合う彼と過ごす時間は好きだ。
終業後を楽しみにしながら、梨香はパソコンに向かった。
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