花火の夜、大型わんこは狼になる?

夕月

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後編

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「……よし、終了!」
 勢いよくエンターキーを叩いて、梨香は顔を上げる。時計を見れば、九時前。まぁまぁ頑張った方だと思う。
「ありがとうございます! さすが梨香さん!」
 向かいで明日の会議の資料を作成していた白川が、梨香に手を合わせる。褒められて悪い気はしないので、梨香は胸を張ってみせた。
 週末だし今夜は星祭りだからか、部署内にはもう誰も残っていない。
「俺、もう少しだけかかるんで、待っててもらえます?」
「了解。先に、ロッカーの荷物取ってくるね」
「梨香さんが戻ってくるまでに、終わらせます!」
 腕まくりをした白川に笑って、梨香は更衣室へ向かった。
 軽く化粧を直し、戻ろうと廊下を歩いていると、前から白川が手を振りながら走ってきた。
「梨香さーん! 終わりましたー!」
 ブンブン振る尻尾が見えそうだと笑った瞬間、どぉんと低い音が聞こえた。
 窓の外に目を向けると、遠くの空に花火が上がっているのが見えた。
「……星祭りの花火」
 思わずつぶやくと、そばにやってきた白川もうなずいた。
「二人きりで見たら、幸せになれるらしいですよ。俺と梨香さんも、幸せになれるかな」
「え……、あれはほら、恋人同士の話だし」
 慌てて両手を振ると、その手を白川が掴んだ。
「片想いの相手を誘う場合も、ありですよね」
「冗談……」
 笑って誤魔化そうと思ったが、向けられる視線は思った以上に真剣で怖いくらいだ。
 可愛い大型犬だったはずなのに、今は狼に見える。
「花火、絶対に梨香さんと見たくて。だから、一緒に残業できるよう仕組みました」
「白川くん」
「梨香さんのこと、ずっと好きだったんです。付き合ってください」
 掴まれた手から伝わる熱が、全身に広がっていく。
「私、――」
 梨香の返事は、低く響いた花火の音にかき消された。
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