【R18】媚薬の効かない魔女と、天使で策士な元王子 〜森で拾った子供を育てたら、いつの間にか成長して迫ってくるのですが〜

夕月

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7 新しい2人の関係

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「じゃあ、改めて」
 リアンは立ち上がると、シャルの前に膝をついた。
「シャル、一生僕のそばで笑っていて。一生僕のことだけ、見ていて。……僕の運命の人」
 そう言って、リアンはシャルの手に指輪を乗せた。
「これ……は?」
 細い銀の指輪は、小さく文字が刻まれている。
 目を細めてよく見ると、それは魔女には馴染み深い古い文字で書かれた、保護の呪文。お守りなどに刻まれることの多い呪文だ。
 内側には小さな魔石が埋め込まれていて、そこから微かに感じるのは回復魔法の気配。

「僕の、母方の家に伝わるお守りの指輪。もうあの国に戻ることはないけど、その指輪は僕を守ってくれたから。シャルに出会えたのも、その指輪のおかげなんだ」
「魔女の家系だったの?」
 シャルの言葉に、リアンは笑いながら首をかしげる。
「どうかな。分からないけど、母には不思議な力があった。少しだけ、未来を見ることができたみたい。僕しか知らないことだし、いつも未来が分かるとは限らなかったみたいだけど」
 シャルの指に口づけて、リアンはそっと手を握った。

「母はあまり身分が高くなかったから、ずっと虐げられていたんだ。僕も、正妃に王子が産まれた途端にいらないもの扱いだった。一応、スペアとして生かしてはくれたけど、2人目の王子が産まれた時から、僕の存在は邪魔でしかなかったみたい」
 初めてリアンの口から語られる、過去の話。
 シャルは、黙って耳を傾ける。

「あまり身体が強くなかった母は、僕が5つの頃に亡くなったんだ。それ以降、僕は城の地下牢にずっと幽閉されていた。曲がりなりにも王の血をひく子供を殺すのは、さすがにまずいと思ったんだろうね。生かさず殺さず、の状態が長く続いたよ」
 あまりに辛い過去に、シャルは思わずリアンの手を握りしめる。リアンはその温もりに、笑みを浮かべた。

「このまま暗い地下牢で死ぬんだろうなって思ってたんだけど、国を建て直したい人たちがいたみたいでさ、騒ぎに紛れて僕も脱出することができた。誰にも見咎められることなく国境を越えて、この森に来たんだ。母に、何かあった時は森に行くようにと言われていたから。……そして、シャルに出会った。歩くのもやっとなくらい体力なかったのに、この指輪から力が溢れてきて、ここまで来ることができたんだ。母と、この指輪が、シャルのところまで連れてきてくれたんだよ」
 リアンは、愛おしそうにシャルの手を握る。

「明らかに訳ありな僕を、シャルは何も言わずに育ててくれたよね。シャルに出会って初めて、僕は人間らしい暮らしをすることができたんだ」
「そんな、大袈裟よ」
「本当だよ。だから、僕の人生は、全てシャルに捧げるって決めたんだ」
「リアン……」
 シャルはゆっくりと手を伸ばして、リアンの頭を撫でた。リアンは幸せそうに目を細める。

「シャルの優しいところも、意外とズボラなところも、仕事に一生懸命なところも、全部好き」
 まっすぐに見上げるリアンの言葉に、シャルは笑ってうなずいた。
「私もリアンが好きよ。面倒見が良くて、優しくて、チョコが大好きな可愛いリアン。いつの間に、こんなに大きくなっちゃったのかしら」
「シャルより背が低いのは、結構気にしてたんだ。だから、身体が大きくなったのは良かったよ。シャルを抱っこすることだって、できるようになったからね」
 そう言ってリアンは立ち上がって、シャルを抱き上げた。驚きに声をあげるのに笑ってキスを落とし、シャルを膝に乗せてベッドに座る。

「愛してる、シャル。王子でもない、何も持ってない僕だけど、そばにいてくれる?」
「当たり前じゃない。リアンはリアンでしかないわ。王子の肩書きなんて、必要ない。私は、今のままのリアンを愛してるわ」
 シャルの言葉に、リアンは幸せそうに笑った。

 甘く長い口づけを交わしたあと、リアンはベッドサイドの棚へと手を伸ばす。そして、小さな皮袋を取り出して、ベッドの上でひっくり返した。
 瞬間、眩いばかりの宝石がいくつも転がって、シャルは目を瞬く。
 リアンは、くすりと笑うと宝石のひとつを手に取った。

「これが、僕の唯一の財産。逃げる時に、持ってきたんだ。亡くなった母が、少しずつ貯めてくれてた宝石。いつか逃げる時に必要になるからって」
 リアンは手に取った宝石を、光にかざした。キラキラとした光が、リアンの頬に明るい影を落とす。

「本当は、色んなことをもっと早く伝えないとって思ってたんだけど、万が一僕の正体がバレて、国に連れ戻されたらと思うと怖くて。ごめん」
「もう……平気なの?」
 シャルの言葉に、リアンはうなずく。

「うん。つい先日、新しい王の子が戴冠の儀式を終えたらしいから。多分僕はもう死んだことになってると思うから、名乗り出なければ問題ない。それに僕も成人したから、もうシャルに迷惑がかかることはないよ」
 リアンが隣国の王子だと公になれば、国際問題にもなりかねない。それに、未成年の子供を、届出もせずに勝手に保護していたとなれば、シャルが罪に問われる可能性もある。リアンは、それを心配していたのだろう。

「この宝石、どれも売ればかなりの金額になると思う。だからもう、シャルには大変な思いはさせないからね」
「そんなの、気にしなくてもいいのに。こう見えて私、稼ぎは悪くないのよ?」
 ちょっと胸を張ってみせるシャルに、リアンはくすりと笑って頬に口づけた。

「あったらあるだけ使っちゃうから、貯金は少し心許ないけどね」
 悪戯っぽくリアンが言うので、シャルは胸を押さえてうめく。
「だって、稀少な薬草は見つけたら欲しくなっちゃうんだもの。採取に行く手間を考えれば、買った方が、ね」
「うん、シャルの仕事に一生懸命なところは僕も好きだからさ、シャルがお金の心配なく仕事ができるようにしたいんだ」
 リアンは抱き寄せる腕に力を込めて、シャルの頬に触れた。そして、くすりと笑う。
「シャルは、ドレスや宝石よりも、魔石や稀少な薬草を贈る方が喜ぶでしょ?だから、好きなだけ買ってあげる」
「……リアンが私の喜ぶツボを心得すぎてるわ」
「当たり前だよ。何年シャルのこと見てきたと思ってるの」
 笑いながら、リアンはシャルの指に触れた。

「だけど、指輪だけは贈らせてね。シャルが僕のものだっていう証が欲しいんだ。他の男に取られないように」
「心配しなくても、私を好きだなんて言ってくれるのは、リアンだけよ?」
「分かってないなぁ。シャルはめちゃくちゃ可愛いんだからね。シャルが王都に仕事に行く時、僕がどれほど心配してるか知らないでしょ」
 それは多分、惚れた欲目というか、分厚いフィルターがかかっているような気もするけれど、リアンは真剣な表情だ。

「だから、指輪は絶対。なんなら、ノルドにシャルは僕のだって言いに行きたいくらいだよ」
「いや、もうノルドだって忘れてるわよ。そんな必要ないからね」
 放っておいたら、本気でノルドのところに行きそうだ。シャルは慌てて首を振った。

「でも、指輪は嬉しいな。私からも、リアンに贈らせてね。私だって心配なんだから」
「本当に!?嬉しい!シャルがそんなこと言ってくれるなんて、すごく幸せ。じゃあ今度、一緒に買いに行こうね。カーラにも報告しなきゃ」
「そうね」
 うなずきながら、カーラに報告したら、あっという間に広まってしまうだろうなとシャルは苦笑した。ある意味、王都一の魔女であるカーラに認められたことになって、誰も2人に手出しはできなくなるだろうけれど。


◇◆◇


 その日の晩から、2人は寝室を一緒にした。
 もちろん一緒に寝るよね?ときらきらした目で見つめられたら、シャルは勝てない。
 一緒に寝れば、もちろんそういうことになって、シャルは朝起きられない日が増えた。
 リアンは、そんなシャルをご機嫌な様子で甲斐甲斐しく世話してくれる。
 メリッサたちにもらった回復薬は早々になくなってしまったし、自分で作ったものはあまり効かないので、カーラにでも頼んで買い置きをしておく必要があるかもしれない。それを申し出るのは、めちゃくちゃ恥ずかしいけれど。

 
 2人の関係は変わったけれど、リアンはいつだってシャルを大事にしてくれる。
 仕事の時は邪魔をしないし、シャルの嫌がることは決してしない。
 1日に何度も甘い言葉を囁かれたり、ふとした瞬間にキスをされることは増えたけれど。





「シャル、そろそろ休憩にする?今日は、ケーキを焼いたよ」
 魔法薬の調合がひと段落したタイミングで、リアンが声をかけてきた。シャルは手を洗いながら振り返る。その手には、リアンから贈られた指輪が光っている。
「ありがとう。ちょうど小腹が空いてきたところ」
「だと思った。でも、夕食は鍋料理の予定だから、あんまり食べ過ぎないでね。リカルドから、珍しいお酒をもらったんだ。冷やして飲むと美味しいんだって」
「お酒!嬉しいなー。頑張って仕事早く終わらせなきゃ」
「明日はお休みの日でしょ。だから、夜はゆっくり過ごそうね」
 にっこりと笑うリアンの表情に、微かに浮かぶのは情欲の色。2人で過ごす甘い夜を言外に匂わされて、シャルの頬は少し熱くなる。
「うん、そうだね」
 ストレートに愛情を向けてくるリアンのことは好きだけど、シャルはどうしても照れてしまう。
 リアンは、くすりと笑うとシャルの耳元に唇を寄せた。

「ねぇ、シャル。今夜は、あのワンピースを着て欲しいな」
「……っ」
 ハロウィンの晩に着ていたワンピースは、リアンの前でだけなら着てもいいらしく、あの日以来何度か着て欲しいとリアンにリクエストされる。
 着たらもちろん、リアンは大興奮でシャルをベッドに連れ込むのだけど。

「だめ?」
 囁きながら、かぷりと耳を甘噛みされて、シャルは小さく悲鳴をあげた。
「だめ、じゃない……からっ」
「やったぁ!じゃ、おやつにしよう。紅茶が冷めちゃう」
 さらりと離れていくリアンに、シャルは思わず頬を押さえてため息をついた。
 シャルは、リアンに翻弄されてばかりだ。
 だけど、そんな日々が嫌いではない。
 これから先もリアンとなら、ずっとこうして笑って過ごしていけると、シャルは信じられる。

「大好きよ、リアン。ずっとそばにいてね」
 小さな声でつぶやくと、リアンが振り返って首をかしげた。
「何、シャル?」
「なんでもないわ。早くおやつにしましょ」
 シャルは笑ってリアンの腕に抱きついた。少し驚いたような表情が、一瞬で明るく輝いて、大きな手がシャルの頭を撫でる。その手に光るのは、シャルが贈った指輪。
「どうしたの、シャル。可愛すぎるんだけど」
「何もないわよ。ただ、幸せを噛み締めてるだけ」
「シャルが幸せだと、僕も幸せ。大好きだよ、シャル」
 額に優しく口づけられて、シャルは笑ってリアンに抱きつく腕に力を込めた。

 うっかりぎゅうぎゅうと胸を腕に押しつけてしまったせいか、鼻息を荒くしたリアンに襲われて、結局お茶の時間どころではなくなってしまったのは、少し誤算だったけど。


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