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1 毎晩期待してるのに
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エルナは、ふうっと深呼吸してベッドの上に腰掛けた。もうすぐ、最愛の夫も寝室にやってくるはずだ。
先月結婚したばかりの夫、ベルノルトのことが、エルナは大好きだ。
親同士が決めた婚約ではあったけれど、初めて顔を合わせた時に一目惚れしたのだ。
この世に彼以上に素敵な人なんていないと、エルナは本気で思っている。
寝室に近づいてくる足音に気づいて、エルナは小走りでドアへと向かう。
ちょうど開いたドアの向こうには、ガウンに身を包んだ最愛の人。見上げるほど背が高く、眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔がベルノルトの標準装備。七つ年上の彼はエルナよりずっと大人で、渋くてかっこいいと思う。
王城で騎士として働いている彼は、鋼のようなたくましい身体を持っている。腕など、エルナの腿よりも太いのではないだろうか。盛り上がった筋肉の陰影や、浮き上がった血管を見るたびに、触りたくてたまらなくなる。
湯を浴びたためか、いつもきっちりと撫でつけている黒髪が額にかかっている。ものすごく色っぽく見えるこの姿を見られるのは、妻であるエルナの特権だ。
「ベルノルト様!」
ぴょんと勢いよく抱きつくと、彼は揺らぐことなく受け止めてくれた。それだけでエルナは、身悶えするほどの幸せを感じる。顔は険しいけれど、ベルノルトはとても優しい人なのだ。
「遅くなると言っただろう、先に寝ていてくれて構わなかったのに」
「ベルノルト様を置いて先に寝るなんて、できるはずないです」
それに、とつぶやいて、エルナは愛しい夫を上目遣いで見上げる。さりげなく胸を押しつけていることに、彼は気づいているだろうか。
「あの、ベルノルト様……」
「寝ようか」
エルナの言葉にかぶせるように、ベルノルトが言う。そのままふわりと抱き上げられ、エルナはベッドへと運ばれた。
優しくベッドの上に横たえられて、エルナは思わず小さな息を漏らした。
どう考えてもこのままベルノルトが覆いかぶさってきて、甘い夜が始まるとしか思えない。
今夜こそは、今夜こそは抱いてもらえるかもしれない。
期待に震える胸を押さえて、エルナはそっと目を閉じた。
なのに。
「おやすみ、エルナ。――愛してる」
そんな甘い言葉を囁いてくれるのに、ベルノルトはエルナの額に口づけをひとつ落とすと、離れていった。
目を開けたエルナが見たのは、隣で横になって目を閉じているベルノルト。異常に寝つきの良い彼は、あっという間に穏やかな寝息を立て始める。
しばらく横目でベルノルトの寝顔を観察していたエルナは、ため息をつくと目を閉じた。
少しだけ涙が滲んだのは、眠くて欠伸をしたからだと思いたい。
大好きな夫は、結婚して最初の晩以来、エルナに触れようとしない。
先月結婚したばかりの夫、ベルノルトのことが、エルナは大好きだ。
親同士が決めた婚約ではあったけれど、初めて顔を合わせた時に一目惚れしたのだ。
この世に彼以上に素敵な人なんていないと、エルナは本気で思っている。
寝室に近づいてくる足音に気づいて、エルナは小走りでドアへと向かう。
ちょうど開いたドアの向こうには、ガウンに身を包んだ最愛の人。見上げるほど背が高く、眉間に皺を寄せた不機嫌そうな顔がベルノルトの標準装備。七つ年上の彼はエルナよりずっと大人で、渋くてかっこいいと思う。
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湯を浴びたためか、いつもきっちりと撫でつけている黒髪が額にかかっている。ものすごく色っぽく見えるこの姿を見られるのは、妻であるエルナの特権だ。
「ベルノルト様!」
ぴょんと勢いよく抱きつくと、彼は揺らぐことなく受け止めてくれた。それだけでエルナは、身悶えするほどの幸せを感じる。顔は険しいけれど、ベルノルトはとても優しい人なのだ。
「遅くなると言っただろう、先に寝ていてくれて構わなかったのに」
「ベルノルト様を置いて先に寝るなんて、できるはずないです」
それに、とつぶやいて、エルナは愛しい夫を上目遣いで見上げる。さりげなく胸を押しつけていることに、彼は気づいているだろうか。
「あの、ベルノルト様……」
「寝ようか」
エルナの言葉にかぶせるように、ベルノルトが言う。そのままふわりと抱き上げられ、エルナはベッドへと運ばれた。
優しくベッドの上に横たえられて、エルナは思わず小さな息を漏らした。
どう考えてもこのままベルノルトが覆いかぶさってきて、甘い夜が始まるとしか思えない。
今夜こそは、今夜こそは抱いてもらえるかもしれない。
期待に震える胸を押さえて、エルナはそっと目を閉じた。
なのに。
「おやすみ、エルナ。――愛してる」
そんな甘い言葉を囁いてくれるのに、ベルノルトはエルナの額に口づけをひとつ落とすと、離れていった。
目を開けたエルナが見たのは、隣で横になって目を閉じているベルノルト。異常に寝つきの良い彼は、あっという間に穏やかな寝息を立て始める。
しばらく横目でベルノルトの寝顔を観察していたエルナは、ため息をつくと目を閉じた。
少しだけ涙が滲んだのは、眠くて欠伸をしたからだと思いたい。
大好きな夫は、結婚して最初の晩以来、エルナに触れようとしない。
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