断罪されそうになった侯爵令嬢が頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるに至るまでの話。

あの時削ぎ落とした欲

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 季節は冬に移り、季節に一度の学年合同パーティが開催される日。

「今日は放課後に勉強会できないのよね……」

 パーティは正当な理由が無ければ欠席できない。友人との勉強会程度では欠席を認められない。憂鬱な気分になるエリス。

「なんでー?」
「今日は学年合同パーティだからよ」
「あれかー私が出ちゃ駄目なやつかー」

 ニナの存在は他学年、特に第二王子の学年に知られてはいけないので出席は禁じられている。

「なー、パーティってどんな感じ?」

 左右に揺れながら興味津々といった感じに尋ねてくる。どんな感じと聞かれても、成人後の社交界で恥をかかない為の練習である。わかりやすくニナに説明するならば、

「そうね……顔見知りに挨拶したり、踊ったり、談笑したり……」
「つっまんねー!」
「後は軽食が用意されていているから……」
「なんだと! 肉ある? 豪華? 美味しい?」
「そうね、パーティ用だから、いつもの学園の食事とは少し違ったメニューみたいね」

 食べたことは無いエリスだが、見た目や香りでそれくらいは分かる。

「肉料理は上品でもとにかく美味しいから好き。いいなーパーティ用肉……」

 少ししょんもりするニナ。なんだか可哀想だった。

「そのうちニナも参加できるわ」

 第二王子が卒業して、エリスたちが最高学年になれば許可されるはずだ。

「そうかー」





 放課後、学園の中心部にあるダンスホールに向かう前にニナがお見送りしてくれた。

「エリスいつも綺麗だけど今日はもっと綺麗ー」
「そう、ありがとう」

 腰まである艶やかな金の髪を結いあげ、瞳と同じ紫のドレスを着用しているエリスの周りを、ニナはくるくる回る。

「何かいつもと顔ちがう人多いけど、エリスはほぼそのまま?」
「ええと、お化粧をしているからね。私も一応化粧しているけど」

 通常は使用人など呼べないが、パーティの日はドレスの着用を手伝ってくれる人員と化粧師が用意されている。エリスは化粧が要らない程の美貌なのでいつもナチュラルメイクである。

「それじゃあ、行ってくるわね」
「いってらっさーい」

 両手を上げてふりふりするニナを残して、エリスはダンスホールへ。しばらく歩いた所で、振り返るとぽつんと残されたニナがまだ手を振っていた。何だか、後ろ髪が引かれる思いだが、仕方が無いと言い聞かせ手を振り返してから歩を進めた。

 ダンスホールに足を踏み入れるやいなや、一番会いたくない人物に遭遇してしまった。第二王子ヴェインだ。

「おお、辛気臭い顔の令嬢だと思ったら、我が婚約者ではないか。誰にもエスコートされないのは当然のことだが、友人も連れていないとは」
「お久しぶりにございます。ヴェイン殿下」

 内容は無視して、淑女の礼で挨拶する。

「お前のような暗い女は誰も相手にしてくれんのだろう。哀れだな。これで王太子妃が務まるわけが無い。お前などが婚約者でなければ、既に俺が王太子になっているだろうに」

 いつもの嫌味だ。反論せず、聞き流してこの場を去るべきだろう。しかし、エリスの心にふつふつと怒りが沸いてきた。初めてのことだ。

 ──第二王子がいるから、ニナはパーティに出席できないない。そもそも一年の敷地からも出れない。それはこの人が居るせい。この人さえいなければ……。

 一人にしてきてしまった小さなニナの姿が脳裏をよぎる。目の前の人物が心底鬱陶しい。ヴェインの周りでニヤニヤしている第二王子派の取り巻きにも腹が立つ。

「いくら着飾ってもその冷徹さは隠しきれていない。見ていて気が滅入る」
「でしたら、私などに構わず、無視すれば良いだけのこと。何故わざわざ不快になりに来るのか理解できません」
「なっ」

 ヴェインは絶句する。

「それでは、失礼いたします」

 エリスはドレスの裾を翻し足早に去る。

 ──初めて言い返せた……。今までそんな気力も無かったのに。

 今迄はただ罵倒を受け入れていた。生きていても心が死んでいたのだ。

 エリスは慣れない行為に少し高揚していた。片手を頬に当てて少し息を吐く。

 ──言い返された殿下の間抜け面が笑えたから、少しスッとした気がする。

 ニナの存在が、自分の心を生き返らせてくれたのだろう。喜びも怒りも、ニナに関係することばかりだ。

 ふと軽食コーナーに目を転じる。肉料理がある。

 ──これ、余りを貰えないか、聞いてみよう。

 持ち帰ればニナはとても喜ぶだろう、想像して思わず笑みがこぼれるエリス。
だが、残念ながら衛生的懸念から持ち帰りは許可されなかった。
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