不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に

リョウ

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第四話 村長と依頼と討伐と

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村長の家に着くと、村長と思しき初老の男が出迎えてくれる。

「この村の村長をしておりますトマスと申します。ご覧いただいた様な状況ですので、大したもてなしは出来ませんが、どうぞ中へ」

家はボロボロで辛うじて雨風は凌げるといった感じだった。

中に通されると、村長は座布団が敷いてある所に座り、俺とフェリルも後から用意された座布団の上に座る。

「ゴブリンはどの程度の規模ですか?この依頼書だと10匹程度と書いてありますが、この村の被害状況を見るとそんなに少ないはずないですよね?」

俺は最初に感じた違和感の確認も兼ねて、依頼書の内容と違うのでは無いかと訊いてみた。

「1週間程前からゴブリンが現れる様になったのですが、最初の頃はその程度だったのです」

「ひょっとすると様子見を兼ねて、最初は少数でこの村を襲撃していたのかも知れませんね…」

「そうかも知れません。ご存知の通りゴブリンは繁殖力が高く…、今では2、30匹位が村の襲撃に来るようになりました…。しかし、見ての通り度重なる襲撃の被害も相まって、村にはお金もありません。依頼書を出し直すにしても報酬額を上げることも出来ず…」

「そうですか…。しかしまぁ、良くこれまで防げてましたね」

「村の者達は何人も犠牲に…。男達が戦っている間に、女、子どもを避難させて、どうにか…。今は、この村を捨てるしか無いかという状況です…」

悲痛な面持ちで答える村長に、別の質問をしてみる。

「ギルドで依頼を受けた冒険者は来なかったのですか?」

「はい。事務処理に時間がかかるのか…。それとも、引き受ける冒険者がいなかったのか…」

「そうですか…。ですが、依頼と違う内容だと此方としても困ります」

諦めた表情をした村長が項垂れ、村長の周りにいる男達は「俺たちを見捨てるのか!」とか言っているが、此方も命を掛けるのだ。

フェリルも何かを言いたそうにしているが、優しさや情けだけではこの村の為にならない。

「こちらとしては討伐するにしても報酬が少なすぎます。こちらの希望を考慮した追加報酬をいただきます」

村人達はどんな要求をされるのかと強張っている。

中にはこちらを睨み付ける者もおり、フェリルがキッと睨んで黙らせたりしているが、俺は構わず続ける。

「こちらの希望は…そうですね…。ちょうどこの村はベレルとリダールの街の間に位置するので、持っている情報で構いません。追加報酬としてリダールの街の情報を下さい」

「えっ?!それだけでよろしいのですか?」

村長は拍子抜けしたような顔している。周りにいた男たちも同様だった。

「今、俺達が欲しいのはお金では無く、情報ですから。それと、我々はゴブリンの死体を一切回収しませんので、そちらで掃除して下さい。その代わり、掃除中に拾った物は全てあなた方の物です」

「よろしいのですか?それだと、我々は助かりますが…」

「構いませんよ。リダールだけでなく、もし何か他の情報を持っていれば教えてくれれば助かりますね。どちらにせよ。こう見えても領主の息子なので、自領の村が被害を受けているのを放置する訳にもいきませんから」

「そうですか…。我々には願っても無い話です。どうか…我々を助けて下さい…。うちの若い者を連れていきますか?」

「いえ。恐らく話の内容から予測するに、ゴブリンの根城になっている場所だと100近くいると思います。この村に流れてくる可能性があるので、ここで戦える者がいないと困ります。逆に、彼女を村に置いて行くつもりです」

フェリルにその場で訊ねると、「分かりました。留守はお任せを」と返ってきた。

「お一人で、ですか?それは、危険なのでは…」

「何とかなりますよ。それより、ここでの戦闘で見た事は一切を口外しないで下さい」

「分かりました。村の者にも徹底させるようにします」

「そうして下さい。それで、奴らは何処から向かって来るんです?」

「奴らは、この村の南にある街道近くの森の中から出てきます。ゴブリンが現れるようになる前は、村の若い者が洞窟に鉱石などを取りに行ってましたが、その洞窟が寝ぐらになっているかと…」

俺がワイルドウルフたちを討伐した森の北側だった。

(と、なると。雷属性魔法は使わないようにしよう…。ギルドの調査隊に見つかると面倒だ…)

「分かりました。では、夕方に出ます。村の若い方何人かで警戒を。残りの方は家などの修繕と武器を確保しておいて下さい。私とフェリルはその間に、ぼろぼろになった柵や門を直します」

そう言い残して村長の家を出た後、夕方までフェリルと2人でボロボロになった柵の少し外側に、土属性魔法で作った柵や門を設置して行く。

「しかし、これでは骨折り損のくたびれ儲けですね。報酬は依頼書に書いてある額だけですし」

引き受けた時に嬉しそうな顔をしていたので、本心では無いのは分かっていた。

「それはそうだけど。引き受けなかったら、フェリルは怒っていただろ?」

「この村はリダールだけでなく、周辺の村とも比較的近いので、出稼ぎで近くの街や村へ行っているはずです。情報収集にはうってつけと思いました」

「建前だろ?それ。本音は?」

苦笑しながらフェリルに尋ねると、フェリルが笑顔で答える。

「困っているのなら助けるべきです。そうなさらないのなら、レイへの評価を改めなければなりません」

「えっ?!それどういう…」

と、俺が狼狽えていると、フェリルが右手の人差し指を口に当て、ウインクしながら「秘密です…」と言うと、こちらの言葉を遮った。

「さて、そろそろ時間ですよ?私はここでお留守番をしますが、討伐に参りませんと」

俺は首を左右にぶんぶん振って、頬を両手で2回叩き気持ちを切り替える。

それを見たフェリルが、左手を口に当ててクスクス笑うと、俺の手を引いて村長の家に向かって歩き出す。

(くそぅ…!逐一かわいいな!)

と、思いながらフェリルに連れられるまま、その場を後にした。

村長の家に着くと水が出された。

俺とフェリルが口にすると、村長とこれからの話を始める。

「こちらは村の周りに石の柵を作りました。木の柵は残して居ますので、侵入の時間稼ぎは出来るはずです」

「それは、ありがたい。討伐に出て頂いている間ですが、村の若い衆20人で柵の内側から周辺を警戒します」

「分かりました。こちらはここにフェリルを残して行きます」

「大丈夫なのでしょうか…」

不安げな顔をした村長に、少しイライラしつつ言葉を返す事にした。

「フェリルは強いですよ?決して間違いなど起こさないで下さい。手出ししたら最後、あなた方にはそれ相応の報いを受けて貰います。それと、フェリルの周りは警護不要です。逆にフェリルの邪魔になりますので」

フェリルは贔屓目無しにも美人だった。

1人で村に残して行くのも心配だったので、凄んで威嚇する事で釘を刺しておくことにした。

「フェリルも何かあれば、全力で対処していい。仕掛けて来る奴が悪い」

と、フェリルにも伝えると、フェリルは「勿論です」と力強く返事する。

「そっ、そんな事は絶対致しません!村の者には良く言って聞かせます!それに、救って下さる方に危害を加えるような恥知らずはこの村にはおりません!」

「なら、良いのですが…?それと、確保した武器の中に投擲出来るような物は有りますか?出来れば、フェリルにも渡しておいていただきたい」

「弓ならあります。それで、宜しければ」

「フェリルは弓は?」と訊くと、コクリと頷いた。

「では、弓をフェリルに。矢は20本程。残りは村の方で使って下さい。フェリルは正面にある門の周辺を、村の方でそれ以外の三方を守ってください。日が沈み切るまでには終わると思います」

「そんな短時間で?!3時間か4時間しか無いですよ!?」

「壊された柵に魔法痕が無かったので、普通のゴブリンとゴブリンアーチャー辺りが中心で、ボスがいてもゴブリンリーダーでしょう。まだ、ゴブリンの巣が出来て日が浅そうですし」

「本当にお一人で…?」

「ついて来られた方が困ります。私にも事情がありますので」

「そう仰られるのであれば…」

フェリルに「じゃぁ、村の事は頼んだよ?」と伝えると、村長の家を出て真っ直ぐ森に向かった。

森に入る直前にゴブリンが数体居たので、一閃で首を跳ねる。

しばらく森の中でゴブリンを倒しながら突き進んで行くと、洞窟が見えた。

(これが、村長の言ってた洞窟か…)

感知魔法を使うと、森の中にいる数匹が村に向かって動いているのに気付いたが、フェリルが対処出来る数だろうと無視した。

改めて洞窟内部を確認すると、九十くらいの赤いマーカーが付いていた。

更に、空間把握魔法を使って脳内に浮かび上がる洞窟内部の構造を確認する。

(思ったより深い洞窟だな。でも、分岐が殆ど無い一本道…。水攻めにするか…)

少し考えた後、水攻めが一番手っ取り早いと判断した。

「プリミラ!」

洞窟に向かって押し寄せていく大津波が、洞窟に一気に雪崩れ込んでいく。

(もう一発やっておくか…)

もう一度魔法を発動させると、再び大量の水が洞窟に流れ込んで行く。

(しばらく待ってれば、ゴブリンがたまらず出てくるだろうから、待ち構えて置くか)

俺は炙り出されるであろうゴブリンを待ち構える為に、次の魔法を発動させる事にする。

「エアロバレット」

俺の周りに数百もの空気の弾が現れる。

程なくして、びしょ濡れになったゴブリン達が次から次へと出て来た所を、エアロバレットで片っ端から倒していく。

四十体位倒したであろう頃になると、ゴブリンが出て来なくなった。

「これくらいか…。後は乗り込んで潰すか」

九十くらいあった赤いマーカーは、二十くらいにまで数を減らしていた。

魔法で灯りを付けて洞窟を突き進んで行くと、水に押し流されて岩に突き刺さったゴブリンやら溺死したゴブリン、中には水圧で押し潰されたゴブリンの死体があちこちにあった。

水溜まりが少しだけあるくらいになって来ると、ゴブリンが時折襲ってくる様になった。

動きが遅くて余裕で避けられるので、ヒラリと交わして一閃で斬り伏せる。を繰り返していたら、いつの間にかマーカーの数が5匹にまで減っていた。

(グレイウルフみたいに連携してくると厄介なんだけどなぁ…。動きが遅い上にただ突っ込んでくるだけだから、張り合いがないなぁ…)

とか思っていると、少し開けた所に出てきた。

奥に身体の大きなゴブリンがいて、手前に4匹ほど棍棒を持ったゴブリンがいる。

どれも下卑た笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。

(四天王とボス見たいな構図だな。さっさと倒して戻ろう)

「レインフォース」

俺は本気で身体強化魔法を掛けた後、炎属性の魔力を一閃に流し込んで一閃の刀身に炎が帯びた状態にする。

「さて、その下品な笑いを止めて貰おうか」

俺はゴブリンに向かって駆け抜けると、ゴブリンの背後に立つと納刀する。

次の瞬間。

どのゴブリンも棍棒を振り下ろす事も出来ずに、頭と胴体がサヨナラして真っ黒焦げになった。

「図体が少しばかりでかいだけのゴブリンと雑魚だったなぁ…」

途中気を失ってただけのゴブリンがちらほらいたので、見つける度にトドメを指しながら洞窟を出る。

洞窟を出て、再び洞窟内とその周囲2キロ程度を対象に索敵するといくつか反応があった。

放っておくとまた同じ事になりかねないので、ゴブリンで無いのも含めて問答無用で斬り伏せて回った。

全ての赤いマーカーが消えた事を確認し終えると、村へ向かって歩き始めた。
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