ピッチャーになりたい僕とピッチャーをやりたくない君のお話

樹原 光

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2章 初めての、夏。

ベスト8!

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 伊豆高校は勢いに乗ってベスト8、つまり準々決勝まできた。
 新聞によるとベスト8は30年ぶりらしい。

「ここまできたのはすごいけど、正直相手が悪いよなー。春の選抜にも出てた優勝候補だぜ?」
「まぁそうだけど名前聞いてビビってもしょうがないからやるしかないよ。」
「そうだな!いい加減梅宮のいい当たり見たいから、今日は期待してるわ。(笑)」

 そう言って北野は励ましてくれた。1回戦からここまで安打は何本かあるものの、会心の当たりや長打は一本もなく、自分の中でも消化不良だ。

「あ、あとな、今日は全校応援だから。まぁそんな気にならないと思うけど。頑張れよ!スタンドで盛り上げるからな。」

 相手は選抜出場していたメンバーを中心に1年生などの戦力も時々使ってくる。どの選手も他の高校ならレギュラーを獲れるような奴らばかりだ。

 
 試合が始まった。
 先攻は相手の私立静竜学園。
初回から実力を見せつけられ、エースの石井さんはいきなり3失点。決してコントロールが悪かったり、調子が悪いわけじゃない。それでも抑えられないくらい相手の打撃能力が高い。
(やばいな…)

 静竜の先制攻撃に完全に流れを持ってかれてしまった。伊豆高校も今年は打撃だけなら県でも上位。だからヒットが出ないわけじゃない。けれど点が取れなかった。ついでに相手には小刻みに点を取られ、5回表が終わって6対0このままいくとゴールドもありうる展開になってしまった。

「8番 ショート 梅宮くん。」

5回裏、無死1塁の反撃のチャンスでまわってきた。

(点差は離れてるからここでバントはないな。なんとか繋いで自分も出塁しよう。)

1打席目もいい感じに振れていた。多分調子はいい。ストレートにはっていよう。

1球目外角にストレート ボール

2球目外角ギリギリにスライダー ストライク

3球目外角低めストレート ファール
 打ち損じてしまった。狙っていたのに。追い込まれたか、、なんとか粘ろう

4球目低めのチェンジアップ ショートバウンド ボール
 危うく振ってしまいそうになったが、ギリギリで止まることができた。やっぱり調子いいな多分。普段なら空振りしてた。

5球目…多分ストレート。

 右のスリークォーター気味のフォームから、左バッターの内角へ。身体に向かってくるような球だった。

「は、は、入った~~~」
「きゃ~~。」

 一瞬の静寂から、悲鳴のような歓声が球場に響いた。

 打った瞬間の記憶も感触も無いだからどこへ飛んで行ったのかも、それどころか前に飛んだのかも分からなかった。
 ただ審判が右手を上に回していて、ベンチ、スタンドが湧いていた。

 「あ、入ったのか。」

 高校入ってから初めての柵越えホームランだった。
どうやらライトのポール際ギリギリのところに入ったようだ。

 これで6対2。まだチャンスはある。

 そう思っていたが、うまく流れに乗せてもらえずその点差のまま7回表まできた。
 しかしここで佐藤さんが打ち込まれ、1点奪われ8対2。尚も1死1.3塁。ここで伝令が送られマウンドに集まった。
 
 「次のバッターは4番で、今日も2本長打を打ってるから、内野は中間守備でまぁゲッツー狙い。だけどサードランナー突っ込んできてアウトにできそうだと思ったら、迷わずホームに投げろ!だそうだ。まぁ1点取られればコールドの点差だけど、次の裏でまた点取ればいいから、固くなるなよ!」

 ばらけて守備につくとある思いに覆われていた。
(飛んでこないで)

 石井さんの4番に対する初球、いきなり打ってきたが打ち損じ。ショート真っ正面にきた。

 そこまで打球も強くない。
 とても捕球しやすい。ゲッツーコースだ。これでスリーアウトチェンジ。

 しかし、サードランナーがスタートを切っているのが目に入り、そちらもタイミング的には自分の肩なら余裕でアウトにできそうだった。

 しかし最初の段階で体勢はゲッツーを狙っていた。しかしホームに投げればアウトも、、、

 そんな迷いが一瞬、手元を狂わせ握り変えに失敗した。
ホームは諦め何とかゲッツーをとりたいと思い2塁へ送球。ギリギリアウト。セカンドの瀬戸さんは流れるように握り変え1塁へ送球。

 「セーフ!!」
 
 打者走者はセーフになり、2死1塁。

 1点取られてしまった。

 一瞬迷ったせいで、

 握り変えを失敗したせいで、

 9対2。

 次の回点をとれなけば試合終了。

「オッケーツーアウトツーアウト。ここで切ろう!」
「次、取り返せばいいから切り替えてこう!」

 その次の打者を打ち取り、ベンチへ戻った。


 7回裏の攻撃は6番からだった。しかし、6番、7番と続いて三振をとられ、2死。

 何となくネクストにいたが、7番の上野さんへの代打の三年生が、涙目でバッターボックスから戻ってきた。

「頼むぞ...」

 あのミスから何となくふわふわしていた気持ちから、一気に現実に戻された。

 7回裏2死ランナーなし。7点差。

 ここで自分がアウトになればおわり。

 正直、誰でもいいから変わってほしい。代打を送ってほしい。

 1球目外角低めストレート ストライク
 (何か違う)
 違和感を感じてマウンドに目を向けると、ピッチャーは左投に変わっていた。それすらも気づいていなかった。

 2球目外角 ストレート ストライク
 追い込まれた、次は何とか当てて粘らなきゃ。

 3球目、真ん中よりの外にさっきまでの2球より遅い球がきた。思いっきり打ちに行った。しかし、ボールはあっという間に外に逃げていき、バットにかすりもしなかった。

 3球目、外角ボール球 スライダー



 「ありがとうございました!!」

 相手チームとの握手。俺の相手は最後に投げていた左ピッチャーだった。
 勝ち誇った顔をして思いっきりこちらを見下してきたが、何も言い返せなかった。

 次に、応援席へ挨拶。掛け声をするキャプテンの声も震えていた。そしてなにより、応援席の3年生がみんな泣いていた。応援に来た生徒にも何人か泣いている人がいた。

「負けたのか、、」

 悲しさより先に悔しさが、情けなさが湧いて来た。

 先輩たちは
「よく打ったな!次からもがんばれよ!」
「ほんとお前がショートにいて助かった。投げてて頼もしかったよ。」

 泣きながら、話すのも苦しそうなのに、先輩たちは俺に声をかけてくれた。

 (何で誰も責めてこないんだ..野球をやってる人なら誰でもわかるだろ、、7回の俺のアレは、完全にミスだ、、、記録に残らないエラーだ、、、あれでコールドになったんだ。)

 ベンチ裏の自分の荷物のところまで行くと、先輩達から遅れて涙が溢れてきた。誰も責めてくれないミスへの罪悪感が溢れてきた。

 そのあとは周りに流されるようにバスに乗り込んだ。
 涙が止まらなかった。
 
 高校野球の世界の入ってたった3ヶ月ちょっと。
 そんな俺が先輩たちと同じように悔しがっていいんだろうか 
 泣いていいんだろうか

 そんな思いが一層悔しさを大きくした。






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感想 1

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みんなの感想(1件)

ファー子
2018.03.23 ファー子

おおっ!!
すっごい面白いです!!
アルファポリスでは、野球の物語があまりないのでがっかりしていたのですが、この小説を読ませていただいた時思わず、「よっしゃーーっ!」って叫んじゃいました!!
私、(一応)女ですが、野球が大好きなんです!!
楽しみが増えました!
ありがとうございます!
頑張って下さい!!!

解除

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