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極小世界へようこそ
micro009 記憶の泡
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「……クラウス、クラウス」
ちょっとまだ寝かせてくれ。昨日は色々あって疲れてるんだ。
「クラウス!」
「は、はい! え? だれ?」
「ほっほっほ。まだ寝ぼけとるんかクラウス」
長く白い顎ひげに優しそうな瞳。ダリウム師匠だ。
「ダリウム師匠。あれ、おかしいな。俺確かミドリムシから逃げて……、それからグリと一緒に巣穴を……」
「なんじゃ? ミジンコにでもなった夢でも見たのか? 幸せなやつじゃ」
……夢。夢か。そうだよな、あんなこと現実にあるわけが無い。しかし、妙にリアルな夢だったな。
「それが師匠、妙にリアルな夢で。俺、殺人容疑で捕まって流転の刑になってしまうんですよ。それでミジンコに転生して色々大変な目にあって」
「ほう。誰かを殺したのか?」
「いや、冤罪ですよ。あ、夢の話ですがね」
「ふむ。それで、誰が死んだんじゃ?」
「え?」
「死んだんじゃろう。クラウス?」
えーと、そうか。俺が殺したのでは無いにしろ、誰かは死んだということになるな。
「誰だったかな。っていうか、師匠。これは夢の話ですよ」
「夢? 本当にそうかのう」
「本当にってダリウム師匠、何を疑って「思い出すんじゃクラウス。お前は見たじゃろう、あの晩に」
ダリウム師匠がそう言い終わった時、世界が暗転した。
「? なんだ、急に夜に……? ダリウム師匠?」
すると、つい先ほどまでそこにいたダリウム師匠がいなくなっていた。
「ダリウム師匠ー? 何ですかこれ、新しい魔術ですか。もう、いたずらはほどほどにして下さいよ。……ん? 風が吹き込んでるな」
部屋の中に冷たい風が吹き込んでいる。師匠がなにかやっているんだろうか?
風の吹く方向に向かって手探りで進んでいく。
「ダリウム師匠ー? そちらにいらっしゃるんですか?」
その時、耳をつんざく雷音が轟き、稲光が部屋を照らした。
そこには割れた窓ガラスと強風にあおられたカーテン。
……そして、ぐったりと倒れて動かないダリウム師匠がいた。
「し、師匠!?」
な、なぜ? だってさっきまで普通に話して……これは夢なのか?
……いや。
違う。俺はこの出来事を知っている。
これは実際にあったことだ。
「ダリウム師匠!」
急いでダリウム師匠を抱きかかえる。
ピチャ
「え?」
血だまりだ。おびただしい量の。
「そ、そんな。師匠っ!」
「……クラウス? どうして今ここに」
「そんなことより師匠、血が! ま、待ってて下さい。今、回復が使える魔術師を呼んできます」
「は、早く逃げろクラウス」
「逃げろ? いったい何から」
ダリウム師匠が俺の頭をぐっと掴み下げる。
すると俺の頭があったところを鋭い音が通り過ぎた。
「ちっ」
そこに短剣をもった男がいた。ローブのせいか、顔をよく見ることが出来ない。
「クラウスはやらせんぞ」
ダリウム師匠の転移魔方陣が俺を包む。
「師匠! 何を!」
「……クラウス、目に見えるものに惑わされてはいかん。真実を見つけるんじゃ」
鋭い光が立ち上がり、俺の体は別の場所へと転移していく。
「――生きろクラウス」
*********************************************
「……キュウ! キュウ!」
おわっ! ……あれ、グリか?
「キュウ?」
グリが心配そうに俺のことを見つめている。
ここは昨日俺とグリで作った巣穴だ。あたりはすっかりと明るくなっている。もう昼に近いかもしれない。
さっきのは夢?
……いや、違う。あれは俺の記憶だ。
忘れていた記憶が一部蘇ったのだ。
ちょっとまだ寝かせてくれ。昨日は色々あって疲れてるんだ。
「クラウス!」
「は、はい! え? だれ?」
「ほっほっほ。まだ寝ぼけとるんかクラウス」
長く白い顎ひげに優しそうな瞳。ダリウム師匠だ。
「ダリウム師匠。あれ、おかしいな。俺確かミドリムシから逃げて……、それからグリと一緒に巣穴を……」
「なんじゃ? ミジンコにでもなった夢でも見たのか? 幸せなやつじゃ」
……夢。夢か。そうだよな、あんなこと現実にあるわけが無い。しかし、妙にリアルな夢だったな。
「それが師匠、妙にリアルな夢で。俺、殺人容疑で捕まって流転の刑になってしまうんですよ。それでミジンコに転生して色々大変な目にあって」
「ほう。誰かを殺したのか?」
「いや、冤罪ですよ。あ、夢の話ですがね」
「ふむ。それで、誰が死んだんじゃ?」
「え?」
「死んだんじゃろう。クラウス?」
えーと、そうか。俺が殺したのでは無いにしろ、誰かは死んだということになるな。
「誰だったかな。っていうか、師匠。これは夢の話ですよ」
「夢? 本当にそうかのう」
「本当にってダリウム師匠、何を疑って「思い出すんじゃクラウス。お前は見たじゃろう、あの晩に」
ダリウム師匠がそう言い終わった時、世界が暗転した。
「? なんだ、急に夜に……? ダリウム師匠?」
すると、つい先ほどまでそこにいたダリウム師匠がいなくなっていた。
「ダリウム師匠ー? 何ですかこれ、新しい魔術ですか。もう、いたずらはほどほどにして下さいよ。……ん? 風が吹き込んでるな」
部屋の中に冷たい風が吹き込んでいる。師匠がなにかやっているんだろうか?
風の吹く方向に向かって手探りで進んでいく。
「ダリウム師匠ー? そちらにいらっしゃるんですか?」
その時、耳をつんざく雷音が轟き、稲光が部屋を照らした。
そこには割れた窓ガラスと強風にあおられたカーテン。
……そして、ぐったりと倒れて動かないダリウム師匠がいた。
「し、師匠!?」
な、なぜ? だってさっきまで普通に話して……これは夢なのか?
……いや。
違う。俺はこの出来事を知っている。
これは実際にあったことだ。
「ダリウム師匠!」
急いでダリウム師匠を抱きかかえる。
ピチャ
「え?」
血だまりだ。おびただしい量の。
「そ、そんな。師匠っ!」
「……クラウス? どうして今ここに」
「そんなことより師匠、血が! ま、待ってて下さい。今、回復が使える魔術師を呼んできます」
「は、早く逃げろクラウス」
「逃げろ? いったい何から」
ダリウム師匠が俺の頭をぐっと掴み下げる。
すると俺の頭があったところを鋭い音が通り過ぎた。
「ちっ」
そこに短剣をもった男がいた。ローブのせいか、顔をよく見ることが出来ない。
「クラウスはやらせんぞ」
ダリウム師匠の転移魔方陣が俺を包む。
「師匠! 何を!」
「……クラウス、目に見えるものに惑わされてはいかん。真実を見つけるんじゃ」
鋭い光が立ち上がり、俺の体は別の場所へと転移していく。
「――生きろクラウス」
*********************************************
「……キュウ! キュウ!」
おわっ! ……あれ、グリか?
「キュウ?」
グリが心配そうに俺のことを見つめている。
ここは昨日俺とグリで作った巣穴だ。あたりはすっかりと明るくなっている。もう昼に近いかもしれない。
さっきのは夢?
……いや、違う。あれは俺の記憶だ。
忘れていた記憶が一部蘇ったのだ。
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