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第3章 幼少期(修行時代)

22 子供若ダンナ

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 朝、鳥の鳴き声に促されて目が覚める。
 グッと伸びをすると、部屋に設置してある大袈裟な程大きな鏡で全身をチェックする。

 ゴブリン襲来から早4年。

 顔立ちも幼児から子供へと変化しつつあった。青いクリクリとした目に短く切り揃えた金髪の髪。我ながら愛嬌のある顔立ちだ。髪の色や目の色はどちらも母さん譲りである。父親から受け継いだのは性別ぐらいだろう。ほぼ、母さんのクローン体と言って良い。
 因みに、村民達によると村1番の美人だとの呼び声が高いそうだが、いまいちピンと来ない。母さんは母さんであってそれ以外の何者でもないのだ。……我ながら何の説明にもなっていないが、男であれば今の説明で大体解ってくれるはずだ。

 2階へ降りて行くと既に鈴音がダイニングテーブルに座っていた。

「遅いぞ主。寝小便でもたれておったか?」
「してねえよ! ったく、年寄りは朝が早いな」

 鈴音は去年の冬頃に布団へ粗相をしたことを未だに言ってくる。

「こらこら、黒ちゃん。巧魔ちゃんが気にしてるんだから。あんまり酷いことばかりで言ってるようなら、黒ちゃんの朝御飯は抜きですよ」

 母さんが台所から話しかける。手元からは湯気が立ち上っている。既に朝御飯は出来ているようだ。食欲を誘う香りが漂ってきた。

「……むう、それは困るのう。菫、今のは冗談じゃ。堪忍せい。ホレ、主も頭を下げんか」
「何で俺が下げるんだよ! 朝から理不尽過ぎるだろ!」
「今日も朝から元気だな、お前らは」

 父さんが呆れたように呟く。

 そうこうしている内に、母さんの料理が食卓に並んだ。卵焼きにオーク肉のソーセージ、最後に龍一郎じいさんお手製の食パンだ。

「うむ。今日もワシの好物だらけじゃ。龍一郎のパンも今日は一段と良い出来じゃの」
「はっはっは。鈴音殿に誉められると益々やる気が出ますな」

 龍一郎がニコニコと喜んでいる。口調は敬語だが、その態度はおれに対するものとなんら変わらない。本当に子供好きなじいさんだ。……鈴音が子供にカテゴライズされているのは甚だ疑問ではあるが。
 龍一郎は普段少し離れた所にある小さな離れに暮らしているが、食事時だけは皆で揃って食べることにしている。

「……逆にお前が苦手な食べ物を見た事が無いんだが。いったい何が苦手なんだ?」
「たくさんあるぞ。まずはオークの○丸に、シャクトリ虫のソテー、それから……」
「ゲテモノばっかりじゃねえか! 食事中に○丸とか言わないでくれます?!」
「ほんと朝から元気だなあ、お前ら……」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 母さんの朝御飯を食べ終わると、俺は早速外に出た。今は春前の時期であるため、まだ肌寒い。
 因みに、この世界にも四季が存在している。暦の数え方は前の世界と殆ど変わらない。月は1月~12月。年間は360日前後とやや少な目。1日の時間は24時間。1時間は60分。1分は60秒。1秒辺りの時間はあまり変わらないように思われる。
 そんな偶然あり得るか? と考えた事もあるが、それは間違いである。
 かの有名なアイザック・ニュートンは晩年、『自分は真理の海の波打ち際で戯れながら、時折普通より美しい貝殻を見つけて喜ぶ子供のようだ』と語っていた。
 俺の持っている常識など、この新しい世界ではウンコ以下の価値しかない。目の前で起きている現象こそ、真実なのだ。

「あ、若ダンナおはようございます! 朝から難しい顔してどうしたんです?」
「若ダンナちゃん、おはよう! 今日もかわいいねえ」
「若ダンナざーす!!」

 俺のとりとめもない思考は、森谷村の村民達からのげんなりする呼びかけによって現実世界に呼び戻された。

「あ、はい。どうもおはようございます。あのー、何度もいってますが、その若ダンナという呼び方はちょっと……」
「何を遠慮してるんだい! 村1番の稼ぎ頭のくせして! それに、事実巧魔ちゃんはじゃないか」

そう、俺は今森谷村1番の稼ぎ頭、『東商店』の若ダンナとなってしまっていた。



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主人公の容姿を今頃描写するという斬新なスタイル!


……うっかりしてたわ(/ー ̄;)
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