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事実は小説よりも苦なり
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小説「薔薇の騎士」。
メイン主人公は2人。ひとりは第一王子であるアラン殿下。国王が寵愛した側妃が産んだ息子だ。だが彼は生まれつき病弱であり、かつ側妃の息子であるという立場から王位継承権を持たない。王が愛した側妃は産後の肥立ち悪く、そのままはかなくなってしまった。愛する女性を失った王は、生まれた子を忌むようになり、そのまま離宮に捨て置いた。やがて寵姫を失った王に歩み寄った正妃が懐妊。アランとひとつ違いで生まれた待望の男児は、生まれながらの王太子として大切にされる。
日の当たる道を歩む弟王子に対して、忘れ去られたかのように育つアラン。彼のことを疎ましく思う正妃に命を奪われなかったのは、本人が病弱であり、成人まで生きられないと診断されたいたからだ。彼の味方をする者は王宮には皆無。碌な世話も施されないのを見かねた側妃の実家が、侍女ひとりと側仕えと称した少年を遣わせた。侍女は寡婦となった縁戚の女性で、子を育てるために仕方なく仕える有様だったが、アランより2つ下の少年は、いつしか離宮に寝泊まりもするようになり、兄弟のように育った。それがジェシーだ。
ジェシーの生い立ちもまた悲運なものだった。側妃の実父である伯爵がメイドに手をつけて産ませた子で、アランにとっては年下の叔父にあたるという関係性だ。スキャンダルとなるその生まれは秘匿され、けれど伯爵家の血を受け継ぐ貴族としての生き方だけは強いられるという窮屈な人生の中で、剣の才能を秘めた彼は、引退して下町で暮らす王宮騎士に教えを乞い、アランを守るべく護衛騎士となり、その才能を開花させた。だが忘れられた王族に仕える彼もまた日の目を見ることはない。
誰からも顧みられない2人の少年は、お互いだけを信頼し、いつしか愛を育んでいくことになるのだった———。
「くだらん」
そう吐き捨てたのはジェスト・クインザート侯爵令息様。麗しい美貌を持つアレン殿下の護衛騎士様だ。
「2人が互いしか信頼できぬ状況だったことは理解できる。だがなぜそこに……あ、あ、あ、愛などというものが芽生えねばならんのだっ! 百歩譲って男女の間ならまだしも……っ」
「それはあまりに狭量です。男女が許されて、なぜ男同士が許されないのでしょう? 愛に男も女も関係ありません!」
「……あぁ君たち。今は小説の中身の議論の時間じゃないよ」
割って入られたのはアレン・マクセイン第一王子殿下。正真正銘、本物の王子サマだった。ちなみに初対面だ。かつて王宮で開かれた子ども同士のお茶会で、王子サマに気に入られる必要なんてないとばかりにひとり庭できゃっきゃ遊んでいたらうっかり虐げられていた子を助けて、すっかり忘れた頃に実は王子サマだったその子が「君のおかげで僕は強くなれた、恩人である君を妃に迎えたい」なんてシチュエーションなんかはない。
ジト目でジェスト様とやらを睨んでいると、アレン殿下が話の軌道を修正した。
「ところでグレース・ハミルトン伯爵令嬢。グレース嬢と呼んでも?」
「もちろんです。殿下」
「ではグレース嬢。あなたが小説家ナツ・ヨシカワであり、“薔薇の騎士”を執筆したということは間違いないとして、あの小説のおかげで私とジェストが多大なる迷惑を被っていることは知っているかな」
「迷惑ですか? なぜ?」
「小説に登場する人物と、我々が非常に似ているからだよ」
「似ている……えっと、それは、名前のことでしょうか」
さすがにここまで来れば私も話の内容が見えてきた。私の小説の登場人物はアラン殿下と護衛騎士ジェシー。ここにおわす本物の王子サマはアレン殿下で、側付きの護衛騎士はジェスト様。
アランとアレン、ジェシーとジェスト。
サイン会会場で途中からやたらと登場人物の名前を間違えられるなと思っていたが、彼女たちは小説でなく、本物の王子様と護衛騎士のことを話していたのだ。
「そ、それは確かにご迷惑を……」
名前が被っているくらいなら、誰も疑いもしないだろう。けれど容姿や肩書きまでが一緒ならば。ひとりだけならまだ偶然と済ませられるだろうが、奇しくも2人揃ってやや被りときている。
(そういえばオードリー社長も言い間違えていたと思ったけど、彼女もきっと知っていたんだ)
私の小説の登場人物と、実在の人物が似ていることは、どうやら私以外の人にはそこそこ知られている事実らしい。え、なぜ私は気づかなかったのかって? いやいやずっと領地暮らしで、成人前の身で、王族にまみえることなんて皆無だったし。特に前世の記憶に目覚めてからはBL執筆に全力投球だったし。本物のグレースだったら知っていたかもしれない知識も、なぜかあの頃からナツの意識が強すぎて、今世の知識のことは薄ぼんやりしているのよ。すごく身近な家族とか領民のこととかは残ってるんだけど、その他のことはイマイチで。お嬢様必須のダンスとか刺繍とかは身体がおぼえてくれていたようでそこまでひどい出来ではないけど、知識系は前世の力で乗り切っている次第。
「似ているのは名前と肩書きだけじゃない。それぞれの生い立ちや身上もだからね。それに離宮の描写なんかもね」
「え、そうなんですか?」
「おまえはそんなことも知らないのか……」
深いため息が隣から降ってくる。もう、さっきからいちいちつっかかってくるこの人なんなの。あ、侯爵令息サマか。
「……今、なにか不敬なことを考えたか?」
「……メッソウモアリマセン、侯爵令息サマ」
「以心伝心で仲が良いのは喜ばしいことだけど、話を進めてもいいかな?」
「「よくありません!」」
アレン殿下のツッコミに思わず声を返せば、黒づくめの侯爵令息とモロ被りしてしまった。
「い、いえ、殿下! これは違います。どうぞ、お話を続けてください」
「そうです! これは、仲がいいっていうことを否定しただけですから!」
身を乗り出さんばかりの私たちを見て、アレン殿下が唇の端をあげた。
「では話を続けよう。小説の中のアラン王子は側妃の息子で、第一王子ながらも王位継承権は持たない。対する私も側妃の息子で第一王子。継承権はあるものの側妃腹ということで2番目だ。そして現在の王太子は正妃の息子である弟だ。小説では1歳違いで、現状は4つ違いだけど、まぁ誤差の範囲だよね。そして側妃である母が亡くなっているのも同じ。もっとも現実では私が9つになるまで生きてはいたけどね」
「そして護衛騎士についてだが、小説では側妃の実家の出で、庶子という出自から家に居場所がなく、アラン王子の側仕えとして追い払われたとなっている。実際の私は侯爵家の三男だが、現侯爵と血のつながりはない養子だ。義理の兄2人や義兄嫁たちとも積極的な交流はない。兄たちが王宮騎士団に身を置いているのに対し、私は幼き頃から殿下の私的な側仕えと護衛を父から命じられている」
「……それはまた、似て、いますね」
頬が引き攣るのを感じつつ、私は視線を泳がせた。せっかく貴族世界に転生したのだから、おもいっきりお貴族様小説にしてやろうと、大好物の儚げ受け×屈強攻めのカップリングを王子様と護衛騎士に当てはめた。2人きりの世界観を強調したくて不幸な設定てんこもりにもした。よもやそれが現実に酷似していると、いったい誰が思うであろう。改めて目の前の王子様と隣の黒騎士とを交互に見る。
この2人、こうして立派に生きているように見えるけど、そんな生い立ちを抱えてここにいるのかと思うと、一気に同情心が沸き起こってきた。
(あの設定はフィクションだからこそノリノリで作れたけど、実際にそんな人がこの世にいるだなんて……神様はあんまりだわ)
不幸に負けず必死に生きている人たちを前に、瞳をうるうるさせていると、隣からまた盛大な溜息が降ってきた。うん、さっきはイラッとしたけど、事情を知った今では許せる。
「そうか、君自身も似ていると認めたね。ではなぜここに呼び出されたのか、そして不敬罪に問われているのかも理解できたかな」
「えっと、小説の世界観と現実の世界観がちょこっと被っていたせいで、現実と思われた、とか?」
「ちょこっとだと? アレがちょこっとだと言うのか!?」
「だって! しょうがいないでしょう、知らなかったんだもの!」
「知らないわけがあるか! サイン会とやらの会場でもやたらと私たちの名前を聞いたぞ!? あの場所だけじゃない、あの本が出版されてから、あちこちから寄越される生ぬるい視線に晒された私たちの気持ちが、おまえにわかるのか?」
「本当です、本当に知らなかったんです! 田舎育ちの伯爵令嬢に王宮の事情や離宮の内装なんてわかるはずもないでしょう? そりゃ、勘違いされたことは申し訳なく思いますけど、不敬罪は言い過ぎではないかと……」
私的にはちょっと被ったっていうくらいの設定のせいで、フィクション小説が私小説のように扱われ、結果的にモデルとされた彼らが迷惑を被った、というのはわかる。加えてそれがBL小説となれば、その関係性は友情ではなく、尊い愛の結晶と思われるわけで。
「はっ! 私としたことが、忘れるところだったわ。ここにリアルアラン殿下とジェシーの姿があることを! 王都の女性たちが”本物”と認めたそのカップリングを今こそ目に焼き付け……」
「なくていい!」
いついかなるときもBLの心を忘れない———それが腐女子たる者の生き様。たとえ自分が劣勢に立たされようとも、己の内から湧き起こる渇望に蓋をすることはできないと、必死で見開く私の視界を、突然真っ黒なものが襲った。
「ちょっ! 離して! アラン×ジェシーのリアルカップリングが! 私の夢が!」
「おまえは……っ。反省という言葉を知らんのか! 地下牢にぶち込むぞ!」
私の目を覆っているであろう黒騎士様の手を必死に剥がそうとするも、相手はさすがの屈強な騎士。びくともしない。そのまま背中越しに抱え込まれて、私は観念するよりほかなかった。
「あージェスト、そろそろ離してやって」
「しかし殿下……」
「たぶん、わざとじゃなかったんだろう。それがわかっただけでも十分だよ」
「確かに、策略にしては稚拙で馬鹿らしすぎます」
アレン殿下のお許しで視界が開けた私は、ここぞとばかりに2人目を向けたのだが。
「また塞ぐぞ」
ジェスト様の唸るような声に、きょろきょろするのを諦めた。
メイン主人公は2人。ひとりは第一王子であるアラン殿下。国王が寵愛した側妃が産んだ息子だ。だが彼は生まれつき病弱であり、かつ側妃の息子であるという立場から王位継承権を持たない。王が愛した側妃は産後の肥立ち悪く、そのままはかなくなってしまった。愛する女性を失った王は、生まれた子を忌むようになり、そのまま離宮に捨て置いた。やがて寵姫を失った王に歩み寄った正妃が懐妊。アランとひとつ違いで生まれた待望の男児は、生まれながらの王太子として大切にされる。
日の当たる道を歩む弟王子に対して、忘れ去られたかのように育つアラン。彼のことを疎ましく思う正妃に命を奪われなかったのは、本人が病弱であり、成人まで生きられないと診断されたいたからだ。彼の味方をする者は王宮には皆無。碌な世話も施されないのを見かねた側妃の実家が、侍女ひとりと側仕えと称した少年を遣わせた。侍女は寡婦となった縁戚の女性で、子を育てるために仕方なく仕える有様だったが、アランより2つ下の少年は、いつしか離宮に寝泊まりもするようになり、兄弟のように育った。それがジェシーだ。
ジェシーの生い立ちもまた悲運なものだった。側妃の実父である伯爵がメイドに手をつけて産ませた子で、アランにとっては年下の叔父にあたるという関係性だ。スキャンダルとなるその生まれは秘匿され、けれど伯爵家の血を受け継ぐ貴族としての生き方だけは強いられるという窮屈な人生の中で、剣の才能を秘めた彼は、引退して下町で暮らす王宮騎士に教えを乞い、アランを守るべく護衛騎士となり、その才能を開花させた。だが忘れられた王族に仕える彼もまた日の目を見ることはない。
誰からも顧みられない2人の少年は、お互いだけを信頼し、いつしか愛を育んでいくことになるのだった———。
「くだらん」
そう吐き捨てたのはジェスト・クインザート侯爵令息様。麗しい美貌を持つアレン殿下の護衛騎士様だ。
「2人が互いしか信頼できぬ状況だったことは理解できる。だがなぜそこに……あ、あ、あ、愛などというものが芽生えねばならんのだっ! 百歩譲って男女の間ならまだしも……っ」
「それはあまりに狭量です。男女が許されて、なぜ男同士が許されないのでしょう? 愛に男も女も関係ありません!」
「……あぁ君たち。今は小説の中身の議論の時間じゃないよ」
割って入られたのはアレン・マクセイン第一王子殿下。正真正銘、本物の王子サマだった。ちなみに初対面だ。かつて王宮で開かれた子ども同士のお茶会で、王子サマに気に入られる必要なんてないとばかりにひとり庭できゃっきゃ遊んでいたらうっかり虐げられていた子を助けて、すっかり忘れた頃に実は王子サマだったその子が「君のおかげで僕は強くなれた、恩人である君を妃に迎えたい」なんてシチュエーションなんかはない。
ジト目でジェスト様とやらを睨んでいると、アレン殿下が話の軌道を修正した。
「ところでグレース・ハミルトン伯爵令嬢。グレース嬢と呼んでも?」
「もちろんです。殿下」
「ではグレース嬢。あなたが小説家ナツ・ヨシカワであり、“薔薇の騎士”を執筆したということは間違いないとして、あの小説のおかげで私とジェストが多大なる迷惑を被っていることは知っているかな」
「迷惑ですか? なぜ?」
「小説に登場する人物と、我々が非常に似ているからだよ」
「似ている……えっと、それは、名前のことでしょうか」
さすがにここまで来れば私も話の内容が見えてきた。私の小説の登場人物はアラン殿下と護衛騎士ジェシー。ここにおわす本物の王子サマはアレン殿下で、側付きの護衛騎士はジェスト様。
アランとアレン、ジェシーとジェスト。
サイン会会場で途中からやたらと登場人物の名前を間違えられるなと思っていたが、彼女たちは小説でなく、本物の王子様と護衛騎士のことを話していたのだ。
「そ、それは確かにご迷惑を……」
名前が被っているくらいなら、誰も疑いもしないだろう。けれど容姿や肩書きまでが一緒ならば。ひとりだけならまだ偶然と済ませられるだろうが、奇しくも2人揃ってやや被りときている。
(そういえばオードリー社長も言い間違えていたと思ったけど、彼女もきっと知っていたんだ)
私の小説の登場人物と、実在の人物が似ていることは、どうやら私以外の人にはそこそこ知られている事実らしい。え、なぜ私は気づかなかったのかって? いやいやずっと領地暮らしで、成人前の身で、王族にまみえることなんて皆無だったし。特に前世の記憶に目覚めてからはBL執筆に全力投球だったし。本物のグレースだったら知っていたかもしれない知識も、なぜかあの頃からナツの意識が強すぎて、今世の知識のことは薄ぼんやりしているのよ。すごく身近な家族とか領民のこととかは残ってるんだけど、その他のことはイマイチで。お嬢様必須のダンスとか刺繍とかは身体がおぼえてくれていたようでそこまでひどい出来ではないけど、知識系は前世の力で乗り切っている次第。
「似ているのは名前と肩書きだけじゃない。それぞれの生い立ちや身上もだからね。それに離宮の描写なんかもね」
「え、そうなんですか?」
「おまえはそんなことも知らないのか……」
深いため息が隣から降ってくる。もう、さっきからいちいちつっかかってくるこの人なんなの。あ、侯爵令息サマか。
「……今、なにか不敬なことを考えたか?」
「……メッソウモアリマセン、侯爵令息サマ」
「以心伝心で仲が良いのは喜ばしいことだけど、話を進めてもいいかな?」
「「よくありません!」」
アレン殿下のツッコミに思わず声を返せば、黒づくめの侯爵令息とモロ被りしてしまった。
「い、いえ、殿下! これは違います。どうぞ、お話を続けてください」
「そうです! これは、仲がいいっていうことを否定しただけですから!」
身を乗り出さんばかりの私たちを見て、アレン殿下が唇の端をあげた。
「では話を続けよう。小説の中のアラン王子は側妃の息子で、第一王子ながらも王位継承権は持たない。対する私も側妃の息子で第一王子。継承権はあるものの側妃腹ということで2番目だ。そして現在の王太子は正妃の息子である弟だ。小説では1歳違いで、現状は4つ違いだけど、まぁ誤差の範囲だよね。そして側妃である母が亡くなっているのも同じ。もっとも現実では私が9つになるまで生きてはいたけどね」
「そして護衛騎士についてだが、小説では側妃の実家の出で、庶子という出自から家に居場所がなく、アラン王子の側仕えとして追い払われたとなっている。実際の私は侯爵家の三男だが、現侯爵と血のつながりはない養子だ。義理の兄2人や義兄嫁たちとも積極的な交流はない。兄たちが王宮騎士団に身を置いているのに対し、私は幼き頃から殿下の私的な側仕えと護衛を父から命じられている」
「……それはまた、似て、いますね」
頬が引き攣るのを感じつつ、私は視線を泳がせた。せっかく貴族世界に転生したのだから、おもいっきりお貴族様小説にしてやろうと、大好物の儚げ受け×屈強攻めのカップリングを王子様と護衛騎士に当てはめた。2人きりの世界観を強調したくて不幸な設定てんこもりにもした。よもやそれが現実に酷似していると、いったい誰が思うであろう。改めて目の前の王子様と隣の黒騎士とを交互に見る。
この2人、こうして立派に生きているように見えるけど、そんな生い立ちを抱えてここにいるのかと思うと、一気に同情心が沸き起こってきた。
(あの設定はフィクションだからこそノリノリで作れたけど、実際にそんな人がこの世にいるだなんて……神様はあんまりだわ)
不幸に負けず必死に生きている人たちを前に、瞳をうるうるさせていると、隣からまた盛大な溜息が降ってきた。うん、さっきはイラッとしたけど、事情を知った今では許せる。
「そうか、君自身も似ていると認めたね。ではなぜここに呼び出されたのか、そして不敬罪に問われているのかも理解できたかな」
「えっと、小説の世界観と現実の世界観がちょこっと被っていたせいで、現実と思われた、とか?」
「ちょこっとだと? アレがちょこっとだと言うのか!?」
「だって! しょうがいないでしょう、知らなかったんだもの!」
「知らないわけがあるか! サイン会とやらの会場でもやたらと私たちの名前を聞いたぞ!? あの場所だけじゃない、あの本が出版されてから、あちこちから寄越される生ぬるい視線に晒された私たちの気持ちが、おまえにわかるのか?」
「本当です、本当に知らなかったんです! 田舎育ちの伯爵令嬢に王宮の事情や離宮の内装なんてわかるはずもないでしょう? そりゃ、勘違いされたことは申し訳なく思いますけど、不敬罪は言い過ぎではないかと……」
私的にはちょっと被ったっていうくらいの設定のせいで、フィクション小説が私小説のように扱われ、結果的にモデルとされた彼らが迷惑を被った、というのはわかる。加えてそれがBL小説となれば、その関係性は友情ではなく、尊い愛の結晶と思われるわけで。
「はっ! 私としたことが、忘れるところだったわ。ここにリアルアラン殿下とジェシーの姿があることを! 王都の女性たちが”本物”と認めたそのカップリングを今こそ目に焼き付け……」
「なくていい!」
いついかなるときもBLの心を忘れない———それが腐女子たる者の生き様。たとえ自分が劣勢に立たされようとも、己の内から湧き起こる渇望に蓋をすることはできないと、必死で見開く私の視界を、突然真っ黒なものが襲った。
「ちょっ! 離して! アラン×ジェシーのリアルカップリングが! 私の夢が!」
「おまえは……っ。反省という言葉を知らんのか! 地下牢にぶち込むぞ!」
私の目を覆っているであろう黒騎士様の手を必死に剥がそうとするも、相手はさすがの屈強な騎士。びくともしない。そのまま背中越しに抱え込まれて、私は観念するよりほかなかった。
「あージェスト、そろそろ離してやって」
「しかし殿下……」
「たぶん、わざとじゃなかったんだろう。それがわかっただけでも十分だよ」
「確かに、策略にしては稚拙で馬鹿らしすぎます」
アレン殿下のお許しで視界が開けた私は、ここぞとばかりに2人目を向けたのだが。
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