【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

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 カーティス殿下に初めて会った日のことはまるで昨日のことのように憶えている。そして一生忘れることはないだろう。

 謁見用に用意された王妃宮の一室で、私たちは出会った。その日の殿下は調子が良かったようで、先に部屋で待っていた私の元に、ごく普通の足取りで近づいてきた。

「王太子殿下、こちらがユーファミア・リブレ子爵令嬢です」
「顔を上げよ」

 バルト伯爵が私の名を紹介し、殿下が私にそう命じたところで、私はようやく顔をあげた。

 そして、初めて見る殿下のご尊顔に、息を止めるほどの驚きを覚えた。

 こんなに美しい人が世の中にいるのかと思った。宗教画に出てくる天使よりもきらきらしく、深い藍色の瞳の艶やかさは宝石と見紛うほどの神々しさだった。同い年でありながら既に私より背が高く、ほっそりとした体つきと伸びやかな手足は、優美で気品溢れる線を描いている。

 私の周りにいた美しい人の代表といえば母とクラウディオだ。だが2人の容姿は身近だからこそ感じる愛らしさに過ぎなかったのだと思い知った。美しいというのは、こういう人のことを指すのだと、ただただ恐れ入った。

 上げることを許された目線を、すぐに落とす。こんなに美しい人の前で、私はなんてみじめなのだろうと、比べることすら烏滸がましいほど、私は、自分と違う存在の前に、なすすべもなかった。

「顔をあげよと言っている」

 再度の声がかりに、私は慌てて再び顔をあげた。

「私がカーティス・ルクレール。この国の王太子だ」
「ゆっ、ユーファミア・リブレにございます。王太子殿下にはごきげん麗しゅう……」

 王宮に来て突貫で仕込まれた淑女の礼を、いや、そのもどきを披露するのが精一杯。口がからからに乾いて、それ以上息をすることも苦しい。

 気がつけばまた頭を下げていた私は、けれど三度みたび上げる勇気が持てず、そのまま時間がすぎるのを待った。

「……バルト卿。事情は説明済みなのか」
「既に契約済みではありますが、具体的な内容はまだ」
「ふん」

 苛立つような舌打ちに、びくりと肩を震わせる。そのまま殿下はソファに掛けることもなく、足早に部屋を出て行った。

 残された私がおずおずと顔をあげると、ため息をつくリブレ伯爵と目が合った。

「やれやれ。今日は調子がよろしいはずだったのだがね」
「……私のことがお気に召さなかったのでしょうか」
「お気に召そうが召さなかろうが関係ない。殿下の魔力を吸収できる人間は今のところそなたしかおらぬのだからな」

 部屋の隅ではメイドたちがお茶の準備をしていた。本来ならここで殿下と伯爵、私はお茶をして過ごす予定だったようだ。

「せっかくだからお茶でも頂きながら、そなたの仕事内容について説明しよう」

 こうして主ないままお茶が振る舞われ、私はようやく己の職務を知ることになった。




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