破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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24 ベンキョウ

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月曜の朝

セトは廊下でお嬢様に会う。行き場の無さそうに、人の視線から目を逸らしながらトボトボと歩いている。
「あ!?貴方!!?」
突然パッと顔を上げ、ズカズカとセトの目の前に立ちはだかり彼女は赤面涙目で激しく訴えかける。「貴方のせいでわたくしの面目が丸潰れですわ!!どうしてくださいますの!!」
しわくちゃになった写真をセトの顔の前にグイッと押し付ける。
M字に脚を開いてひっくり返っている自分の上にセトが乗ってキスしている絵図だった。
「わあ!ごめんなさいごめんなさい!」
慌てて謝りながら逃げるようにお嬢様から離れる。

放課後の本部室に着くとエムとユウがソファーに座ってテレビゲームしている。
「くそ!このボス強え!でもアタシは負けね!」
「確かに硬いねー」
「おいツインテール。間違ってもコントローラーを壊すなよ。弁償してもらうからな」
「ああ!?バカにすんな!アタシはそこまで気性荒くね!え!」
思いっきり体重をかけながらゲームリモコンのボタンを押しているエムにアゲハはやれやれと手を振っている。
「…セトさん…こんにちは」
オドオドと箒を持ったメリルがセトに声をかける。
「偉いねメリル!部室を掃除してくれるなんて!」
「メリルに出来るのはこのくらいなので」
高く、柔らかい声で彼女は言った。
「俺もそろそろ色々と整理しないとな。もうすぐ夏が来るだろう?」
アゲハがダンボールを持ち上げ、倉庫に持っていこうとする。そしてふと何かを思い出したようにカチカチと機敏にコントローラーを操作するユウとエムが座るソファーの前に立ち止まり
「というかお前たち、来週試験があるらしいがゲームしてて平気なのか?」
二人の動きが止まる。画面にゲームオーバーと表示される。
「僕も、試験って物があるなんて知らなかったよ」
「そうなんですか??メリルは試験がどんな物かは知ってました」
「この1週間は、俺たちの勤勉という名の試験勉強(エグザミネーショングラインド)を始めようか」


翌日
「お嬢様に睨まれたって?そりゃ災難だったな!はっはっは!」
セトの友人ルゥキが癖毛をくるくる回しながら笑っていた。
「僕、これからも責められちゃうのかな?」
「なるべくアイツに会わないようにしないとな。そうは言ってもアイツも不憫だよなー【破廉恥お嬢】とか【エレガントスケベ】っていうあだ名が付いちまったしなー」
「なんか申し訳ないよ…怪我をさせてしまったかもしれないし、何かお詫びした方が良さそうだね」
「あっ、そういえばよ、お嬢様は保健室に運ばれたんだけど、お前は突然フラッと立ち上がってどっか言っちまったんだよ」
「え、運ばれたんじゃなくて」
「追いかけたけどすぐにどっか行っちまって…」
「そう、なの?その時の記憶が全くないんだけどねー」

Arizは放課後に集まり本部室で試験勉強をすることにした。皆、テーブルで向かい合い、教科書問題集と睨めっこする。
「おいこらツインテール。開始5分で眠りに落ちるな。さては授業中いつもそうだったな?」
「うむぅ…うるせえ…てめえこそ勉強しろ」
眠そうにエムが社長椅子に背中を預けているアゲハを睨む。
「ふん、あいにく俺は学園の単位全て取ったんでね。もう学ぶことはない」
「うそお!!」
一同は仰天する。
「確かにこの白衣メガネ、高等部2年の階で見たことねぇ」
「本部室にしかいないってイメージなのさー」
「飛び級したってこと?」
「そうだ。中等部3年でな。今は学園に整備面で貢献もしている。お陰でこの棟を貰った」
「アゲハしゃん、しゅ、しゅごい人なのですぅ!」
「すっごーい!アゲハさんって頭いいんだね!」
セリアが目を見開く。
「別に大したことではないさ。俺はただ、基礎から応用を導き出すのが得意なだけだ。一を知って十を知ったとしても真新しい物が発明できなければただの二流だ…」
暗い顔を下に向けて、グッと拳を握った、と思ったら顔を上げて
「ともあれ、分からない所があったら言ってくれ。文系分野は心もとないが、理系分野に関しては力になれると自負している」

勉強の日々は続いた。メンバーはお互いに解らない所を質問、教え合い、自身の学力を上げていった。
「暗記のコツは誰かに教えるように口に出す事だ。講義を真面目に聞いていたならその情景を思い出せ。講師は大事な所を強調していなかったか?」
「基礎だけは出来るようにしよう。美味しい所取りの方がコスパがいいのさー」
「凄いセト君!このロスト文字の文章の内容全部読めるのね!」
全問正解したロスト文典のテキストを見ながらセリアが言うとエムは目を見開く。
「うぇ!?過去の記憶がないセトが??」
「うんーなんでだろう?感覚でわかっちゃうんだよね」
「過去の貯金が身体に染み付いているのかもな」

1週間が経った。テストは全科目返却された。
Ariz本部室に来たメンバーは安堵の表情を見せる。
「一番心配な奴がまだ来ていないな」
「ま、まさか」
ー     ドガーン    ー
豪快に扉が開いた。
「で、結果はどうだ?」
「やったぜ…やってやったぜ!初めての赤点回避だあ!!しかも全部ぅ!!」
興奮したエムが握りしめていた回答用紙をテーブルに叩きつける。
「ふ、相変わらずガサツなやつだ。しかしこれで皆補習も課題も免れた。1日休んだらまた特訓を始めるからな。それまで腹を括っておけ」
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