破壊は追憶の果てに

奏紫 零慈

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27 イキヌキ

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夏は到来した。衣替えで男女皆ワイシャツ姿である。

本部室の中で、天井のローターが回っている。

「暑い~!!」

Arizのメンバーはテーブルを囲い、だらしなく突っ伏していた。

「これまでお前達はよく頑張った。明日は休日だろう?息抜きにアミューズメントエリアに行こうじゃあないか」

「ご褒美だご褒美だー!!」

エムが駆け回る。

「こらこらツインテール。はしゃぎ過ぎだぞ」

「アミューズメントエリアって?」

「遊園地と公衆プールを融合させたようなものさー。水の中を走るジェットコースターとか、濡れるアトラクションを水着で回るんだよ」

セトにユウが説明しているとセリアがテーブルに乗り出して目を輝かせる。

「みんなで行くの??楽しそ~!!」

「メリル行ってみたかったのですけど敷居が高くて」

「安心しろ、庶民的な娯楽施設だ。気楽に楽しんだ者勝ちだ」


**


休日の午前中、サンサンと太陽に照りつけられたβ区のアミューズメントエリアの前。

「勿論皆水着は持ってきたよな」

Ariz一同が頷く。

「それじゃあ、更衣室に分かれよう」

「よしゃ!セリア、メリル、ユウ!全力で着替えに行くぞ!」

「あはは!全力?あはは!」

「おいエムはこっちだぞ。お前いつから女になった?」

「うるせ!てめ!後でアタシの浮き輪にしてやるかんな!」

「もうアゲハ先輩!女の子にそれは失礼ですよ~?」

セリアが人差し指を立てる。

「そういえばボクも男だったねー。セト君、更衣室行こう行こう」

「ゆ、ユウしゃんはこちらですよぉ?」

慌ててメリルが男子更衣室に入ろうとするユウを止める。


女性陣が着替えを終え、プールサイドに踏み込む。

「うわー!やっぱり広いねーこのプール!」

水色のビキニのセリアが広大なプールを見渡す。

「セリアもここ何回か来たのか?アタシも小さい頃は何度も行ってたぜ!」

腹を出したセーラー服に、ショートパンツのような水着のエムがボールを指で回転させている。

「いいなぁ、メリルは初めてですぅ」

浮き輪をその場に置いたフリフリのミニスカート水着のメリルは両腕を胸の前に持ってくる。

「ごめんねー慣れない格好でさー時間かかっちゃった」

「ユウちゃんもしかしてそれはスク水??」
「他になくってさー」

ピチピチのスクール水着で身体を反らせながら胸の辺りがはち切れそうなユウである。

「お前達、既に着いていたのか。早いな」

「うわ、それが女性の水着なんだぁ。ちょっと目のやり場に困るかも」

Ariz男子チームも入場した。南国を彷彿させる一般的なパンツのセトの隣にアゲハがいた。

「なはは!なんだよアゲハその格好!水着の上に白衣とか!なは!キモ!てか水着短か!メガネの代わりにゴーグルとか!変態だあっはっは!」

腹を抑えながら大笑いの、涙を滝のように流すエムを見て

「ふん、溺れてしまえこのカナヅチゴリラ」

「なぁ!?」

笑い過ぎて身体に力の入らないエムをアゲハが押すと、簡単にプールの中に落ちてしまう。

「ふぁっはっはっはっ!!!ザマァ見ろ!!無様だなぁ!ツインテール!お前が泳げないことは百も承知だ!」

水面で必死にジタバタするエムに悪役のような高笑いを飛ばす。

「あわわエ、エムしゃん、大変ですぅ」

少し右往左往してメリルがエムに浮き輪を投げる」

「意外だなぁ。エムは運動なら何でも出来ると思ってたよ」

「そいつの身体能力の唯一の弱点だ」

「はぁはぁ…サンキュメリル…はぁ…おいそこの変態ゴーグル白衣ぃ!アタシがてめぇを沈めてやるぅ!!」

「はーはっはっは!貴様にそんなことが出来るものか!」

プールに近づいていき

「貴様から浮き輪をもぎ取って…ぬわあ!?」
「アゲハしゃん!?」

足を滑らしプールの中へ転落する。

「おやおやー」

「なんだこれは!?誰か、誰か!!死ぬ!!」

アゲハもエムと同様にジタバタして慌てふためく。
「大変!助けた方が」

駆けつけるセリア。

「仲良いんだね…二人とも」

苦笑いしながらセトは眺めていた。



「なるほど、【火】のヘプターナは水が弱点か。ならば次の戦いは苦労するだろうな」

白いベンチに横になっている3人組がいた。

「幹部さん、やっぱり自分達、怪しいでごわす」

隣にシルエットの太い、黒いガスマスクの男が真ん中の幹部の方を向いた。

「なあに【黒司令官】よ。今日は少年少女共の邪魔はしないのだ。我々は観察するだけなのだよ。第一遊びに気を取られて我々に気づくはずがないのだ」

「【幹部の黒】様、引き続き対象を追跡しますか」

もう一方の細身の黒マスクがタブレットの画面を操作している。

「どれどれ。もっと近づいたらどうだ。ほらもっと、おおぅ」

ビー玉サイズの微型の追跡カメラをArizの少女達の周りを回転させる。

「いやぁ、最近の娘はいい身体をしておりますな」

「全くだ。流石ヘプターナと言ったところか。もっと早くから目をつけておくべきだった。まだ幼さを残しておきながらこの発育。実に堪らん」

「幹部様、これ以上近づいたら危ないです」

「いやもっとだ」

慌てて距離を取ろうとすると幹部が介入する。

「幹部様、何処かに挟まってしまったではありませんか!」

追跡カメラは大きな肌色の何かに挟まれる。

「…これは…乳?」

     ブシュー   

司令官が呟くと幹部のマスクから歪な音が出てきた。

「くそぅ!何も見えん!」

「幹部様、どちらへ?」
「手洗い場だ!」

「幹部さんは若い娘の巨乳を至近距離でご覧になって鼻血を出されたのでごわす」

幹部が去っていくのを確認して、司令官はもう一人に耳打ちする。

「あの方、それ程色好みでいらしたなんて…」
少々呆れを見せていた。



「あれ?何これ~?」

胸の谷間から物体を取り出し上に持ち上げてみる。
「銀の球?」

「アゲハてめ!セリアに変な物!」

「俺ではない!取り敢えずゴミ箱にでも捨てておくんだ」



ー  ゴゴン   ゴゴゴ   ゴゴゴゴゴゴ   ー

「あーーーーー!!!」

水の中を高速で進んでいくジェットコースター。水面を出て駆け上ったかと思ったら直ぐに水の中へと急降下していった。

ー    バシャーン  ー

「うっ軽く酔ったぜ」

「まだ身体を振り回されているような感覚が残ってる」



「ふぇ!ほんとに飛んでしまったのですぅ」

二人乗りのペリカンの乗り物の口の部分にメリルとセトは乗っていた。

「こんなに高く飛ぶんだぁ、β区全体も見えるし、他の区の地形まで」

「落ちたりしませんよね?しがみついててもいいですか?」



「うひょー!テンション上がるぜこれ!!」

水面を走るボードの上に乗ったエムが叫んだ。 

「面白いねー。ねーねーゲームの一環でこのレースでも勝負しないー?」

エムのすぐ後ろにいたユウがスルッと前に現れる。

「上等だあ!!」

激しい水の息吹がボードから吹き荒れる。



潜水艦を模倣した乗り物に乗って、大きな直方体の物体を目にする。直方体の周りに光が当たり、巨大な深海魚の立体映像が現れる。

「あのデカいチョウチンアンコウから逃げながらゴールに着けばいいのか」

「本物みたいな映像だね」

「ああ。あの技術をArizも活用したいところだ」

セトが感心しているとアゲハがゴーグルを輝かせる 

「3回はあの魚を妨害出来るみたいですよ~!」

セリアがミサイルボタンを指し示す。 

「俺はメカに強い。必ずやゴールにたどり着いてみせよう」



「水鉄砲を使ったのは初めてです~」

「こうゆうのもありだね」 

迫り来る敵オブジェクトに水をかけて溶かしながら進むシューティングゲームや宮殿を模した水の中の迷路など様々なアトラクションがArizを魅了した。

「こっちにも面白そうなアトラクションあったぜ」

「うわ、ぐるぐる回ってる床とか飛び出してくる壁とかゲームみたいだ」

障害物やトラップに引っかからずにゴールの旗を下げるというものだった。下の水に落ちてしまったらやり直しである。

「エムお前浮き輪持っていった方が」

「必要ねぇ!アタシは落ちずに最後まで辿りついてやる!おわぁ!?」 

「助けに行くね」

水に落ちたエムをセトが拾い上げると、

「まだまだぁ!」

すぐにアトラクションに駆け上がっていった。 

「向こうにも似たようなのがあるよー」 

波や渦を巻く水がゴールを妨害してくる。セリアが早速遊んでいたようだ。

「どう?楽しい?」 

「うん…でも…えっと」

顔を赤くして挙動不審をみせる。

「どうかしたの?」

「ユウちゃんちょっと」

ユウを手招きして耳打ちする。

「へぇーそっかー。セリア、下の水着が無くなっちゃったんだって」

「え!?」  

「もうユウちゃん!それじゃあ耳打ちした意味ないよ~!」

真っ赤に染まった顔を両手で隠し、水の中に沈んでいく。

「今探すね」 

「え、待ってセト君」 

「ボクも協力するよー」 

「セリアさんがどうかなさったのですか~?」

「なんだ、緊急事態か?」

メリルとアゲハも駆け寄る。

「諸君らのお探しの物はこれかね~?」 

黒マスク、黒スウェットに黒い頭巾をつけた【幹部の黒】がそこにいた。ビキニパンツをくるくる回している。後ろに同じく黒マスクの部下を控えていた。

「…誰なのですぅ…?」 

震えてセトの後ろに隠れるメリル。

「貴様!何故ここに?」

「幹部さんに貴様とは無礼が過ぎるでごわす小僧」

アゲハが顔をしかめると司令官が幹部の前に出ようとするが、幹部がそれを制する。

「誤解はしないでくれたまえ。我々は諸君の憩いのひと時を邪魔しに来たのではない。我々のことは気にしないで遊んでくれたまえ」

「それは無理があるな。俺達を監視に来たのだろう?プライベートで来てるとは思えないが」

「ビキニは返そう。脱ぎたての小娘のビキニの感触は忘れたりはしない。拾ろうがいい」 

「えぇ!あの人も変態さんなの~!?」

「ボクが取ってくるのさ」

驚愕するセリアとビキニを持って帰ったユウ。

「て、てめえ!何しに来やがった!!」 

先ほどのアトラクションをクリアしたエムが幹部を発見して飛ぶようにやってきた。

「せっかく今日はご褒美の息抜きだってのに!みんなで楽しんでたのに!こんな所まで来やがって!アタシの楽しみを返せー!」

エムが拳を向けて戦闘態勢に入る。 

「待て、今日は諸君らと対戦するつもりはない。私も遊びに来ただけなのだ!」

「ここであったが運の尽きだ!」

「ぬおぉ!」

ー  バシャーン  ー

エムの突きと、掛け技で幹部は渦を巻くプールの中に投げ入れられる。

「幹部様!」

「マズイでごわす。幹部さんは泳げないでごわす」

幹部の救出のため、急いで飛び込んだ部下2人が助けようと渦の中で奮闘していた。



「災難だったな。流石に此処まで来られると恐怖で冷や汗が止まらない」

観覧車の中でArizは話していた。

「恐怖…なの…です…」 

ほとんど眠りに落ちているメリルと熟睡しているセリアがお互いに頭を寄せ合って目を閉じていた。

「アタシも遊びすぎて疲れたなー。ふぁっホント楽しかったぜ」

欠伸をしているエムも眠そうだ。

「向こうは邪魔したわけではなさそうだったけど、このエリアで遭遇するとは思わなかった」

「もう夕方なのさー」

日の入りの太陽は、セト達の視界を緋色に染めていた。

「これからはどうする?」

「休息を入れながらも一週間訓練をしていこうと思う。俺も、新しい武器を開発しないといけないからな」

遊園地で羽を伸ばし、満足と快楽を得た一同。
翌日からまた気持ちを切り替え、対ドローン駆逐計画に臨むのである。
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