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決意の徒 第六章・仕手(3)
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森岡は榊原壮太郎と福地正勝にも了承を請うた。榊原は大学生時代からの最大の支援者、福地はかつての岳父である。なによりも二人は持ち株会社の共同経営者なのだ。
森岡は話を聞き終えて、榊原が真っ先に口を開いた。
「勅使川原の資金力が神村上人の邪魔になるのだな」
「はい」
「しかし、本妙寺の貫主の件は決着したのでは……」
福地が怪訝そうに訊いた。
「福地さん、洋介はその先を考えているのですよ」
「その先?」
「どうやら、先々法主の座に上がらせたいようですな」
「法主……、在野の者は無理なのでは」
ないか、と福地が言った。
「そこですよ。洋介はその難題に挑もうと考えているようですな」
「門主は、私以上の難関に立ち向かっています」
森岡は栄覚の野望を話した。
「まさか、門主がそこまでの大望を抱いていたとはな」
と憂い顔の榊原が、
「しかし、勅使川原と繋がっているのであれば、なぜ坂東貫主らに金をばら撒かなかったのだ。資金は無尽蔵だろうに……」
と疑問も呈した。
「おそらく、金の力に頼らなくても勝利する自信があったのでしょう。むしろ、資金量を見せ付けると、久保や村田の背後に目が行くと考えたのではないでしょうか」
森岡は、榊原と福地に対しても真の目的は伏せた。
「なるほどの」
「しかし、松尾会長がな」
榊原が得心したように言い、福地は先のブックメーカー事業への百億円の投資に続いて、さらに百億円も貸し付けたものだと驚き入っていた。
「どうやらロンドでの言葉は本気だったようですな」
「本気、と言いますと」
「茜さんへの遺産相続ですよ」
「なるほど、なるほど」
福地は何度も肯いた。先の百億円は、茜への生前贈与の意味合いだと理解したのである。
「福地さん、感心している場合ではないですぞ。もし、洋介が返せなかった場合は、体良く宝を取られてしまうのですからな」
「それそれ……」
と、福地は語尾を濁した。
――二百億や三百億程度であれば、わしでも何とかなる。
心の中でそう決心していたが口には出さなかった。
「それで、わしらには頼らないのかの」
榊原が不満そうに言った。
「お二人には、ブックメーカー事業に多額の出資をお願いしました。これ以上はご無理を言えません」
「洋介君、何を遠慮しているのだ。松尾会長のようには行かんが、三十億や五十億ならなんとかなるぞ」
と、福地が言い、
「わしも、あと二十億ぐらいなら何とかなるで」
榊原も勇んで言った。
二人が提示した額は、共に個人名義の資産である。福地がその気になれば、松尾と同じ額は用意できた。何しろ味一番株式会社は、ここ三十数年間増収増益を続けている超優良会社である。
一兆円を超える内部留保金の、約二割に当たる二千億円を余資運用に回していた。大半は株式と債権である。
味一番は上場企業ではない。味一番研究所を介して、実質上発行株数の八十パーセントを福地正勝が所有している同族会社である。したがって、余資運用の差配などどのようにでもなる。もっとも、大きな損失を出せば全くの無罪放免とはいかないであろうが……。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、それではもしものときに、肝心の持ち株会社が傾きかねません。僭越ながら、お二人はいざというときの保険として残しておきたいのです」
と、森岡は本音を言った。
「まあ、洋介がそういうのなら、私たちは金以外のことで協力しましょうか」
福地の言葉に、
「洋介のことだ。勝てる算段があってのことだろうからな」
と、榊原も応じた。
「いずれ皆様の前で納得の行く計画を発表するつもりです」
森岡は自信有り気に断言した。
森岡は話を聞き終えて、榊原が真っ先に口を開いた。
「勅使川原の資金力が神村上人の邪魔になるのだな」
「はい」
「しかし、本妙寺の貫主の件は決着したのでは……」
福地が怪訝そうに訊いた。
「福地さん、洋介はその先を考えているのですよ」
「その先?」
「どうやら、先々法主の座に上がらせたいようですな」
「法主……、在野の者は無理なのでは」
ないか、と福地が言った。
「そこですよ。洋介はその難題に挑もうと考えているようですな」
「門主は、私以上の難関に立ち向かっています」
森岡は栄覚の野望を話した。
「まさか、門主がそこまでの大望を抱いていたとはな」
と憂い顔の榊原が、
「しかし、勅使川原と繋がっているのであれば、なぜ坂東貫主らに金をばら撒かなかったのだ。資金は無尽蔵だろうに……」
と疑問も呈した。
「おそらく、金の力に頼らなくても勝利する自信があったのでしょう。むしろ、資金量を見せ付けると、久保や村田の背後に目が行くと考えたのではないでしょうか」
森岡は、榊原と福地に対しても真の目的は伏せた。
「なるほどの」
「しかし、松尾会長がな」
榊原が得心したように言い、福地は先のブックメーカー事業への百億円の投資に続いて、さらに百億円も貸し付けたものだと驚き入っていた。
「どうやらロンドでの言葉は本気だったようですな」
「本気、と言いますと」
「茜さんへの遺産相続ですよ」
「なるほど、なるほど」
福地は何度も肯いた。先の百億円は、茜への生前贈与の意味合いだと理解したのである。
「福地さん、感心している場合ではないですぞ。もし、洋介が返せなかった場合は、体良く宝を取られてしまうのですからな」
「それそれ……」
と、福地は語尾を濁した。
――二百億や三百億程度であれば、わしでも何とかなる。
心の中でそう決心していたが口には出さなかった。
「それで、わしらには頼らないのかの」
榊原が不満そうに言った。
「お二人には、ブックメーカー事業に多額の出資をお願いしました。これ以上はご無理を言えません」
「洋介君、何を遠慮しているのだ。松尾会長のようには行かんが、三十億や五十億ならなんとかなるぞ」
と、福地が言い、
「わしも、あと二十億ぐらいなら何とかなるで」
榊原も勇んで言った。
二人が提示した額は、共に個人名義の資産である。福地がその気になれば、松尾と同じ額は用意できた。何しろ味一番株式会社は、ここ三十数年間増収増益を続けている超優良会社である。
一兆円を超える内部留保金の、約二割に当たる二千億円を余資運用に回していた。大半は株式と債権である。
味一番は上場企業ではない。味一番研究所を介して、実質上発行株数の八十パーセントを福地正勝が所有している同族会社である。したがって、余資運用の差配などどのようにでもなる。もっとも、大きな損失を出せば全くの無罪放免とはいかないであろうが……。
「お気持ちは大変嬉しいのですが、それではもしものときに、肝心の持ち株会社が傾きかねません。僭越ながら、お二人はいざというときの保険として残しておきたいのです」
と、森岡は本音を言った。
「まあ、洋介がそういうのなら、私たちは金以外のことで協力しましょうか」
福地の言葉に、
「洋介のことだ。勝てる算段があってのことだろうからな」
と、榊原も応じた。
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森岡は自信有り気に断言した。
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