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31話 酔呪
しおりを挟む「ふっ……はははははは! 最っ高にハイににゃってきたー!!!! いっくぞぉー!!」
カリンは満面の笑みで高らかに声をあげる。
普段のクールなカリンから想像もつかない姿だ。
……うん、完全に出来上がってるね。
「ジャッ!?」
バジリスクもカリンの変わり用にドン引き……改め、驚いているようだ。
僕がカリンの事を呪いで『酩酊』状態にしたのはある実験を行うためだ。
カリンがバッカス流の『酔剣』を使うために、カリンは実際に酔っぱらう必要がある。
しかし、アルコールに強い耐性があるカリンがすぐに酔うために、アルコールの度数が極めて高い酒を一気飲みすることで、急速に酔いを回している。
そうする事でカリンは酔剣を扱えるようになるんだけど、その代償として、戦闘が終わると酔い潰れてしまい、結果的にパーティーの足を引っ張ってしまっていた。
そこで僕は考えた。
カリンがアルコールを摂らずに酔っぱらえればいいんじゃないかと。
僕が扱える呪いの中で『酔朧ノ天』という、呪った対象を呪いが続く限り酩酊状態にするものがある。
……そう、呪いが続く限りってところがポイントで、呪いを解除したら酩酊状態もなくなる。
この呪いがカリンに有効なら、カリンは戦闘後に酔い潰れることがなくなるんじゃないかと思った。
もちろん、これはあくまで予想の段階だ。
呪いによる酩酊状態とはいえ、アルコールが体に入っている訳ではない。
もしかしたら、アルコールで酔った状態じゃないとカリンは酔剣を使えないという可能性だってある。
できれば、このボスの間に来るまでに僕の呪いを試してみたかったけど、敵の耐久力が低く、酔ったカリンが酔剣を使う前に倒してしまうため試すことができなかった。
だけど、Dランクのボスであるバジリスクなら実験台としては十分だ!
さあ……どうなる!?
「おおお、これはしゅごいなぁ……。ここまで酔ったのはいちゅ以来かにゃあ」
カリンがフラッフラの千鳥足で今にも倒れ込みそうだ。
「ねえ、ノロワ……これ大丈夫なの?」
「……どうなんだろうね?」
エマが心配そうに僕に聞いてくる。
僕もだんだんと心配になってきた。
カリンの酔い方が前回見た時よりもひどいような気がする……。
あれ?
もしかして呪いを強くかけ過ぎた!?
この状態で酔剣を使えるのかな……?
「ジッ……ギャァァァァァァァアアアアア!!!!」
泥酔し、見るからに隙だらけなカリン目掛けてバジリスクが牙を剥き出しに飛びかかった。
まずい、つい呆けて対応が遅れてしまった!
この間合いじゃ僕の呪いも、エマの魔法も間に合わない……!
「っ!? 危なっ……え?」
カリンが一瞬で目の前から消え、バジリスクの攻撃は空を切った結果、思いっきり飛びかかったバジリスクは地面に激突する。
「ジッ……ギィィィ」
地面にぶつかりダメージを負いながらも、バジリスクは消えたカリンを探すため周囲を見渡す。
だけど、どれだけ周りを探してもカリンを見つけられるはずがないんだ。
だって……
「あー、びっくりしたぁー。いきにゃり来にゃいでよぉー」
カリンはバジリスクの頭上に立っているからだ。
びっくりしたと言っているけど、実際は余裕綽々に見える。
外から見てても、カリンが移動したのをほとんど確認できなかったんだから、目の前にいたバジリスクだと、まるでカリンが瞬間移動したように感じただろう。
「よーし、じゃあ、やろっかぁ」
カリンは楽しそうにゆっくりと抜剣をする。
酔いが回っているからか顔を赤らめながら微笑む様は、カリンの元々整った顔も相まって妖艶さが際立つ。
そんな事を考えていた瞬間、ゾッ……と背筋に悪寒が走る。
僕へ直接向けられた訳ではないのに、カリンの方から殺気とも剣気とも呼べない何かが周囲一帯に漏れ出す。
「ッ!? ……フッシャア!!」
バジリスクも獣の本能でカリンのヤバさを感じたのだろう。
すぐに体を捩り、カリンを頭上から下ろした後、尻尾でカリンを薙ぎ払おうとする。
「よーし、力比べりゃ! いっくぞぉ……ドーン!!」
カリンはバジリスクの尻尾に目掛けて、まるでボールでも打つかのように、全力で剣を振り抜いた。
「ビッギィィィィィィィィ!?」
バジリスクは無様な悲鳴をあげ、木々を薙ぎ倒しながら数メートルはゆうに吹っ飛ばされていく。
剣の腹の部分で殴ったから、バジリスクの体に剣傷はできなかったが、それでもダメージは相当入ったようだ。
蛇って生き物は確か、全身が筋肉のようなものでできており、その筋力はかなりのモノと聞いたことがある。
その上バジリスクはこの巨体だ。
ただの尻尾の薙ぎ払いでも、直撃したら必殺の威力だろう。
だけど、カリンのパワーはそれを遥かに上回り、尻尾どころかバジリスクの体ごとぶっ飛ばしたわけだ。
……ははっ、なんだこれ。
ここまで圧倒的だと、笑いが込み上げてくる。
カリンとバジリスクじゃ、生物としての格が違いすぎる。
そして、それと同時に確信したこともある。
この規格外の速度に桁外れのパワー……今のカリンは完全に酔剣であるバッカス流を使いこなしている。
つまり、僕の呪いはカリンにとって有効だってことだ。
これは『灰狼』にとって朗報だ。
この実験が成功した事で、リスクもなくカリンの実力を十全に発揮できるもんね。
バッカス流を使っている時のカリンの実力はAランク……いや、Sランクの冒険者にも勝るとも劣らないと思う。
これで三人しかいないながらもエマとカリン……Sランク相当の冒険者が二人も在籍しているパーティーになったってことだ。
「うー……ひっく……あれぇ? もうおわりぃ? ほらぁ、もっとがんばりなよぉー」
向かってこないバジリスクを見下ろしながらカリンは一歩一歩近づいていく。
全ての性能でカリンはバジリスクを大きく上回っている。
あとは、バジリスクの石化攻撃にだけ気をつけていれば負けることはないだろうな。
「ギ……ジ……ギャァァァァァァァァァァ!!!!」
バジリスクもカリンに勝てない事はもう察しているだろう。
それでも逃げ出さないのは、このダンジョンのボスとしての最後の矜持だろうか。
バジリスクは最後の反撃とばかりに目を赤く光らせ、『石化』による攻撃……『石眼』を発動する。
「カリンっ! 『石眼』を使ってきたから目を逸らして!!」
「……せきがん? ああ、へびの目があかく光ってきれいだにゃ~」
「っ!? ……バカー!!」
赤眼じゃなくて石眼だってば!!
酔っ払ったカリンはまじまじとバジリスクの石眼を見つめ返してしまう。
その結果……。
「……んぁっ? にゃんだこれぇ?」
カリンの石化が始まってしまった。
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