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22話 勧誘

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「着きました! ここが冒険者ギルドの本部です」

 王都の入り口から三十分ほど歩いたところにギルド本部の建物があった。
 ライカの道案内のおかげで迷うことなくスムーズに着くことができたけど、ギルドの本部を見た印象は……。

「でっかー」

 なんだこれ、メチャクチャでかいぞ。
 俺の二十年前の記憶じゃ、ここまで大きくなかったと思う。

「ここは本部ですから特別でかいんですよね。それに、毎年どこかしら改築して敷地面積を増やしてますから、二十年前とは比べ物にならないんじゃないですか?」
「いやー、想像より遥かに大きくなってびっくりしたよ。ライカの案内がなかったら絶対分かんなかったし」

 道中も記憶にある物はほとんど無かったし、ライカがいてくれて本当に助かった。

「それじゃあ早速行きましょうか。私も護衛任務が終了した報告をしないといけないですし」
「そうだね。俺は多分、受付に言えば担当の人が来てくれると思うけど……」

「分かりました。なら受付まで案内しま……っ!?」

 そう言ってギルドの中に向かおうとするライカの動きが突然止まる。
 どうしたんだ?

「やあ、ライカ! クエスト帰りかい?」
「……ユージン」

 ユージンと呼ばれた男がライカの前に立ち塞がる。
 身なりからして冒険者だろうか?
 金髪碧眼で整った顔をしているけど、ライカと並ぶと美男美女同士で絵になるなぁ。

 ライカの友達かと思ったけど、何やら険悪そうな雰囲気だし違うのかな?
 そんな事を思っていると、ユージンの後ろから更に三人の冒険者らしい男女が現れる。

「ちょっと、ユージン、何やってんのよー? ……って、ライカじゃん。なんでここにいるのよ」
「そんな嫌な顔をするもんじゃないぞ、リンカ。ライカは僕たちの仲間になるかもしれない女だぞ」
「ギャハハ、我らがリーダーのユージンはライカにご執心だからな」

「リンネにミカゲ、ザックスもいたのか」

 気の強そうなツリ目の女性がリンネ。
 細身でメガネをかけている男性がミカゲ。
 大柄で背中に斧を背負っているのがザックス……って名前で合ってるのかな?

「当然さ。彼らは僕が率いる『スターロード』のメンバーだからね! ところで、例の話は考えてくれたかな?」

「私が『スターロード』に加入するって話か? それなら以前断ったはずだが……」

「はぁっ!? あんた、何言ってんのよ? アタシ達ゴールドランクの冒険者パーティーが誘ってやってんのに断るなんてふざけてんの!?」
「落ち着きなよ、リンカ。それにライカも意地になって断ってるだけで、本当は僕達の仲間になりたいに決まってるじゃないか」

「……ダメだ、話が通じない」

 ライカが断ったという話を聞いて激昂したリンカをユージンが宥める。

 うーん、話の断片から推測すると、ライカがユージンのパーティーの誘いを断ったからこうして付き纏われているってことか。
 なんでライカが断ったのかは分からないけど、ライカが困っているのだけはよくわかった。

 師匠として放っておく訳にはいかないな。

「まあまあ、君たちがライカを仲間にしたいのは分かるけど、まずはライカの話を聞いてあげてくれないか?」

「何よ、おっさん、馴れ馴れしく話しかけないで」
「関係ないおじさんは下がっていてください」
「失せな、おっさん!」

 リンネ、ミカゲ、ザックスの順番に邪魔者扱いされて、おじさんの心がすり減っていく。
 若者に冷たくされるときっついなぁ……。

「……いつからいたんだ?」

 ユージンにいたっては俺の認識すらしていなかったようだ。
 ……ちょっと泣いていいかな?

「お前達、失礼すぎるだろ! それにこの人は関係ない人なんかじゃない。この人はシナイさんといって、私の師匠で……一緒のパーティーを組むことになった人だぞ!!」

 ……あれ、それは初耳だ。
 ライカの師匠になるのは認めたけど、いつから冒険者になってライカとパーティーを組むことになったんだろうか。

「はぁっ!? あんた正気!?」
「勿論正気さ」

「あんたねー……っ!?」

 リンネがライカを責めたてようとすると、ユージンが右手でそれを制する。

「ライカ……君は僕達の誘いを蹴って、そんな冴えないおじさんと組むと、本気で言ってるんだね?」

「さっきからそう言ってるだろう? それにシナイさんはお前達が束になっても勝てない人だ。もっと敬意を払え!」

「……ねぇ、ユージン、もうこいつらまとめて締めちゃおうよ」
「賛成ですね。ここまでコケにされて、ゴールドランクのパーティーとして黙っていられませんよ」
「ああ。舐めた口聞いたことを後悔させてやろうぜ」

 ちょっと、ライカさん!?
 君の挑発のせいで、なぜか俺にまでヘイトの矛先が向いたんですけど!?

 しかも、なぜか相手方はやる気満々のようだし!

「ふん、やれるものならやってみろ。お前たち程度、3分保てばいい方じゃないのか?」

「「「はあっ!?」」」

 煽ってどうする!?

 ほらー、相手さんも本気になって戦闘態勢を整え出したし!
 もう一瞬触発の雰囲気で止まらない空気が流れ出す。

「やめておけ、お前ら」

 そんな空気をユージンが止める。
 た、助かった?

「なんで止めるのよ、ユージン! 『スターロード』への勧誘を断るどころか、ライカはこんなおっさんを選んだっていうのよ。これはどうみてもアタシ達への宣戦布告じゃない!?」

「黙れリンネ。僕の命令が聞けないのか?」

「っ!? ……ご、ごめんなさい」

 ユージンが諌めると、途端にリンネが大人しくなる。
 他の二人も同様に、ユージンに意見を言えないようだ。

「こんな人目の多い通りで揉める馬鹿がどこにいく。僕達はゴールドランクなんだぞ? これ以上品格を落とすような真似はするな」

「……ええ、そうね」
「はい、勝手なことをしてすいませんでした」
「すまなかった、ユージンの言う通りだ」

「とはいえ、僕達『スターロード』を馬鹿にしたのは事実。確かシナイといったね? いずれ報いは受けてもらうよ」

 あれー、俺が恨まれるのは変わらないんですねー。

「それとライカ、君は絶対に僕達の仲間になる。なぜなら、君は……というより君の父親は『スターロード』に大きな借りがあるんだからね」

「……っ!」

 師匠が『スターロード』に大きな借りがあるだって?
 ライカもその件に触れられたら、言葉を詰まらせてあるようだし、何かしらの関係があるんだろうか?

「いくぞ、お前たち」

 言うことを言って満足したのか、ユージンは仲間を連れてその場を去っていった。

 ……結局、俺が因縁つけられただけだったな!?
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