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第8話 ビッグボア・ベイカー

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昨日の夜は飲めや歌えやの大騒ぎだった・・・。うーー寝不足だ。

もちろん、未成年のオレはオレンジジュースだぜ。

ヨウラン亭始まって以来とも言われた大宴会には、カスリのおっちゃんに常連たちはもちろん、あまり見かけない顔を見かけ、大通り沿いのパン屋の主人などは自慢のアップルパイを持ち込んでお客に振る舞っていた。

いつものルミナさんと、厨房のマナさんも出てきてフロアは大忙し、二人の看板娘が揃ってフロアに立つと華やかさが違うね。あと、この街の人はみんなヨウラン亭が好きなんだなーって感じた夜だった。



そんな夜が明けて、また法学院へ通う日々が戻ってきたわけだ。



昨日の訓練場まで来ると、何やら人だかりが見える、、、立札が出てるな。嫌な予感しかしねぇ。

近づいてみると、ギルドのフラッグを掲げた冒険者風のいかついおっさんが腕組みをして立札の横に立っている。ギルド関係者、、、だろうな。



「あれ、副ギルドマスターじゃない?」「ホントだ!大猪と大戦槌!」




ああ、あれが噂の「大猪の牙ビッグボア・ベイカー」か。


5mはあろうかという大猪を背中の大戦槌だいせんつい大戦槌の一撃で討ち取り、大猪の頭部を肩口に、猪革は金属の鋲を打ち込んだスタデッドレザーアーマーに加工して着用。おっかない風貌に強面の顔立ちだが、生真面目で厳格な性格がギルド内で慕われて副ギルマスとして就任、各地の認定試験管として赴いているという話しだ。



それにしてもこの大猪の頭、すげえな。。




「・・・・ロクオンジ、レンガ、、で間違いは無いな。」



ビクッ!「あ、はいっ!!」

突然話しかけられ、言葉に詰まる。先ほどまでずっと無言で立っていたベイカーが、オレに話しかけた事に辺りがザワつく。



「先日の実践訓練が、ギルド認定試験を兼ねていた事は認知しているか?」



「そういえば、そんな事ピサーラ先生が言ってましたね。。でもあれは特級の研究生達が対象じゃ・・」



「ギルドはくだらん私心に捕らわれること無く、公明正大に認定を行う。」


そう言うと、背中から「大戦槌だいせんつい」を軽々と持ち上げ、柄を下にして体の前にズンッと突き立てた。ゴツイ戦槌の側面には、世界共通の「ギルドフラッグ」の紋章が装飾されており、ギルド内でも一部の協会委員にしか持つ事を許されない「紋章武器」である事がうかがえる。



ベイカーは、一時の沈黙の後、紋章武器、大戦槌に置いた手を重ね、姿勢を正す。



「我、ギルドマスター代理、ビッグボア・ベイカーの名において、認定の儀をここに執り行う。」



「「「えええええええ、突然!!!???」」」




「汝、ロクオンジ レンガを、正式にギルドメンバーとして迎え入れる事を認定し、ギルドでの活動を行う事を承認する。また、全世界のギルド協会はこれに協力を惜しまない。」



「・・・・・・・。」



「この認定に関し、ギルド協会への参加をロクオンジ レンガが承認するのであれば紋章に手を置き、参加への誓いを述べよ。」



わああっ!!っと周りから声が上がる。



辺りがにわかに騒がしくなった事にベイカーが眉をひそめたが、昨日につづく研究生の快挙に驚きと喜びでまたお祭り騒ぎの熱気が戻りそうな勢いだ。



「レンガっ!!ギルド入りおめでとうっ!」

「研究生からギルドに入るってどんだけなんだよ!」




周りの賞賛に引き攣った顔で受け答えをしていたオレを見て、ベイカーが不思議な顔して聞いてくる。




「・・・・ロクオンジ レンガ、貴殿にはギルド参加への承認の意志はないのか?」




「ええっっっ!?」



辺りが一瞬で凍りつく。



「・・・・いや、そもそもギルドって何するトコなのかなーって。」



ピタッ「・・・・・・。」


ひとまず、お祭り騒ぎは一旦収まった。。



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場所を大通り沿いのオープンカフェに場所を移した。



ベイカーと俺と、、、、何故か両隣りに険悪な雰囲気の研究生の男子が二人座っている。



二人の正体は、何とあの実践訓練でオレに躊躇なく融合魔法をぶっ放した例の二人組。あの戦いの中でこの二人はどうなったか。



2回目の融合魔法をこいつらが放ったのち、俺が融合前にそのまま打ち返した。それぞれ自分の魔法が直撃してそのままフェイドアウト。




「なんでお前まで加入なんだよ、俺の喜びを返せ。」




訓練の時には火属性の魔法を扱ってた方。こいつの名前は「ロイド・ナガタ」。まさかの日系?と思ったが、実際の容姿は赤毛に茶色い瞳の青少年。垢抜けるまでいかないこの土臭さはアジア系なのかな。



「・・・・・・ブッコロ。」



訓練で風属性の魔法を扱ってたのは、こいつ。
名前は「マシュー・ライト」。ライトなくせに暗い。黒髪のマッシュルームカットが目元全体を隠して、目線が追えない。何処見てんだ。



聞けばこの二人。一応研究生のNO1とNO2で、歴代の研究生でもズバ抜けた逸材としてギルド入り間違い無しと太鼓判を押されていた様子。


しかし、迎えた訓練の冒頭で万年研究生にボコられ、早々に舞台を降りる羽目となってしまい、ギルド入りは絶望視されていた所へ、副ギルマス突然の呼び出し。マシューの風術で正に風を切る様に到着した二人組が見たのは、一番見たくない顔だった。



「あの緩急自在のコンビネーション、魔法のキレ。勝負に敗れたとは言え見事である。精進あるのみ。」


「ありがとうございます!」

「・・・・・ども。」


ナガタ、マシュー共に照れの入ったお礼をベイカーに言ったのち、こちらに向きかえり正反対の態度で切り返す。


「で?お前、ギルドが何なのかって?」



ロイド、、、いや、ナガタがあからさまに不機嫌な態度で話し掛けてきた。



「転移者なめんな。オレはまだ生後2ヶ月だぞ。」



「・・・・・ベイカー、さん。何でコイツが?」



「ふむ、、ギルドが何をする所か。内容を聞いてから参加を決めるそうだ。、、長年ギルド認定を行なって来たが、この様なケースは初めてだ。」




ガタッ!「お前、何様なんだよっっ!!?」


「・・・・やはり、ブッコロだな。」




ベイカーは憤る二人組を片手で制し、無言で立ち上がる。

「いや、ロクオンジ レンガの言う事は正しい。」



「・・・・・。」



「ギルドに入る事が目的では無く、ギルドにて自身が何を為すべきかを見定める。近年稀に見る賢人ではないか。素晴らしいぞ、ロクオンジ レンガ。」



「・・・もうレンガでいいから。まあ単純にどんなトコか疑問なだけなんだけど。」



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聞いた内容を、ざっくりと。


ギルドとは、正式名を「大陸間冒険者ギルド協会組合」と言い、組織の規模と人脈の豊かさでは、正教徒騎士団連合と肩を並べる程の存在。


民間、自治体、国から様々な依頼を受けて、ギルド認定の冒険者などに依頼、達成後に報酬を得て運営。


まあ、よくある感じだな。。特にギルドランク的な物は無いらしいが、しいて挙げるならベイカーが持ってる様な「紋章武器」はギルドの中でも一部の人間だけ。でも依頼はやはり人を見てから振り分けるそうだ。。


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「・・・と、これがギルドの大まかな説明となる。」



残ったアイスコーヒーを味わう様に飲み干し、名残惜しそうに静かにテーブルに置くベイカー。きっとこの人コーヒー好きなんだろうな。



「予想通りなトコもあったけど、ギルドについては何と無く分かったよ。ただ、、、」



「ただ、、なんだレンガ?」



「依頼の中には、やりたくもない仕事も請け負う事もあるんじゃないかなってね。」




「何を言ってんだよお前!依頼をお前の好き嫌いで選べると思ってんのか!?」
「・・・・・甘えるな、やはりお前には無理だ。」



二人組の反応は当然だと思う。だが、オレはベイカーに聞かねばならない。




「・・・どういう意味だ、レンガ?」

ベイカーはオレの言葉の微妙なニュアンスに気が付いた様だ、怪訝な顔こちらに向けてくる。








「ギルドは、何故パラネラを調査している調査している・・・・・?」







「なっ!??」


カッと目を見開き、顔が強張る。オレの一言がベイカーに与えた衝撃は、その反応を見れば一目瞭然だった。




「やっぱギルド関係者が絡んでんのか。パラネラ郊外の浮遊島の外周部に、冒険者風のヤツらが何か調べてるって、、、まあ知り合いがね。」



ひと月の【西の塔】の一件以来、オレは戦闘技術の訓練を積む一方で、カスリのおっちゃんと、おっちゃんの率いる建築ギルド「楔(くさび)」のメンバーと連携をとってパラネラに入り込んだ不審者の捜索と調査を進めてきた。

昨晩のお祭り騒ぎの席で、楔のメンバーの一人から話しがあるとの事で、周りに気付かれない様に抜け出し、報告を聞いた。パラネラ郊外に不審者あり、と。




「お、お前何言ってんだ、、?ギルドが、パラネラ郊外で仕事って別に、、」




「不思議じゃないか?例え大陸と違ってモンスターらしきものは居ないから討伐依頼はほぼ無い。」

 


「・・・・・・。」




場の空気が一気に緊張感を持ったものにかわる。まだお昼には早い時間帯という事もあり、カフェに他のお客さんは少ない。




「・・・ロクオンジ レンガ。貴殿のバックには誰が付いている?」




「この街の何を調べてるのかは知らないが、、、」 


ヴォォンッッ!!レンガが突然ネオンを発生させる!



「・・・・・・!!これは!!?」


「!バッカヤロウ、レンガ!こんなトコ、、で?」




「ふむ、、、これが噂のネオンか。しかし実践訓練の時とは桁違いの量と密度だな。あの時は本気では無かったと言う事か?」



確かに訓練の時とは、比べものにならない量のネオンがレンガの身体を取り巻き、さらに周囲を小さな塊となったネオンがさながら恒星の様に周回している。



「本気とかそう言う事じゃない、あの時とは掛ける想いが違うって事だ。」




「・・・・・・。」



流石にレンガのネオン発現を見たカフェの店員や、通りの人々もこちらに気付いて、遠巻きに様子を見守る。



「・・・レンガ、貴殿の考えと想いはわかった。依頼の守秘義務もあり提供出来る情報は限られているが、、、」


ベイカーはそこで言葉区切ると姿勢を正し、



「できる限りの情報提供はする、敵対の意志はないんでな。」



そう言って、強面の顔を歪ませて笑った。、、、一先ずは信用しても良さそうだ。

ネオンの発現を止めると、空間に拡散する様にネオンが搔き消える。




「、、と、そう彼らにも伝えてやってくれないか?」




口元の笑みはそのままに、アゴで上の方を示す。




「流石に気付いてたか、、、。」



カフェのある建物の上に3人の影が現れたと思ったら、ロープを投げ下ろした。

腰に通したロープを両手でスピードを調整しながら、壁を蹴り器用に降りてくる。建築ギルド「楔(くさび)」の若い衆たち。、、、と。






カフェの店員が自分の白いシャツを、胸から両手で引きちぎるとその下には「楔」の一文字が。



遠巻きに見ていた一人おじいちゃんが、突然姿勢良くピンッと立ち上がると胸に「楔」の一文字が。



パフェを楽しんでいた女性二人組が立ち上がり、金髪のカツラがずり落ちると頭に「楔」の一文字が。




「さ、流石に気付いて、、、、たか?」



口元の笑みはそのままに、ベイカーは額に変な汗をかいていた。



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