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第10話 オリジナルクラス「リフレクター」

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「あっ、あっ!いいわ、もっときて!」



「うおおおおっ!」 ガンッ!



「うんっ、あんっ!もっと突いてきてちょうだい、もっと深く!」



「・・・・・ふんっ!」 シュッ!   キンッ!




「あぁ、いいわ!もうっ!このケダモノッ!!」









「やかましいっっ!!!すっっごい、やり辛いんですけどっ!オフェリアセンセ!!!!」

ガスッと鉄剣を地面に突き刺すと、ロイド・ナガタは抗議した。ちなみに顔は真っ赤だ。


「・・・・・誰がケダモノだ。」


額の汗を拭いながら、ケダモノ扱いを否定するのはマシュー・ライト。


「何よーせっかく、思春期の性少年たちに、実践訓練の為に身体を貸してあげてるのにぃ。」


「おおおい!表現!オカシイから表現!」


白いシャツのボタンを無駄に3つくらい開けて、けだるそうに伸びをするオフェリアさん。そんなに腕を広げたら、もはや中身がダダ漏れなんだがな。褐色の形の良いゴム鞠とそれを包み込む赤い、、、


「レンガ、これはビスチェであってブラジャーじゃないのよ?」


「頼むから、視線で心を読むのは止めてくれ・・・。」


「・・・・レンガ、オフェリアの訓練はいつもこうなのか・・・?」


苦笑いからすでに引きつり顔になりつつあるのは、訓練見学にきたオスタのおっさんだ。



オレの所属するオフェリアさんの講師クラスに、ロイドとマシューが編入。

ギルド認定組が同じ時間に戦闘訓練をする事になり、帰ってきたばかりのオスタのおっさんも久々に訓練の見学に来てみたら、青少年二人組をからかう痴女っぷりの冴えわたるオフェリアさんの姿を見る事になったという訳だ。



それでいいのか、オフェリアさん。。。。



しかし、あれだけ全力の二人をからかいながらあしらっているオフェリアさんの戦闘技術は底が見えない。
ロイドの太刀筋を完全に読み、コンビネーションによる死角からのマシューの攻撃も振り返りもせずに、愛用の模擬戦用の槍を巧みに使い、完璧に受け切る。


「ふぅっ!」ダンッ 


 踏みしめた地面が抉れるほどの力で飛び出したロイドが、一気に間合いを詰める! 


「すりゃあぁっぁあぁ!」ロイドの多段突き!


「いいじゃない!でもね、、、。読み!や!すいの!」
キンッ!キィン!キキィンッ!


槍を回転し構えると、柄の部分で多段突きを迎え撃った。芯が少しでもブレると受け切れない、達人技だ。


と、不意にオフェリアさんが槍を背中に回す、、ギィンッッ!!!


マシューが死角から突然の平突き。受けると同時にオフェリアさんが槍を後ろ脚で蹴る!


「・・・・チッ!」距離を取る為、後ろに跳ぶマシュー。


だが神速で振り返ったオフェリアさんが、槍の柄を持ちかえ、伸びのある突きをマシューの腹に打ち込む!


「ぐうっっっ!」ドサッ!


「マシューは奇襲のタイミングはドンピシャなの、でもその後が良くないわねえ、、、。」


乱れた艶のある黒髪を手ぐしで整えながら肩にかけ、二人組に向かって言った。




「後ろから襲いかかったなら、あとは最後までヤっちゃうべきよ。」ビシィィッ!




「いや、だから表現!!!!こんっのエロババア!」



いいな・・・ロイドがいるとツッコミ役がいて楽だな。。




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「魔剣だ。」




・・・・・あの後、オレたち研究生は楔の建物から追い出され、ベイカーと楔の面々、そしてオスタのおっさんの間で、話し合いがあったそうだ。

話し合いは長時間に渡り、追い出されたオレ達はしかたなくヨウラン亭にしけこんで、夜更けまで飲み明かした。もちろんオレンジジュースを。

ロイドやマシューと飲みながら(注:オレンジジュース)、魔剣てのはどんなもんだ、ちょっと欲しいじゃねえか!・・・・いや、おれは別に。てな具合に三者三様のくっだらない話しで盛り上がったね。

実際そんなものが実在してたなんて、ロマンのある世界に転移したもんだ!


そういえば、ヨウラン亭の女神様、ルミナさんが少しいつもより元気が無かったのも気になった。

後で厨房のマナさんに聞いてびっくりしたが、店の開店前にオスタがやってきてルミナと何か真剣な話しをしてたらしい。タイミングから考えると、カスリのおっちゃん家に来る前に寄ってる事になるが、、、、何の話しをしてたんだろ。











「はぁーーーい。お二人さんは休憩してらっしゃい。さて、今度はレンガね。」



足元でぐったりとして、はぁはぁと息も絶え絶えになっている二人とは対照的に、汗一つかいていないオフェリアさん。。無情だ。


「ほれ、差し入れだ!」


黄色いデザインの牛乳瓶を投げて渡す。

大通り沿いのミルク店の新発売メニューで、酸っぱいレモン果汁に甘くて濃厚な練乳をミックスした「パラネラ印のレモン練乳」。魔法撹拌されたレモンと練乳が分離する事無く、甘酸っぱくもクリーミーな大人気メニューだ。





「・・・・・!!!これは!あの噂のレモン練乳!」ゴクリ。


「ははっ!マシューのヤツ、意外に流行り物好きなんだよ、サンキューレンガ!」



「あらぁ?私のレモン練乳はないの?」



豊かなバストの前で腕組みをしたオフェリア先生が、にこやかに聞いてくる。







「・・・すまん、無い。」



「・・・じゃあ今日はホンキで覚悟しなさい。」






白いシャツを脱いだオフェリアさんは赤いブラ、、ビスチェの中心にある小さな赤い宝石を握った。

瞬く間に赤い光が身体を覆うと、鮮やかな紫色のスカートが下半身を包み、両腕から赤いビロードの布が広がって、いつか見た踊り子の衣装「ラクス・シャルキー」へと変身した。

実はこの衣装、オフェリアさんの本気モードであり、露出度は高いのに異常な防御性能、攻撃能力も飛躍的に向上と、至れり尽くせり。恐らくはこの世界でもかなりレアな部類に入る装備のはず。



「そこまでやるか!?」

と、慌てながらもオレも愛用の鉄剣にネオンを纏わせる「エンチャント・ネオン」に、密度の濃いネオンを身体に纏い迎撃に備える。

密度の濃さゆえ、ネオン球が発生し周回し始めた。



「行くわよっ!!」ドゴッ!!


サンダルみたいな靴からでる類の擬音ではないぞ!?



ほぼコマ送りに近い速度で向かってくるオフェリアに戦慄しながらも、その動向を注視する。

オレに肉薄する距離にまで引きつけた所で、相手の斜め後ろに転移し、紫の光を帯びた鉄剣で躊躇なく胴を薙ぐ!


「はっ!」


薙いだのはオフェリアの下半身を覆う紫のスカート、しかも何の物質かは分からないが、剣は表面を滑るだけで切れることは無い。その奥の身体に刃が届くことは無く、宙を舞っていた。

鮮やかに横薙ぎを躱し、不安定な空中でも鋭い3連突きを放ってくる。


ヴォン!!


3連突きを放ったばかりのオフェリアの側面に転移し、がら空きの腹を突くレンガ!


流石に躱せなかった為、槍の柄で剣撃を受けるが、、、、「甘いっ!」ヴゥゥンッ!

エンチャント・ネオンで覆われた武器の攻撃は、当たった全ての物体を弾き飛ばす。


ガッッ! 例に漏れずオフェリアのガードした槍の柄を吹き飛ばして、、、


「ぐぅっ!痛てっ!」


、、、弾かれた柄に逆らわず、身体を回転させて勢いを利用した一撃を逆に受けるレンガ。


ヴォン!


転移する事で距離をとる。ここまで約5秒。




ーーーいや、ホントにおっそろしい人だな、勝てる気がしねぇ。。ーーー



「レンガ・・。あなた、まだネオンの特性が【弾く】一辺倒の戦い方になってるわよ?」


「う。」


「何でも弾く事が出来るエンチャント・ネオンなんて、当たらなきゃいいんだし。弾かれたとしても、勢いをいなす事だって出来ちゃうんだから。。」



「いちいち正論だな。。一応主人公チートって事になってんだから、ぶちのめさせてくれ。」



「なによ、そのチートって?ともかくレンガ、今の【弾く】ネオン特性を、本来の【転移すとばす】ネオン特性に進化させる事が、あなた能力の鍵よ。」




「ふむ。でもまあオフェリア、そう厳しくならずとも、中々に頼もしい存在に育ってくれているように見えるがのう?」



「聞いたか?おっさんいわく、頼もしくてパラネラを背負って立つ最強の男に見えるらしいぜっ!」


休憩は終わりにとばかりに駆け出し、距離を詰めると右手の鉄剣を左下から勢い良く切り上げる。


「どんだけポジティプなのよ、、、っっ!!?」


特に慌てる素振りも無く切り上げる鉄剣を躱したオフェリアにが続けざまに切り上げて、あわや直撃の場面だった。彼女だからこその超反応だったと言えるだろう。



「なにぃっ!いつの間に左手の剣がっっ!?」

思わず口から出た疑問に、その傍のクールな相棒が答える。

「・・・・武器を転移して出現させている!そんな事も出来るのか!?」




レンガは距離を取る為、バックステップと同時に両手の鉄剣をオフェリアに向けて惜しげも無く投擲する。


向かって来た鉄剣を槍で正確に打ち落とし、レンガを見ると両手にはネオンの光と共に、さっき打ち落とした物とは別の鉄剣が出現していた。



「とっておきだったのに、あれも躱すか。」ニヤリ



「武器の転移とは考えたわね、レンガ。どういうカラクリ?」




「マーキングネオンを物体に付けると、任意の場所に自由に転移させられるらしいって事に気付いたから、、、武器庫の剣に、片っ端から付けてやった!!いくぜっ!」



オフィリアに一辺倒だと苦言を呈された弾くネオンを応用し、足の裏に集中させる事で爆発的なベクトルを生み出す。一歩踏み出すごとにそのスピードが加速され、瞬間的にオフィリアとの距離を詰める!


「必殺っ!!」ザンッ!

両手に持っていた鉄剣をオフェリアに投げつけ、高く跳躍するレンガ。ネオンを両手で放ち、先ほどよりも大きなバスタードソードを空中で転移させ、刀身にネオンを纏わせる!


「ネオンブレイドォォッ!!!!」


弾くネオンの応用により十分なスピードが乗り、更にネオンを纏ったバスタードソードをオフェリアの頭上から全力で振り降ろす。


「ぬるい。」ガインッ!


「うっそだろぉぉぉっ!」ドザザッッ!


仁王立ちで微動だにもせず、ネオンを纏ったバスタードソードの一撃を一蹴され、さすがにレンガも驚愕を隠せない。



「レンガ、、、見かけ倒しのネオンブレイドじゃあ私は犯れないわよん?」



「よーーーーーーし、漢字が違う様な気がするぞ!オフェリアさん!」

しっかり者のロイドによるツッコミは正常運転だ。



「私が提唱するネオンブレイドは、超々高密度に圧縮した100%転移粒子ネオンで形成されるものであって、そんな張りぼてじゃないの。第一、刀身が大きすぎて纏い切れてないから打ち落とされるのよ。」



「・・・・だってよ、圧縮って難しいんだぞ。。やってみろってんだ。」

地面に胡坐をかきながら、掌の上にビー玉サイズの圧縮ネオンをいくつか浮遊させるレンガ。



「いやいや、中々興味深い戦闘訓練ですな。」


「・・・・・・ビックボア・ベイカー。・・・今日は見物客が多いな。」


「いや、マシュー。ロイドと君、そしてレンガのギルド登録が完了した事を伝えにきたのだよ。」


突然、訓練場の入口から現れたベイカーに一番反応をみせたロイドが、ダッシュで駆け寄る。


「やったーーーー!!ついに冒険者ギルドだぜ!っで、ベイカーさんっ!俺のクラスは何で登録?」



「ふむ。ロイドとマシューは二人とも≪魔法剣士≫のクラスで登録を行った。魔法の素養も、剣の技量も申し分無い。」


「・・・・・・まあ、妥当だな。」



「何だよ、そのクラスって?」



「ギルドにおけるクラスとは、いわゆるその人物の職業を示すものだ。レンガは、、、適当なクラスが設定出来なかった為、オリジナルクラスを用意した。」




「あら、オリジナルクラスなんて聞いたことないわね。」


「ああ、ギルド始まって以来かもしれんな。」


ベイカーの登場で、一旦休憩モードになったのか、オフェリアさんも槍に身体を預けて話しを聞き始めた。




「レンガのオリジナルクラスは、≪リフレクターくつがえす者≫だ。」



「「「おおおおおぅ!」」」



「何かオレ、カッコいいんじゃね?コレ!」

「ちょっといいな、その響き!」

「・・・・・・・別に羨ましくは、無い。」



盛り上がる三人に、無言で片手を差しだすベイカー。何かご褒美でもくれるのかと両手で受け取りに行くと、一人一枚づつ小さな赤い宝石の埋め込まれたクリスタルの板を手渡された。

「ギルドカードだ。それぞれの人間の生体情報を読み取って、自動的に情報が更新される表示魔法機器だ。それさえ提示すれば、全世界のどのギルドでも活動をする事が可能だ。」


「おおっ、じゃあ早速、、、」


赤い宝石の部分に指を当てて、魔力を流す。


【ロクオンジ レンガ】

クラス :リフレクター
魔法属性:無し
その他戦闘スキル:転移粒子ネオンを使用した転移戦闘術
過去の依頼履歴:無し




・・・・・あれ?

出てこないのか?大魔法グランナーダ運命継承フォルネティア

生体情報の読み取りで自動的に更新ってことは、、使わないと表示されないって事か。こりゃ下手すると一生表示されないままって事もありうるな。



「ひとまずギルド登録を祝って、カンパーイ!」

「・・・・・乾杯。」


浮かれモードの二人組と、カードをしみじみと眺めるレンガを見て、目を細めるベイカー。


「もはやレンガの転移戦闘は、実践においても十分に通用するレベルではないですかな、オスタ殿。」


「ワシもそう思うんじゃがな・・・・。」チラッ




「はぁ。」大袈裟な溜息を付くオフェリアさん。

「それがまだ致命的な問題が残ってるの。」



「ほう?致命的な問題ですか?」




「はぁ?オレに致命的な問題って?」




その直後、紫のスカートのスリットから伸びる美しい褐色の脚線美がオレの腹にめり込むのが見えた。


「がはっっ!!!」


身体が後ろへ吹き飛ぶ!!


「ほーら、レンガっっ!」


恐るべき脚力で地面に踏ん張って、槍の中心を右手で握り、大きく振りかぶった。


「躱してごらんっ!!」


吹き飛ぶオレに向かって放たれる、槍!


ーーー  これ当たったら死ぬヤツだろ!?ーーー


て、転移を!



ヴォォン!!


「お?」

「・・む?」


レンガが転移した先は、のんきにレモン練乳を乾杯して飲んでいる2人の前。しかも、、、


ドガッ「「「っってぇ!!」」」


出現と同時に勢いよく後ろに吹っ飛び、巻き込んだ挙句、壁に激突。



「・・・これはどういう事じゃ?オフェリア。」



「まだ座標計算が苦手なの。自分で動いてる時は問題ないけど、さっきみたいなとっさの時にコントロールが出来ないまま転移したりするでしょ?戦闘中に悠長に考えてらんないわよ、私に言わせればまだ使い物にはならないわ。」



「ふむ。しかしやり過ぎでは・・・・。」


ベイカーの眉間に深いしわが刻みこまれ、たった今ギルド登録した新メンバーが病院送りになりうる事態に懸念の表情をあらわしている。


「確かに、、ちょっとやり過ぎちゃったわね。。だって、レンガのネオンって最近衝撃の緩衝力が上がってて、お遊びだとつまんないのよね。ごめんね、レンガ。」





「・・・・じゃが、ある方面じゃ進歩が見えるようじゃな。」


ニヤッと笑ったオスタが顎で三人組を指すと、レンガが立ち上ろうとしている所だった。


「・・・ってえな。マジで死ぬレベルの蹴りと建物破壊はやめろエロババア。」

インパクトの瞬間、かろうじて間に合ったネオンの発現で衝撃を分散したお陰で内臓へのダメージはほぼ無い様だ。

レンガが躱した槍は反対側の壁に刺さり、周囲の壁が大きく抉れてクレーターを形成しており、その衝撃を物語る。





ガラガラッ ゴトッ



「う、後ろの壁がぶっ壊れてやがる、、なんでオレ無傷なんだ?」

「・・・・・それほどダメージが、、無い?」





「わぉーーー!?やるじゃないレンガ!!」

その様子をあっけにとられた表情で見ていたオフェリアが、素直な驚きの声を上げた。

初撃の蹴りは自身でも感覚があった為、あっさりと立ち上がった挙句、後方二人にまで衝撃緩和のネオンで対応する余裕まで見せられたのだ。


「うむ。オリジナルクラス、リフレクターで間違いは無かったようだ。」


「まあ、ギリギリ合格点て所にしておくわ。」



「どんだけ辛口採点なんだよ・・・。まあ、ありがとうって言ってはおくけどさ。」

首をコキコキ鳴らしながら、訓練場の隅のベンチに腰を下ろしたレンガは自分のバッグから2つの瓶を取り出し、一つをオフェリアに投げて渡す。



「何よ、あったんじゃない。焦らさないで早く出しなさいよ、その白いの。」


「「っっおおい!その表現ヤメロッ!!」」

「・・・・・ふむ、完璧なシンクロ突っ込み






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