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第九章: サバンナ・ハバンナ
第八話
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カイトたちが帰宅した時には、すでに祖父母は死んでいた。犯行に及んだ父親の姿は無かったが、
数日後に自首したらしい。その後、彼がどうなったかは誰も知らない様子だった。
ジジジジジ‥‥‥
俺は今、見覚えのないアパートの前にいた。天気は荒れていて、土砂降りだ。
「行ってきます、母さん」
傘をさしながら出てきたのはカイトだった。制服を着ていて、以前より成長していた。サウスエンドで会ったカイトの見た目と同じように見えた。
ただ変わっていたのが、その落ち着きようだ。年をとったのもあるだろうが、少し前の紙飛行機を持っていた元気な少年はどこかへと消えてしまったようだ。
小さい頃にあのような凄惨な事件を経験したら、誰でもこうなるのかもしれない。カイトはまだ普通に見えたが、母親はそうではなかった。
ボサボサの髪、目の下の隈、痩せこけた頰、全体的にやつれた姿が、あの事件がこの人に与えた影響を反映していた。
カイトの声にも応えず、ただ一瞬玄関の方を見るだけだ。
これ以上何かが起きるとは思いたくないが、ここに居るということは、何かが起きるということだろう。カイトの闇エレメントを形成した出来事が。
俺はカイトには付いて行かなかった。母親が一人になった時、何かが起きる気がしたからだ。
しかし、予想とは裏腹に、特に何も起きなかった。と言うよりも、母親はカイトが出かけた時に座っていた場所から一歩も動いていなかった。
丸で置物のように正座をしたまま、微動だにしなかった。
キイ。
扉の開く音だ。カイトが帰って来たのか?
それにしては、まだ早いと思うが。何か嫌な予感がする。
母親もカイトだと思ったのか、反応を見せなかった。俺は一足先に玄関へと行き、扉を開けた人物を確認しに行った。
嫌な予感は的中した。
そこに立っていたのは、深い緑のレインコートを着た男。フードを深く被り、顔の下半分しか見えなかった。それが誰だか、俺にはすぐに分かった。
バタン。
母親は閉まった扉の音にも反応しなかった。男はゆっくりと歩き出し、全身に着いた水の雫が時々落ち、廊下を濡らした。
何にも動じない母親だったが、目の前に現れた男を見た瞬間、無表情だった顔に変化が見えた。
最初は固まったかのように、瞬きもせず、男を直視していた。何が起きているのか、理解出来ない様子だ。
「あぁぁぁ‥‥‥」
母親は言葉にならないような声を出し、口はエサを食べる魚のようにパクパクと動いていた。
「カイトはどこだ」
その男、カイトの父親は母親に向けて言った。
母親は相変わらず唖然としていたが、父親はそんなことになりふり構わず、続けた。
「カイトをどこにやったんだ!」
父親は激昂していた。どうやら、本気で母親にカイトを奪われたと思っているらしい。
母親は座りながらだが、ベランダの方へと後ずさりしていた。相変わらず上から叩きつけるように言葉を浴びせる父親は、後ろへと動いている母親を追っていた。
動きはゆっくりだが、必死で逃げようとしている母親は、やっとの思いでベランダの鍵を開け、土砂降りの中、外に出ることに成功した。しかし、ここは13階。ベランダから降りたら確実に死ぬ。
「人の話を聞け!」
男はベランダに出た母親に容赦なく拳を振り上げる。それも何回も、何回も。雨で分かりにくいが、確実に流血している。
「も、もう、いやだ」
母親が口を開いた。それを聞いた男は殴り続けたが、それを気にせず、母親は立ち上がった。
そして、ベランダの手すりに手を掛けた。急な出来事に男も呆気にとられたのか、反応することが出来なかった。それは、ただの傍観者である俺も同じだった。
ただ、一人を除いて。
帰って来たカイトが異変に気付いてベランダまで来たのだ。カイトは何も考えずに、落ちていく母親を助けるためにベランダから飛び降りた。
それから起きたことは数秒で終わったが、俺にはとてつもなく長い時間のように感じた。
ドシャッ。
そして、聞こえる悲鳴。
カイトは母親を庇うように抱いていた。二人の周りにあった血の海は、激しい雨によって色が薄くなり、最後には透明になった。まるで、本当の海になったかのように。
数日後に自首したらしい。その後、彼がどうなったかは誰も知らない様子だった。
ジジジジジ‥‥‥
俺は今、見覚えのないアパートの前にいた。天気は荒れていて、土砂降りだ。
「行ってきます、母さん」
傘をさしながら出てきたのはカイトだった。制服を着ていて、以前より成長していた。サウスエンドで会ったカイトの見た目と同じように見えた。
ただ変わっていたのが、その落ち着きようだ。年をとったのもあるだろうが、少し前の紙飛行機を持っていた元気な少年はどこかへと消えてしまったようだ。
小さい頃にあのような凄惨な事件を経験したら、誰でもこうなるのかもしれない。カイトはまだ普通に見えたが、母親はそうではなかった。
ボサボサの髪、目の下の隈、痩せこけた頰、全体的にやつれた姿が、あの事件がこの人に与えた影響を反映していた。
カイトの声にも応えず、ただ一瞬玄関の方を見るだけだ。
これ以上何かが起きるとは思いたくないが、ここに居るということは、何かが起きるということだろう。カイトの闇エレメントを形成した出来事が。
俺はカイトには付いて行かなかった。母親が一人になった時、何かが起きる気がしたからだ。
しかし、予想とは裏腹に、特に何も起きなかった。と言うよりも、母親はカイトが出かけた時に座っていた場所から一歩も動いていなかった。
丸で置物のように正座をしたまま、微動だにしなかった。
キイ。
扉の開く音だ。カイトが帰って来たのか?
それにしては、まだ早いと思うが。何か嫌な予感がする。
母親もカイトだと思ったのか、反応を見せなかった。俺は一足先に玄関へと行き、扉を開けた人物を確認しに行った。
嫌な予感は的中した。
そこに立っていたのは、深い緑のレインコートを着た男。フードを深く被り、顔の下半分しか見えなかった。それが誰だか、俺にはすぐに分かった。
バタン。
母親は閉まった扉の音にも反応しなかった。男はゆっくりと歩き出し、全身に着いた水の雫が時々落ち、廊下を濡らした。
何にも動じない母親だったが、目の前に現れた男を見た瞬間、無表情だった顔に変化が見えた。
最初は固まったかのように、瞬きもせず、男を直視していた。何が起きているのか、理解出来ない様子だ。
「あぁぁぁ‥‥‥」
母親は言葉にならないような声を出し、口はエサを食べる魚のようにパクパクと動いていた。
「カイトはどこだ」
その男、カイトの父親は母親に向けて言った。
母親は相変わらず唖然としていたが、父親はそんなことになりふり構わず、続けた。
「カイトをどこにやったんだ!」
父親は激昂していた。どうやら、本気で母親にカイトを奪われたと思っているらしい。
母親は座りながらだが、ベランダの方へと後ずさりしていた。相変わらず上から叩きつけるように言葉を浴びせる父親は、後ろへと動いている母親を追っていた。
動きはゆっくりだが、必死で逃げようとしている母親は、やっとの思いでベランダの鍵を開け、土砂降りの中、外に出ることに成功した。しかし、ここは13階。ベランダから降りたら確実に死ぬ。
「人の話を聞け!」
男はベランダに出た母親に容赦なく拳を振り上げる。それも何回も、何回も。雨で分かりにくいが、確実に流血している。
「も、もう、いやだ」
母親が口を開いた。それを聞いた男は殴り続けたが、それを気にせず、母親は立ち上がった。
そして、ベランダの手すりに手を掛けた。急な出来事に男も呆気にとられたのか、反応することが出来なかった。それは、ただの傍観者である俺も同じだった。
ただ、一人を除いて。
帰って来たカイトが異変に気付いてベランダまで来たのだ。カイトは何も考えずに、落ちていく母親を助けるためにベランダから飛び降りた。
それから起きたことは数秒で終わったが、俺にはとてつもなく長い時間のように感じた。
ドシャッ。
そして、聞こえる悲鳴。
カイトは母親を庇うように抱いていた。二人の周りにあった血の海は、激しい雨によって色が薄くなり、最後には透明になった。まるで、本当の海になったかのように。
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