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プロローグ  お花しの種

6種’キズキキズツキテラサレテ

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 ここは何処だろうか?空?何故?
 下を見ると知らない場所
 知らない風景、知らない町並み
 目を凝らしてみると城の様なものがある
 何故俺は浮いているんだ?死んだのか?
 何にも分からない‥‥‥でも
 でも‥‥‥何故かすごく悲しい‥‥
 声が聞こえる‥‥‥
 俺は声のした方へ目を向ける。
 なにやら敦紫?が焦った顔でこちらに向かってくる。
 慌ただしい奴だな全く
 

 「ける‥‥かける‥‥‥翔!!」
 その声に驚き目を開ける。彼はベンチに横たわる様に眠ってしまったのだ。目を開けた先には敦紫と蛍先生が心配そうにこちらを上から覗き込んでくる。その後ろでは月が存在感を表す。それを見て翔は夜だと気づくと何かを思い出した様に飛び起き、周りをキョロキョロとし出す。
 「零花れいかは?」
 零花の姿はない、彼は焦って2人に聞く。起こしてくれた男たちは色々と困惑こんわくしていたのか頭をかしげて翔を見つめているだけ。何かを先生が話そうとした瞬間翔は席を立ち
 「すまん!先帰っててくれ!!」
 彼はそう言いと飛び出す様にこの庭園を抜けて行った。先生も呼び止める様に追いかけ庭園から出て行ってしまった。たった独りこの広い庭園の中でおぼろげに見える月の光が敦紫を照らす。一瞬すぎるこの状況に敦紫は困惑そして少しの怒りが心の中で芽生めばえていた。
 「心配して探したのに‥‥何だよ。」
 彼はあまり怒りを表に出さない人間だ。そうやって上手く生きてきた。怒りとゆう感情は時には人の大切な何かをにじってしまうから。
 「何が零花は?だよ!クソぉ!」
 そんな彼が怒りをあらわにしている当然のことなのだろう。
 「そんなに‥‥綺麗なのか?そんなに!‥‥美しいのか!僕や結朱花ゆずはよりもこんな花ごときに目をやられ。君は何処かに行ってしまうんだ!」
 以前と庭園の花たちは風に押され静かに揺れる。我に帰り彼は少し昔の事を思い出していた。

 高校時代、転校して来た翔はそれなりに運動神経が良かった。何部に入るのだろうかそう気になり彼が書く入部届に背後から目をやるとそこには園芸部と書いていた。少し驚いたが、人が何かをやる事にたいしてとやかく言えるほど僕は偉くない。
 「君、園芸部に入るの?」
 「うわぁ!ビックリさせんなよ。で、またお前か」
 その園芸部には部を成立する為に数人のメンバーがいたのだがその全てが幽霊部員だったらしく。翔はいつも1人で校舎と校舎の間にある中庭の花壇に水をやり、肥料をやり、ときには長靴をいて麦わら帽子を被って片手にスコップを持ち土を掻いている時だってあった。放課後も昼休憩の時もそこで1人で居座いすわっていたのだ。そんな彼と僕は仲良くなりたかった。初めてなのだ、結朱華がしっかりと目を見て喋れる彼の事が気になって仕方がなかった。いつも通り昼食の時間、辺りを見渡す結朱花の姿がない、翔はいつもの事だからどうせ中庭にいるのだろう。そう思いながらパンをかじりながら窓が空いていたので下を見下ろすとそこには、結朱華の姿がそこにはあった。その視線の先には等々くわを持って土をたがやしている翔の姿。前よりも花壇が大きくなっている。ぼくはそれを見て吹いてしまった。
 「あの子は何をしに学校に来てるんだよ。ハハハハハ!」
 その笑い声を聞いたのかクラスメイトたちがこちらにやってくると同じ様に窓から覗き込む。
 「何だ何だ?ってまたアイツかよ」
 「服もドロドロだぜ、花を育てて何かなるのかよ」
 「あいつ確か頭悪かったよなこの前のテストも赤点だったらしぜ」
 こうやってターゲットを決めては寄ってたかって人を見下す人間が僕は大嫌いだ。
 「僕は‥‥そんな事ないと思うよ」
 そう心細い声を発したのは髪はサラサラだが少し小太りの青年、食べることが好きなのだろう。いい事だ‥‥駄目だ翔ではないが名前をわすれてしまった。申し訳ない。
 「なんだよお前!!」
 そうやって彼は首根っこを掴まれてチンピラと一緒に教室に出ていってしまった。クラスメイトの子らも冷めてしまったのか自分の席に戻り昼食を再開する。気を取り直しまた僕は下を眺めると結朱華が笑っている。それもそうだろう同じ生徒があんな格好して土を耕しているのだから。
 彼これ数週間経ち、翔とは少しずつ仲良くなり僕らに見せたいものがあると言い出した。引っ張られる様に校舎をでて見せられたのは何時も翔が居座ってる花壇の場所で沢山の色んな花が植えられていた。僕はそれを見て
 「すごいね。本当に。」
 この言葉しか出なかった。花がいっぱい咲いているだけ、綺麗と思うが感動するほどのものじゃなかった。横を見ると結朱華も同じ事を考えているのだろう、そう思う様な顔つきをしていた。
 「何だよもっと感動して拍手喝采はくしゅかっさいすると思ったのによ」
 いじける翔に僕はなにも言えなかった。
 「ったく、この素晴らしさが分からないとわ、人生の半分を損してるよ君たち。」
 本当に分からない、花がいっぱい咲いてるだけだから。そこは校舎と校舎に挟まれている事もあり風が抜ける様に流れる。髪をなびかせながら翔は続けて口を開ける。
 「俺の元々住んでた場所にはとんでもなく綺麗な庭園があるんだいつか見に来てくれ。」
 彼は淡々と喋り続ける。僕らは黙って聴いている。
 「まぁいいか、花の凄さにお前らもきっとわかる日がくるさ、その時に後悔するなよ~」
 彼は指を刺してその人差し指をぐるぐると回し笑いながら僕らに言って来たのだ。

 でも分からない‥‥分からないだよ。

 花が咲き誇る場所に青年の1人がつぶやく手を見ると握り拳を作りその手は震えてそしてうつむいていた。
 どんなに素晴らし友情でもどんなに優れた機械でも少しの小さな埃が入り、綻び出すと歯車は少しづつ狂っていく。その機械を治すのも大変だが、人間のつながりとゆうのは感情とゆう厄介なものがある為治すのには中々なものだ。


 颯爽さっそうと庭を駆け走る翔、門を潜り抜け病院の入り口まで来たのだが夜のためドアは反応しない。無理やり手を入れ開けようとしてみると鍵が掛かってなかった為無理やりこじ開けるとそのまま中に入り階段をつたって2階に上がる。
 「たしか‥上の名前は、ゆきみだったよな」
 彼はその名前が書いてある名札を長い廊下を走り回って一つ一つ確認する物のそんな名前らしき名札はなかった。彼女の話によると病室は2階と聞いているのだが、何故ないのだ。それすら夢だったのか?彼は焦っているそして恐れている今日の出来事は全て夢なんじゃないのかと、あの心地よい時間もすべて彼女の存在までもそう考えると怖くなる。一刻いっこくも早く確かめたいのだ。
 「どこだ‥‥何処なんだ‥ハァハァ」
 息が上がっている彼の背後から何かの手の様なものが翔の肩に触れそうになる瞬間、その気配に気付きその暗闇くらやみから出て来た手首を掴む。その手を自身の肩に磁石の様にくっつけるとそのまま一気にしゃがみ相手の姿勢を崩す。彼自身は、その何かが体勢を崩す最中それよりも素早く体を丸め込む。相手は支えとなっていた彼の肩が一気に斜め前に向くと、壁がなくなった様に開かない扉が急に空いた様にその耐えている力の矛先は行くあてをなくす。なにもなくなった空間に相手は廻って飛ばされた。
 ウゥ、と小さな声をあげて白衣を着た男は、この冷たくて金属の様に固い廊下に背中から墜落ついらくする。その落下の衝撃で白衣の胸ポケットについてある島袋しまぶくろと書いた名札が飛び立ってしまう。それに続いて行く様にポケットに入ってあった煙草にポールペンにメモ帳に入ってある物全てが弾け飛ぶ。
 「先生!?」
 翔は気づいていなかった。自分の大きな足音に焦りみゃく打つ鼓動に追いかけてくる蛍先生のかける言葉をを全く気付けなかった。
 「先生!!零花の部屋は何処だ!」
 「少し落ち着いて翔くん!」
 蛍は翔の肩を両手で掴み取ると少し力を込める。次第に翔は、呼吸を取り戻していき空気が抜けた様にその場にドシっと座りこむ。
 「よし、そのままもう一度深呼吸して。」
 彼は言われるがままその肺にゆっくりと酸素を取り込んでいく。彼の目は尋常じんじょうじゃない程血走ちばしっていた今にもその目から何かが溢れてしまうほどに人間焦れば周りなど見れなくなるそれが当然なのだ。医師としてこの光景は珍しくはない。彼がこれ程焦っている意味は分からないが何年も見て来て数回しか見たことがない。
 「零花ってゆうのは、ゆきみさんのことかな?」
 蛍は優しくそしてそっと彼のみだれた服装を治しながら笑顔で聞いてみる。
 「あぁ。」
 「そうか、運が良かったね君の座り込んでいる後ろの部屋がゆきみさんの病室だよ。」
 彼は驚いた様に地べたに尻餅をつきながら扉の斜め上にかかってある名札を見てみるとそこには肖三と書いてある。
 「これでゆきみってゆうんだなもう少し勉強しとけば良かったよ。俺」
 「いやいや、そんなこと無いよ」
 翔はそっと扉を開けて零花が瞳を閉じ気持ちよさそうにスヤスヤ寝ている事を確認し、蛍は彼にゆっくりと応える。夜になるまで帰ってこないと、敦紫が病院まで来て探しに来た事そして庭園の門が開いていたので庭の中を探すと翔たちが眠っていたこと。どれだけ起こしても目を覚まさなかった為この夜に外で眠っている零花が体に触っては危ないと思いすぐに病室に運んだこと。全てを語った。語った上で
 「翔くん‥‥煙草持って来てるかな?」
 「医者がなに言ってんだよ。‥‥いつも通りだよ。」
 「そうか、じゃあ一本ゆずるから私の一服につき合ってくれないか?」
 


 上を見上げると月が雲上うんじょうに隠れている。この付近には街灯などなくあたり一帯が真っ黒になっている。目が慣れない間は自分が何処どこを歩いているかすら分からないほどに、前をみると蛍の姿は白い服のおかげで少し視えるぐらいだ。それを頼りにそしてついていく様にこの病院の屋上にある手摺をやっとの思いで掴む。蛍が煙草を咥え火を灯すと翔に煙草とライターを投げる。キャッチ出来ずに煙草だけ落としてしまった。火は手の中にある。そのまま翔は煙草を拾い立ち上がると、蛍は少し真剣な顔をして
 「少し君には話しておきたい事があるんだ。落ち着いてきいてね。」
 「改まってどうしたんだよ。」
 「肖三零花ゆきみれいかさんの事さ、」
 蛍は、煙を吐きながら話す。
 「零花さんは、———————————」
 蛍から飛び出して来た言葉に心臓が潰れたそれ程までに重い何かがこの心の中を押し潰す。零花が難病指定の病にかかっている事。もうそこまで死神が病室の扉をノックしている事。そして外の世界にはそれを治せそうな人間がいるのだが多額のお金がいる事。翔の一生をついやしたってそんな紙幣の山を積むことは不可能だ。
 分かってる。分かってるそんな事彼女を救えない事など、でも思ってしまう無力な自分を独りの力では何もできない。そんな愚物ぐぶつな生き物を呪ってやりたい。そんな自分に問い詰める。医者でもなければ神でもない人を癒せる魔法があるなら教えて欲しい。そうやってすがり付くことしか出来ない。今から医者になる為に勉強するのか?それじゃ間に合わない。敦紫にはまだ頭を下げていない。結朱花に至っては、事故に遭ってから目を見て話せていないプレゼントだってまだ買っていないんだ。華道家かどうかになるとゆう夢だってあったはずだ。全てを出来ると思うのか俺は、全てが中途半端‥‥中途半端だ。
 何を‥‥何を優先したらいいんだ。出口のない答えを探しているちっぽけな人間そして無力な何か。彼は花がしおれた様に下を向いている、顔もそして心もそれを日照ひでりの様に優しい眼差まなざしで見つめる髪はボサボサでネクタイも大剣と小剣が反対になって手摺りに保たれて煙草を咥えた医者としてはどうなのかとゆう格好の男がそっと撫でる様に

 「‥‥上‥‥‥見てごらん。」

 言われるがまま翔は上を見上げるとそこには先ほど雲に隠れていた一欠片ひとかけらしない月が顔を出している。この今の空にはかすんだ雲一つすらないその雲がない代わりに星がこの夜空を埋め尽くすほどの数がここにあった。その星たちは手を繋ぎ星座を作っている物もあれば個々に主張するも一切を邪魔しない光。何とも美しい光景。この世にはまだこんなにも美しい物があったのかと呆気あっけに取られる翔を見て蛍は言葉をつむぐ。
 「君は花ばかり見ているからね。上をあまり見ないだろ、こうやってたまには頭を上げてみるといいよ。美しくある物が決して花だけじゃない。比べているつもりはないさ、それに君が今心の中で考えてるいる事が手に取るように分かるよ。ほんとめんどくさい性格してるよね翔くんは」
 でもね。と蛍は続ける。


  この月や星を眺めてばっかりいると下に生えてある綺麗な花を踏んでしまう
  だからと言って花ばかり見ていると天上にある美しい景色を見逃してしまう
  私は考えたんだ。考えすぎたんだ。でもそんなに難しい事はなかった。教えもらったんだ。
  こうやって、寝転んでみるんだ。そうすると
  空を見上げる事ができる星や月に挨拶しつつも横を見れば花を撫でる事だって出来る
  傲慢だろ
  でも、それが人間さこれこそが人間なのさ
  そしてこれが私の生き方そして逃げ方
  ある人に教えてもらったことさ
  君も逃げ道はあるのだろう、ならその道を歩くのも手だ
  でも、それが嫌とゆうのなら自分の作った道を蹴り飛ばして最初に見つけた道を突っ走ってみるといいよ
  道を踏み外してもいい、後悔をしてもいい、誰にも理解されなくてもいい、でも忘れてはダメだよ。
  そんな無茶苦茶な道を歩んでも責めることなく理解する事もなく待ってくれる人だって居るはずだよ。
  君は馬鹿なんだから馬鹿らしく馬鹿みたいにやったらいいのじゃないか





 蛍は言い切ったのか、思いっきり煙草の煙を吸い込んで吐き出した瞬間強く押し出す拳が彼の頬を弾く。
 「うっがァァァァ」
 「さっきから聞いていれば‥‥‥馬鹿、馬鹿、言いすぎだろぉぉぉ!!!」
 おいおい嘘だろ、私今凄いいい感じの事言ったよね、何で殴られてるの私。そんな‥‥
 翔は立ち上がり、何も言わずにその場を立ち攫うとすると。扉の前で
 「今、先生が思ってる事手に取るようにわかるぞ、そんな無茶苦茶なだろ」
 唖然とする蛍、無茶苦茶ではない。これはめちゃくちゃだろやっている事が突然殴られたらこうなるだろ、あの流れだよどうゆう選択肢とってもこうはならないでしょ。普通。
 翔は空に指を刺すとその人差し指を円を描く様にくるっと回す。それは偶然なのか翔の頭上には一つの大きな流れ星が空とゆう大きな湖を泳いで行った。その光景に蛍は笑ってしまう。
 「何笑ってんだよ。まぁ‥‥でも」
 翔はわらって

  「ありがとう」

 翔はそう言いと扉を開け出ていってしまった。やっと風が流れている事に気付き今の一瞬で色んな事があった為なのかボーッと空を見つめていた。色々整理をしたかったので彼は煙草とライターを探しながら、
 「立派なものですね。‥‥ってあれ?あれ煙草何処行った。あぁ!翔くん煙草返してぇぇ」
 その声は彼方に飛んでいくのであった。
 
 

 
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