終わりのはじまり

第一章 サキの話

晩ご飯①

　クリスマス以降、サキは時々ユウジの家に立ち寄るようになっていた。とはいえ立ち寄ったところでユウジはいない。

　ユウジの部屋で弁当を食べ、書き置きを残して帰る。ただそれだけだったが、サキには心地良い時間となっていた。

『お帰りなさい。

今日は職場の人に笑われちゃって。

たまにユウジの部屋に寄ってる話をしたの。

彼の夜食を作って置いておくわけでもなく、ただお弁当食べて帰るの？

って言うから、ユウジは帰ったらすぐ寝るから夜食はいらないよって。

そういうことじゃなくて、女子力低すぎでしょって言われて。

女子力……確かにないって思ったら笑えてきて、みんなに呆れられちゃった。

ちょっとは料理できるように頑張らなくちゃね』

　そんな風にその日あったたわいもない出来事をメモに残して帰る。ユウジからの返事はいつも一言だったが、いつも必ず違う言葉を返してくれていた。

『頑張らなくてもそのままのサキが良い』

　数日ぶりにユウジの部屋へと来たサキは、前回の書き置きの返事を見つめていた。

　破顔した顔に気付き元に戻そうとするが、しばらくするとまた口角が上がり目尻にしわが寄ってしまう。幸せを噛みしめながら、また今日も一人ユウジの部屋で弁当をほおばって家路に着いた。