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第五章 サキの話
両親②
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「私たちがあれやこれや言ったところで、サキのことだから気持ちは変わらないのよね。」
母が一口お茶をすすり、ため息のような深呼吸のような深い息を吐き出した。
「サキ、これだけは覚えておいて。ユウジさんと別れても、次に出会った人がユウジさんより良い人だとは限らないのよ。もしかしたら今後、ユウジさん以上の人に出会えないかもしれない。ユウジさんのこと、お母さんは悪い人だとは思えないわ。やっぱりユウジさんが良かったって後悔することだってあるかもしれない。そのことだけは分かっておいてちょうだいね。」
「うん」
情けなくて涙が止まらなかった。母の言葉が胸に突き刺さる。父も母もケンカをしながらお互いの意見をすり合わせ、懸命に前に向かって進んでいたのだろうか。今なら、少し分かるような気がした。
ユウジとの結婚生活でケンカをしたことはない。でもケンカをしない=幸せというわけでもなかった。
サキはユウジとの子どもが欲しかった。
だが、なんとなくユウジは望んでいないような気がして話し合うとこが出来なかった。もし不妊治療の同意が得られなかったらと想像すると、どうしても言い出せなかったのだ。
ケンカのない穏やかな家庭、そう願えば願うほど自分の描いていた理想の家庭像から遠のいてしまっているような気がした。
それに加え仕事に励むユウジの姿を見ていると、おいてきぼりのような感覚に襲われた。開業時の借り入れ金を早く返したいとユウジが頑張れば頑張るほど、ユウジの仕事に私の力なんて必要ないのだと打ちのめされるようだった。
そんなユウジに『寂しい』の一言すら言うことができなかった。ユウジが悪いわけじゃない。自分でもよく分かっていた。
もっと自分の気持ちを素直に伝えていたら……
ユウジが何を考えているのか知ろうとしていたら……
そうすれば、何かが変わっていたのだろうか。
母の言葉の重みと、父の無言の優しさを抱え、サキは人目もはばからず泣きながら家路に着いた。
母が一口お茶をすすり、ため息のような深呼吸のような深い息を吐き出した。
「サキ、これだけは覚えておいて。ユウジさんと別れても、次に出会った人がユウジさんより良い人だとは限らないのよ。もしかしたら今後、ユウジさん以上の人に出会えないかもしれない。ユウジさんのこと、お母さんは悪い人だとは思えないわ。やっぱりユウジさんが良かったって後悔することだってあるかもしれない。そのことだけは分かっておいてちょうだいね。」
「うん」
情けなくて涙が止まらなかった。母の言葉が胸に突き刺さる。父も母もケンカをしながらお互いの意見をすり合わせ、懸命に前に向かって進んでいたのだろうか。今なら、少し分かるような気がした。
ユウジとの結婚生活でケンカをしたことはない。でもケンカをしない=幸せというわけでもなかった。
サキはユウジとの子どもが欲しかった。
だが、なんとなくユウジは望んでいないような気がして話し合うとこが出来なかった。もし不妊治療の同意が得られなかったらと想像すると、どうしても言い出せなかったのだ。
ケンカのない穏やかな家庭、そう願えば願うほど自分の描いていた理想の家庭像から遠のいてしまっているような気がした。
それに加え仕事に励むユウジの姿を見ていると、おいてきぼりのような感覚に襲われた。開業時の借り入れ金を早く返したいとユウジが頑張れば頑張るほど、ユウジの仕事に私の力なんて必要ないのだと打ちのめされるようだった。
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そうすれば、何かが変わっていたのだろうか。
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