天使達の憂鬱

樹林

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悪役令嬢とモブ令嬢

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卒業パーティーで友人達と談笑していると、「ミカエラ、貴様との婚約を破棄する!」という大声が聞こえて来た。

何事かと様子を見に行くと、チャールズ第2王子とその横には平民のエステルさん、司会でもするのかという位置にいるのは宰相の子息のサイモン様、反対側には騎士団長の子息のカーティス様。

彼らの視線の先にいるのは公爵令嬢のミカエラ様。

「どうして·····とお聞きしても?」

「貴様はここにいるエステルに酷い嫌がらせをしてきただろう!サイモン、証拠を!」

「はい、これは破られた教科書、こちらは捨てられていた筆記用具です」

はい?そんなので誰がやったのか分かるの?

「そして、昨日はエステルを階段から突き落としたな!」

「私はそんな事は致しません」

「何を言う!証拠があるんだぞ!」

「証拠とは?」

「エステルの証言だ!」

そんなものが証拠なるなら騎士団とかいらないんじゃ·····とギャラリーの誰もが思っただろう。
大体、婚約者がいるのに堂々と浮気してる方もどうなのよ。
なんで腰に手を回してるの?
こんな奴が次期国王じゃなくて本当に良かったわ。

「わたくしはそんな事は致しておりません。大体、証拠と言っても「黙れ!カーティス!」」

騎士団長の息子が話そうとしたミカエラ様を押さえつけて無理矢理跪かせる·····。

あ、自分より高位の令嬢を·····いくら第2王子の命令とはいえ、これはありえない。

「お前は未来の王子妃を害した罪で処刑する!」

いやいや、そんなの今初めて聞いたし。

大体、高位貴族の令嬢が平民に何しても咎められる筈ないわよ?

逆は即処刑だけど·····大体、エステルさんのミカエラ様への嫌がらせの方が激しかったし、そっちは見てないの?気付いてないの?もしかして見て見ぬフリ?

「衛兵!この女をひっ立てろ!」

配置済みの衛兵達がミカエラ様を乱暴に立たせて連れて行く────「はい、カット!」

「は?」

 ミカエラ様から発せられた言葉を合図に衛兵やギャラリー達が消え去り、残されたのは彼らと私だけ。

「これはなんですか!」

「皆が消えたぞ!手品か?」

「な、なんだ!なんなんだ!」

「チャールズ様、あたし怖い!」

「はーい、もう茶番はいいからねー」

抱き合う2人を無理矢理引き剥がしたミカエラ様は、その本性を現した────大きなラッパを持った美しい天使、つまりガブリエルがね。

あれよあれ、
タロットの審判のカード。

本物のタロットの意味とは違うけど、地獄にいた人達が生まれ変わる為に受ける審査的なやつ。

ここで合格したら生まれ変わる事ができるけど、ダメだったら地獄に逆戻りというわけなの。

罪人としての記憶を戻された彼らは逃げようと必死になるけど、ここの出口は1つだけよ。

我先にと扉を開ける彼らは、目の前に広がる懐かしい地獄の光景をどんな思いで見ているのかしらね。

開いてしまえばもう終わりだけど。

あっという間に扉の中へと吸い込まれて行き、扉は音もなく閉まる。

肩をコキコキ鳴らしながら私の所へと来たガブリエルは、ニッコリと笑って頭を撫でる。
これは審判が終わった後の日課で、最初は振り払ったけど今はもうなすがままにされてるわ。

「アリエル、あなたはいつ此方に戻ってくるのかな?」

「人間の都合で堕天使にされたり階級変わったり·····もううんざり」

「天使は性別はないとか?」

「天使は人間に仕える存在だとかもね」

「あれは笑えるよね」

「人間が生まれる前からいるのに誰が仕えるんじゃボケが!ってなるもの」

「そうだよね。僕も男だったり女だったりするし·····でもね、神の獅子が天界にいないと調和が乱れて困るんだよ」

「ウリエルが戻ったら考える」

ウリエルは消えた。
堕天使になったのではなく、私に自分の恩寵を無理矢理飲み込ませて綺麗さっぱりその気配を消していなくなった。
ウリエルのしていた仕事を代わりにして、自分のすべき仕事を放棄したのは私の中にある恩寵が1つに混ざりあって彼の聡明さを受け継いでしまったから。

そして、彼が戻るという事は私が消えるという事になるから、今のうちにやりたい事やらせろ!って脅してここにいる。
私の仕事はラファエルだけでもできるけど(大変そうだけどね)、ウリエルの仕事はウリエルにしかできないんだから仕方ないよね。

「ウリエルが戻る事はないよ·····彼は人間になったからね」

「はぁ?」

「僕が送ったから間違いないよ」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

「おっと、次のが来そうだね。さ、今度はどんな世界にしようか」

「ガブリエル!」

ホールの景色が西暦2050年辺りの体育館に変わると、ガブリエルが男子生徒の姿へと変身する。
私は毎回女子生徒なのは納得いかないけど、可愛いワンピース型のセーラー服だから許してやろう·····でもこの記憶は納得行かない。

「どうして私が悪役令嬢なのよ!」

「モブばかりだと飽きるかと思ってね」

「気楽に過ごさせてよー!」

「次はモブが主役だし仕方ないよ」

この審判は結構楽しいんだけど、ウリエルもこういう事をしていたのかと思うと複雑·····アズライールもだよね。人数多い時は助っ人に来るし。

「あ、悪役令嬢には前世の記憶があるって設定で、僕ともラブラブだからよろしくね」

「分かってるけど無理!絶対に無理!」

そして私達はまた審判を始める。

ウリエルがこの場所に来る日が来ない事を祈りながら───。
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