扉を開けると聖女だと言われましたが。

樹林

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「は?」と声が出たのも当然でしょう。
授業が終わり、いつも通りに彼女達に呼び出された旧校舎の扉を開けたと思ったら見知らぬ街にいたのですから。

「あっ!アイツもいる!」

その声におそるおそる振り返ると、私に嫌がらせをしていた松本和美と三田村育代がいたのでそのまま走って逃げたい気持ちになりましたが、ここがどこなのか分かりませんので仕方なく彼女達の方へと歩いて行くと、いきなり松本和美に鞄で叩かれましたので映画で見たような中性の衣装を着た方々が眉をひそめて私達の方を見ました。

注目を集めている事にもお構いなしで松本和美は更なる攻撃を仕掛け、三田村育代は私のスカートの裾を持ってたまねぎをしようとしたのですが、屈強な男性騎士3人が彼女達を取り押さえてレンガ造りの地面に顔を押さえましたので驚いて声も出ません。

「いってぇ!何すんのよ!」
「黙れ!往来で聖女様のス、スカートをまくろうとするなど貴様らは渡り人だな!」
「はぁ?渡り人って何よ!うちらのバックについてる奴らに言ったらてめぇらなんかすぐに・・・ぐえっ」

男性騎士その1が松本和美を押さえつけていた手に更に力をこめた為に、彼女はカエルのような声を出してそれ以上は何も話せなくなってしまい、三田村育代も真っ青になってガチガチと歯を鳴らしながら「ごめんなさい」を繰り返しています。

「その黒髪、黒目に短いスカートは渡り人以外にない!」
「だが・・・ら、わだりびど・・・ぐぇぇ」
「気持ちの悪い女め。おい、すぐに王宮に連絡をするんだ!」
「はっ!」

一番若く見える男性がポケットからスマホを出したので、やはり何かのアトラクションだろうとホッと胸を撫で下ろしながらも、黒髪、黒目で短いスカートというところが気になりました。

私達は厳しい学園に通っており、染髪禁止、スカートを短くする事も当然禁止されていますが、一部の生徒はそれを守らずにスカートを短くしています。染髪だけはなされませんが・・・。

それともう1つ、聖女とはどういう意味でしょう。
私はただの・・・

「聖女どの、お怪我はございませんか?」

そう問われて「ありません」と答えましたが、父よりも年上であろう男性騎士その2は鞄で叩かれた時に少し切れて血が出ている事に気付き、呼ばれて来たのであろう女性騎士に手当をするように伝えましたので、私はその方に手を引かれてその場を後に致しました。

その時に男性騎士その1とその2が松本和美と三田村育代の背を踏みつけるのを見てしまいましたが、私が彼女達にされている事ですので同情する事はできず、ただ痛そうとだけ思いながら彼女達から目を逸らして歩きだしたのです。

「聖女様にこんな怪我をさせるなど、死刑以外にはありませんね」
「あの、私は聖女ではございませんし、この程度の傷など放っておいて構いません」
「ご謙遜を、そのプラチナブロンドの髪と星の瞬くブルーグリーンの仁美は聖女の証ですよ」

これはただの先祖返りですと何度言っても聞いて下さらず、私はそのまま王宮へと連れて行かれる事となったのです。






「ほう、今代の聖女は美しい・・・が、その隣にいる芋虫どもはなんたのだ?」

筋骨隆々のナイスミドルな国王陛下に問われ、男性騎士その1が恭しく頭をお下げになられてから口を開かれました。

「この2名は恐れ多くも聖女どのの額に傷を負わせるという重罪を犯した上に、訳の分からない暴言を吐く為にこのように致しました」

彼女達には先生方も頭を抱えていらっしゃいましたし、私を含めた令嬢方もひどい仕打ちを受けていますのでどのような暴言をお吐きになられたのかはすぐに分かります。

猿轡を噛まされていてもモガモガと文句を言っていらっしゃいますし、おふたりは未だここがアトラクションだと思っているようですね。

「言い分を聞いてやろう。猿轡を取れ!」
「はっ」

男性騎士その1とその2が猿轡を外すと、松本和美がおおきく息をお吸いになられてからキッと国王陛下を睨みつけました。

「クソジジイ!うちらのバックにはヤバい奴が揃ってっからな!てめえなんか速攻でぶっ殺すから覚悟しとけ!」
「和美、ヤバいって!これ芝居じゃないっぽいじゃん」
「うるせぇ!うちらにこんな恥かかせやがって、マジてめぇらぶっ殺すかんな!」

松本和美はいつもバックにいる方々を呼ぶと言って人を脅すのですが、彼女の家格を考えればそんな事をすれば没落一直線のなるのですが私達は家族の力を使う事を良しとしていませんので彼女達のなすがままになっていたのです。

そう言いましても、全ての証拠は残してありますし松本和美の言うバックについても調べがついていますが・・・あんなものが私達を脅す材料になるなどと真剣に思っていらっしゃるのは滑稽ですね。

それにここは・・・。

「目の前で我を殺すと申したか。では、そのバックの者らとやらを今すぐ呼んで見るが良い」
「あたしのスマホ出させりゃすぐに呼んでやるし!」
「誰ぞ、その娘のスマホを渡せ!」
「はぁ?人のもん勝手に触んなよ!おい、あたしの鞄破るんじゃねえ!」

この世界にはスマホはありますがファスナーはないようで、開け方の分からない騎士その・・・たくさんいらっしゃるので番号を振るのはやめておきましょう。騎士達が松本和美と三田村育代の鞄を剣で引き裂くと教科書の類は一切出ず、3台にスマホに化粧品や嫌がらせ用の道具でいっぱいでしたので驚いてしまいました。

「暗器が大量に出てまいりました・・・それとこのような物が」
「見せてみよ」

騎士が戸惑いながら雑誌を国王陛下に手渡すと、パラパラとページをめくった国王陛下が顔を真っ赤になさり、雑誌を松本和美目掛けて投げつけました。

一体どのような雑誌なのだろうと首を傾げると、国王陛下の隣に立っておられた美男子にクスリと笑われてしまったので国王陛下以上に頬を真っ赤に染めて目を逸らしてしまいましたが不敬だと思われない事を祈ります。

「このような破廉恥な物をこの世界に持ち込むとは・・・!この2名を即刻処刑に科す!引っ立るが良い!」

「あたしのバックが黙ってねえぞ!」などと叫ぶ松本和美と「何もしてないのになんで!」と泣き叫ぶ三田村育代が騎士達に連行されて行く様子を呆然と見ておりますと、どうやら次は私の番だったようで「名を述べよ」と国王陛下に言われましたので、くるぶしまである白いワンピース型の制服の裾を軽く摘んでカーテシーをしてから顔を上げて微笑みます。

「エマ・王来王家と申します」
「ふむ、聖女というのは事実のようだな」
「いえ、私は聖女ではございません」
「謙遜せずとも良い、その白いドレスは如何にも高価な物であろう。渡り人には2種類あり、我が国では黒髪・黒目の悪女に悩まされて来たのだ。その点そなたは桃銀の髪に煌めく青い瞳、こちらの者と変わらぬエマ・オーライオーケという名を持っておる。
この世界に桃銀の髪の者はおらぬ故にそなたが聖女であると皆が確信したのだ」

口を挟む事は致しませんが、我が国では強い魔力を持つ者程淡い髪

「聖女が渡って来た国には豊穣が与えられるという伝承があってな。どうかこの国に留まり、我が民を幸せにしてやって欲しい」

ああ、そういう事なのですね。
癒しと豊穣は得意とするところですし、国の規模を考えますと一気にできるでしょう。

「それではこの場で国の豊穣を祈らせて頂きます」

にこりと微笑み、両手を組んで『この国に豊穣を、病からの解放を』と祈りますと、いつものように私の周囲に金と銀の粒子が舞い空へと飛んで行きました。

国王陛下も皆様も驚愕といったお顔をされておりますが、私の国では最高の魔力を持つ者には当たり前の事ですのでこのように驚かれるのはすこし面映ゆいものがありますね。

「これで食物はよく実り、民の病もよくなるでしょう。それではそろそろ帰宅してもよろしいでしょうか?迎えの車を待たせておりますし、門限もございますので」
「いっ、いや!是非この国に留まり、我が息子と婚姻を交わしていただきたい!」
「それは困ります。私には婚約者がおりますし、家の者が心配致しますので。あっ、先程のおふたりには私のような力はございませんのでお好きなように」

にっこりと微笑んでから時空の穴を開いてその中に飛び込みますと、勝手知ったる扉の前へと戻ってまいりました。

「恵真様!どうでしたか?」

数人の令嬢方がパタパタと私の方へと駆け寄ってまいりましたので、私もその方々の方へと足を踏み出します。

「あなた方の方は如何でした?」
「完璧でしたわ」
「そう、私のほうも上手くいきましたわ」
「ようございましたね」
「これで穏やかな学園生活を過ごす事ができますわね」
「はい!黒持ちが貴重種となってから彼女達の増長は留まる事を知らず、本当に困っていましたもの。証拠もございませんし、わたくし達のやった事だと知られる事はありませんわ。獣人族や鬼人族も喜んで下さいましたし、彼らとの交流も復活するでしょう」
「そうですね」

その後は無言で令嬢方と共に歩き出し、それぞれの迎えの車へと戻りました。

黒持ちは魔力を全く持ちませんので生活魔法すら使えません。
そして、そんな黒持ちにとって私達の魔力は麻薬のようなものだそうで、黒持ちによる魔法使いの誘拐、殺害が多発しましたが黒持ちには保護法がありますので魔法使い達は煮え湯を飲む思いで耐え忍んでおりましたが、学園に通う5名の黒持ち達は私達の婚約者に目 をつけたのです。

彼らとの婚約を臨んだおふたりはけんもほろろに断られ、その腹いせとして婚約者である私達に魔力を提供しないと婚約者達を殺すと脅し、順番に魔力の提供と嫌がらせを受けていたのですが・・・その内の1人がハイになりすぎた松本和美によって殺されかけた為にこの計画を立てたのです。

車のソファーにもたれて目を閉じてあのおふたりがどうなっているかを視てみますと、おふたりは処刑こそ免れたものの本当に魔力がないのかを徹底的に調べられ、今では魔力について調べる為の実験体となっています。もちろん、他の黒持ちも同じような目に合っていますよ。

あの世界を探し出すのは大変でした。
殆どの異世界が黒持ちを聖女として歓迎する中、漸く見つけたのがテーヴァル大陸でした。反対側の大陸では他と同じく歓迎していたのですが、テーヴァル大陸にある国々では黒持ちの者達に酷い目にあって来ていましたので「悪女」と呼んで忌み嫌っているのです。

なので、テーヴァル大陸にある3つの国にそれぞれが突然放り出されたように見せかけ、後は彼女達が私達にいつも通りの振る舞いをするだけで良かったのですから簡単ですね。

やり過ぎると報いを受けるもの。
彼女達がバックと呼ぶ黒持ち達も今頃は・・・。

その時、スマホが鳴りましたので出てみますと意識不明に陥っていた彼女が目覚めたという連絡でしたのでホッと致しました。

彼女───いいえ、魔法で私の姿に変化した婚約者はこの国の皇太子であるというのに、一体何を考えてあのようなことをしたのかは私には分かりませんが、彼が目覚めなければこの国の全ての黒持ちが処刑されていたでしょう・・・いえ、私がこの手でひとり残らず手にかけていたかもしれませんね。

車や電気、スマホといった物を開発したのは黒持ち、国を守るのは私達魔法使いと決まっているけれど、今回の事で彼女達やバックと呼んだ男達は黒持ち保護法から除外されました。

私達魔法使いが闇に堕ちると異世界へと追放されるように、彼らも異世界へと追放される事が決まったのだけど、学園での事は生徒が責任を持つ事と定められていたおかげで今回のような処置ができたのですが、本当に楽しかったですね。

ですが、他の黒持ち達はもっと恐ろしい世界に追放されたのですから、あのおふたりには感謝していただきたいものです。

「城に向かってちょうだい」
「承知致しました」

さあ、いつもの私に戻りましょう。

───いつまで持つかは分かりませんが、ね。

ふふふっ。
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