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中編 ヒロインと悪役令嬢

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続きですか?
ふふ、あなたのせっかちは変わりませんね。  

ええ、泣き止んでからトウマ様に言われた事、怪我をしても無視された事を話したのですが、両親はとても怒って下さってすぐに婚約破棄の書類を作ってトウマ様のお屋敷に参上したのです。

「婚約破棄の書類です」
「其方に次男のトウマを婿入りさせる事で両家の絆を強固なものにするという約束だろう!」
「そう思うのなら、トウマ君の躾をきちんとしておくのでしたな。こちらとしても、娘を蔑ろにするような者を我が家門に加える訳にはいかないのですよ」
「こちらは財力、そちらは歴史。それが1つになればどれだけ国が良くなるか考えないのか!」
「私はね、娘を大切にしてくれる者を婿にしたいのですよ。貴方はくだらない理由で娘を脅迫し、娘はそれをお受けした。それだけの話です」
「くっ・・・」

当主様は肩をブルブルと震わせながら書類にサインなさり、トウマ様はそれを死んだ目で見つめておられましたが、これで私は自由なのだと思うと笑みが零れてしまい、トウマ様が驚いた顔で私を凝視なさったのには驚きました。

あなたもそのせいだと思うのですね。
トウマ様が私に声をおかけになるようになったのはその日以降ですし・・・。

「おはよう」
「・・・ごきげんよう」
「あっ、オウヒ様!ごきげんよう」
「ごきげんよう。今日は課題見せませんよ」
「ええっ!ついお笑い番組見ちゃって、その後つくえに向かったんですけど、そのまま寝ちゃったんですよおおお!オウヒ様、お助け下さい!」
「もう、だから課題を先にしてと言っているでしょう?」
「つい!つい見ちゃうんです」
「ふふ、あなたは本当にお笑いが好きなのですね」
「お笑い芸人目指してますしねっ」

あなたがそのまま私の背中を押して教室に連れて行くから、トウマ様は置いてけぼりになったのですよ?あら、あれはワザとだったのですか。

ええ、3年生で私達とトウマ様課方が同じクラスになりましたね。

「オウヒ、話があるんだ」
「オウヒ様はないと言ってます!」
「君には関係ない」
「関係大ありですよ!私達はオウヒ様の親友ですしね」
「そうですわ。オウヒ様はわたくし達がお守り致します」
「ええ、わたくしもオウヒ様をお守りさせていただきたいわ」
「トウマ様のこれまでの行いを考えますと、オウヒ様に近付くのは許されないと思います」

あの方達はトウマ様のお友達の婚約者だったでしょう?
ですが、皆様は私の婚約破棄をお聞きになって後を追うように婚約破棄なさったので驚きましたよ。

あなたには婚約者はいませんでしたよね・・・えっ、恋愛結婚推奨?良いご両親ですわ。

皆様が壁になって下さったおかげで、同じクラスなのにトウマ様と話す機会はなかったのですが、実は卒業式の捕まったのです。

そう、私が30分も遅れて皆様のところに戻った時です。

「オウヒ、僕は君をたくさん傷つけた・・・本当にすまない」
「今更です」
「僕は我儘なオウヒの事が嫌いだった。人形のようになった時も、それが自分のせいだとは考えずに悪口を言って、徹底的に無視して、オウヒに嫌われようとしていたんだ」
「上手くいって良かったではないですか。お話がそれだけなら私はこれで失礼致します」
「違う!もう僕の事なんかどうでもいいと思ってるのは分かってる。でも、本当に今更だけど・・・僕はオウヒが好きだ」
「ありがとうございます。ですが私はトウマ様が大嫌いなのでその告白をお受けする事はできません」
「・・・これからの僕を見て欲しい」
「え?」
「今じゃなく、高等部の3年間の僕を見て変わったと思えた時に返事が欲しい」
「そんな事を言われましても・・・」

とても悩みましたが、トウマ様がしつこ・・・コホン、情熱的に仰られ、はいと言うまで掴んだ手を離して下さらなかったので仕方なく了承したのですが、ふと思ったのです。

ヒロインは我が家の養女にはなりませんよね。
そうなるとトウマ様方はどうなるのだろうと・・・。

それなのに、どんなツテを使ったのかアミカは高等部に入学してきたので、甘い考えは捨てましたよ。

絶対にアミカには近寄らない、捏造されても困るので半径1メートル以内には近寄らないのだと決意したのですが、彼女の方から近寄って来たので驚きました。
 
「オウヒ様!一緒に食べてもいいですかあ?」
「却下!椅子が足りないし」
「オウヒ様と半分こすれば座れるじゃないですかあ」
「あなた、何を言っているの?オウヒ様に庶民の真似事をさせるつもりですの?」
「はぁ?庶民だの上流階級だの言ってんじゃねえ!」

この時は本当に怖かったです。
アミカが初っ端から本性を出し、それを攻略対象達が見てドン引きするという構図に、確かここはオウヒに転ばされたアミカにトウマ様が手を差し伸べるというイベントではなかったかと首を傾げていたのですが、どう見てもアミカが悪者でしたね。

まあ、だから先輩も同方や級生に「私はオウヒの味方です」と言われたのですか。

ですが、アミカは全く懲りずに色々と頑張ったのです。

「オウヒ様に教科書を破られました!」
「昨日は発熱で早退しました」
「オウヒ様が私の制服に泥を!」
「泥を掴むなんて私にはできません」
「オウヒ様が私の鞄を池に!」
「生徒会の用事で他校に行っていました」
「オウヒ様があああ」
「ネタ切れですの?」

うふふ、私も少し楽しんでしまいましたのよ。
だって次はどんな自爆をするのかしら、って思いませんでした?
思いますよね!

ですが、制服や教科書は高い物ですのでアミカは3年間スカートが夏用でしたの・・・ええ、本当ですよ。

「アミカ、もうおやめになったら?」
「あんたが悪いんだよ!ちょっとはいじめてこいっつーの!」
「私は自分がされて嫌だった事を人にするつもりはありません」
「・・・あんた、イジメにあった事あんの?」
「ええ。トウマ様方に酷い悪口を言われたり、無視されたりしましたので、同じ思いを人にさせたくないのですわ」
「えっトウマとかがイジメ?マジ最悪。何それムカつく!あー、乙女ゲームとかやってらんねえよ!」

ツインテールに大きなリボンがアミカのトレードマークでしたが、ボリボリと頭を掻いていたアミカがガバッとリボンに手をやると、淡いピンクのリボンはくるくると螺旋を描きながら床に落ちました。

あなたもご存知の事ですが、アミカの魂は前世の記憶を持つ男性だったのです。その上、異性愛者ですので一時は頑張って攻略してようと考えたのですが、やはり男性を愛するのは無理だと仰ったの。

・・・氷が溶けてしまいそうですよ。
水分補給はキチンとしないといけませんし、お菓子もどうぞお食べ下さい。

ねえ、あなたは・・・いえ、何でもありませんわ。

次はなんでしたっけ?
ああ、アミカのことですね。

魂は男性なのだと打ち明けて下さったアミカは、ボロボロと大粒の涙を零しながら私に縋り付いたのです。

「俺、マジ訳わかんなくてさ。何でこうなってんのか・・・俺は中学でヤンキーやっててさあ。あ、このゲームは俺よりこええ姉貴にやらされたんだよ。あの女、面倒な所は全部俺にさせやがったから覚えちまってさ。スチルさえ見れりゃ満足だとか言いやがって・・・」
「それは大変でしたね。私は絶望して心を閉ざしましたが、今は皆様と仲良くやっています。あなたもご自分のしたいようにお生きになられた方が良い人生を送れると思いますよ」
「やっぱ、あんたも転生者かよ。なんだよこれ、漫画か小説みたいだな」
「そうですね。ですが、自分の運命を呪うのはやめましょう。あなたが男性として生きたいのなら、方法はいくらでもありますよ」

そういう話をした翌日、アミカはご自分の魂は男性であると公表して男性として生きられるよう病院にも通い、今は立派な男性になりましたね。

ねえ、やっぱり聞いておきたいのだけど・・・あなたはアミカとお付き合いしているのでしょう?
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