【全59話完結】転生騎士見習いの生活

酒本 アズサ

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58.姪っ子誕生

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 三月の暖かい日が増えきたある日、昼の休憩で食堂へ向かう時、ブリジット姉様から手紙が届いていると管理人さんから渡された、だが筆跡が違う。
 妊娠発覚から少なくても月イチで手紙のやり取りをして様子を聞いていたし、母乳に関するレポートもエミーリア義姉様に言って送ってもらっている。


 既に臨月、もしやと思いワクワクしながら封を切る。
 予想通り侍女の代筆で出産を報せる手紙だった、産まれたのは女の子で姪っ子誕生に管理人室前で手紙を抱き締めて飛び跳ねて喜んでしまった。


 余程ニヤけてたのだろう、アルフレートの視線が生温かい。


「ブリジット様が無事出産した様だな、ルードルフの時と同じ顔してるぞ。 とりあえずおめでとう」


「うん! ありがとう!」


 俺は急いで食事を済ませ、明日の休日の十時に遊びに行くと手紙を書いて管理人さんに出してもらう様頼んだ。


 午後の訓練に向かう時にライナーがポツリと呟いた。
 

「姪っ子が産まれたならこれまで以上に休日に俺達と遊ばなくなっちゃうんだろうね…」


 ふぅ、と力なくため息を吐く。


「いやいや、そんな事ないよ!? 実家と違ってクロージク伯爵家に通うなんてしないし出来ないから!」


 寂しげなライナーに慌てて否定する、実家は俺のテリトリーでもあるけど、あくまでブリジット姉様は他家に嫁いだ身だ。
 実家の様に気軽に遊びには行けない。


 そんな会話をしながら訓練場へと向かう、最近は見取り稽古を減らして騎士達が手合わせの相手をしてくれる事が多くなった。
 去年の春より一回り大きくなった木剣を使って手合わせをする。


 一年目の騎士達は俺達の相手をする事によってこの春から正式な騎士として採用される学校の卒業生達の相手をする時の手加減の仕方の練習相手にいいらしい。


 後に響かない程度にダメージを与える練習というべきか。
 そんな訳で結構痛い思いを俺達三人はしている。


 それでもおかげで腕はかなり上がっていると自分でも分かる、俺は左の剣で相手の攻撃を受け流して右の剣で攻撃するスタイルなんだが、小柄な身体を活かしたスピードタイプで調子が良ければ一本取れたりする。


 ちょっとした裏技を使って動体視力も上げてたりもする、本をパラララ~っと高速でめくるのを見る、それだけ。
 ちなみに内容は当然読んでない、動く本のページの速さに目を慣らすのが目的だ。
 音ゲーでなかなかクリア出来ない時にあえて一段上のレベルに挑戦してからやると、元のレベルがゆっくりに見えるのと同じ原理だ。
 そんな裏技使っても連日痣は無くならないけど。


 そのままでも痛くない時は回復魔法も使わない、あえて痣を自然治癒する事で痣ができにくくなるらしい。
 叩いて鍛えるみたいなものなのかな?


 ただ、顔は周りが痛々しいから治す様にと言ってくるので治癒魔法を使っている。
 カール兄様に以前それを言ったら近衛騎士は見た目も重視だから傷は常に治癒されると言っていた。


 腕の良い騎士に当たると余裕があるので遊ばれていると感じる、根拠は俺にダメージ与える時にいつもお尻を狙って剣の平面で叩いてくるのだ。
 おかげで治癒魔法を使わないと夕食を座って食べられなくなったり、懐かしい蒙古斑みたいな痣が出来てたりする。


 いつか腕を上げて仕返しすると心にブラックリストを作成している。
 ちなみにお尻に治癒魔法を掛けているところをクルト先輩やヨハン先輩に見つかるとかなりウザ絡みされるので基本的にトイレで治癒魔法を掛けている。


 以前は訓練後に自室で治癒魔法を掛けていたが、教師の会議があるからと授業が減って早く帰って来たサミュエル先輩に鏡の前でお尻の状態を確認している姿を目撃されて以来やめた。


 平静を装っていたが、無駄に顔に力が入って肩や腹筋まで微妙に震えていたので完全に笑いを堪えていたと思う。


 大浴場でお尻なんて何度も見られているのに、部屋で見られるとどうしてあんなに恥ずかしく思うんだろう…。

 
 翌日、カール兄様は休みではなかったので一人でクロージク伯爵家に馬車で向かった、流石に実家以外の伯爵家に行くのに徒歩だと格好がつかない。


 クロージク伯爵家に着くとブリジット姉様の義父母である現当主夫妻が家令と共に出迎えてくれた。
 本来当主に会うなら客室まで家令が案内してからなのにわざわざホールで待っててくれたようだ。


「お久しぶりです、クロージク伯爵。 昨日の今日で訪問してしまい申し訳ありません」


「いやいや、クラウス君ならいつでも大歓迎だよ。 ブリジットに君が来たらすぐに部屋に連れてきて欲しいと頼まれててね、さぁ行こうか」


 クロージク伯爵は奥方にスッと左の肘を出し、自然な動作でエスコートして階段を上って行く。


「息子はブリジットの部屋で孫と一緒に待ってるんだ、久しぶりにクラウス君に会えると喜んでいたよ。 なんでも凄い文書を書いたんだって?」


「そんな…、少しでも赤ちゃんが元気に育ってくれる様に本で読んだ知識を詰め込んだだけの物ですので、そんな言い方されると照れますね」


 そんな会話をしていたら先導していたら家令がブリジット姉様の部屋をノックした、今は二人の寝室ではなく妻の私室に一人用ベッドとベビーベッドを置いて過ごしている様だった。


「やぁ、クラウス君。 よく来てくれたね、私もブリジットも楽しみに待ってたんだよ。 素晴らしい文書を見せてくれてありがとう!」


「ニコラウス義兄様、お久しぶりです。 僕の文書がお役に立てたのなら嬉しいです」


 優しくハグをしてくれながら歓迎してくれた、俺がブリジット姉様に似てるから可愛がってくれる良い人だ。


「ずるいわ、あなたったら! クラウス、こっちに来て姪っ子を抱っこしてあげて。 その前に私もね」


 悪戯っぽく微笑んでベッドの上から俺を呼んだ、お互い頬にキスを送る。


「ブリジット姉様、おめでとうございます。 出産お疲れ様でした。 この子が俺の姪っ子なんですね、名前は決まったんですか?」


 ベビーベッドには色合いはブリジット姉様、顔立ちはクロージク伯爵夫人によく似た女の子が自分の拳をしゃぶっていた。
 抱き上げると今のルードルフよりも当然軽いので思わず頬を緩めてしまう。


「軽~い、お祖母様に似て美人さんだね~」


「ふふ、そうでしょ。 髪や瞳は私と同じなのに顔立ちはお義母様によく似てるの、だからお義父様がとてもお喜びなのよ。 ただ名前は候補から絞り切れなくて悩んでるとこなのよ」


 ブリジット姉様の言葉にクロージク伯爵が頷く。


「そうなんだよ、産まれるまでは嫡男を期待していたんだが孫を見たら妻によく似て可愛くてね。 この子の夫になる奴をしっかり見極めてからじゃないと死ねないと思ってるよ」


 ワッハッハと豪快に笑うと、声に驚いて赤ちゃんが泣き出してしまった。


「あはは、お祖父様の笑い声に驚いちゃったねぇ。 よしよし、大丈夫だよ」


 軽くハーフスクワットする様にしながら背中をトントンしてあげると、ふにゃふにゃ言いながら泣きやんだ。


「凄いね、クラウス君。 私は父親なのに泣き出したらお手上げなんだよ…」


「慣れですよ、慣れ。 甥のルードルフで慣れてますから。 いつか従兄のルディと一緒に遊ぼうね~! あ、出産祝いを届けに来たんでした」


 ベビーベッドに赤ちゃんをそっと寝かせて、マジックバックから四つの円座と赤ちゃんを寝かせる用の大きい円座を取り出した、ブリジット姉様には使い方を手紙で教えてある。
 それを見るなりニコラウス義兄様が反応した。


「あっ、それ、今王宮で広まってる椅子に敷くクッションだよね? 品薄で手に入らないって聞いてたけど、よく手に入ったね」


「ふふふ、コレは俺が最初に特注したんですよ。 産後に硬い椅子に座ると負担が掛かるので食事の時や寛ぐ時に使える様にと思って。 あと文官の仕事等で座りっぱなしのせいで痔になるのを防ぐ効果もあります」


「そうらしいね、宰相も使ってるとか」


「はい、最初にアドルフ兄様が家から一つ持ち出して使ってたら宰相が欲しがったので、お店が商品化して販売する事になったそうです」


 ちなみに普通サイズはピンク二つと水色、黄緑で大きいサイズは男女問わず使える優しい黄色にしてある。
 クロージク伯爵とニコラウス義兄様も使える様に色を変えておいた。


 その気遣いは正解だったらしく、手に入らなくて諦めていたから嬉しいとブリジット姉様だけじゃなく二人からも喜ばれた。
 

 ちなみに片面に後付けで家紋を刺繍してもらっている、王宮内での紛失防止だ。
 これはアドルフ兄様からのアイデアだった、宰相に取られそうになった時に持って行かれても取り返せる様にしたかったらしい。


 出産したばかりで長居するのも申し訳なかったので、姪っ子の名前が決まったら手紙で知らせてくれる約束をしてクロージク伯爵家の馬車で寮まで送ってもらった。


 姪っ子は一度もミルクを吐いたりしなかったが、帰寮したらやっぱりヨシュア先輩に絡まれた。


 
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