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第1章 夜会
(4)「なぜ」とはこちらが聞きたいです
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「そうですね、確かに情報収集に穴があったようでございます。ですが昨秋のこととなると、やはりお会いすることは無理があります」
「なぜだ」
「なぜもなにも、わたしは昨年の春から隣国北部セトレア共和国に留学をしておりました」
なぜ、とはこちらが聞きたい。
なぜ、仮にも将来結婚する可能性の高い婚約者候補の筆頭だったわたしが留学するのを知らなかったのか。
なぜ、わたしが国を空けていることに気づかないのか。
学院に所属する貴族子女について情報に抜かりがあったのはわたしの落ち度だけれど、ヘルムート殿下のそれとは比べ物にならないはずだ。
「ヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「俺は知らなかった! 留学の証拠はあるのか!? お前はマヌエラが嘘をついたと言うのか!?」
今度こそため息がもれる。
ヘルムート殿下は昔から思い込みの激しい性格だった。この様子ではわたしがなにを言っても納得されないだろう。
どうしたものかと考えていると、そっと肩に手を置かれる。振り向くと深いスミレ色の直毛を一つ結びに肩に垂らし、柔らかな蓮のような薄赤の瞳を細めた男性、ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト様が立っていた。
ご入場はまだのはずなのに、なぜここにいるのだろう。
「ディーデリヒ様」
「大変だねぇ」
口角がむずりと動く。表情を引き締めるとディーデリヒ様はヘルムート殿下に相対するようにわたしの前に立った。
「ヘルムート殿、お初にお目にかかる。ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒトだ。貴方のお噂は色々と聞いているよ。よろしく」
「ああ、俺はティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスだ」
前半、敬語ではないことに気分を害した様子を見せたがディーデリヒ様が隣国の皇太子と知ってヘルムート殿下は一応の挨拶をした。
「パトリツィア嬢が北部セトレアに留学していたことは僕がルセアノ皇国の皇太子として証言しよう。なんせ北部セトレアで共に学んだ仲だからね」
まあ、このティリシス王国の高位貴族でパトリツィア嬢の留学を知らない人間の方が少ないだろうけど。
そう言い添えてディーデリヒ様は一歩下がった。
「申し訳ございません。せっかくの歓迎の場ですのに、主賓である貴方のお手を煩わせてしまって」
「いいよ、面白い見せ物とでも思うから。まあ、ヘルムート殿が王位を継ぐようなら今後の国交については考えなければいけないけどね」
ディーデリヒ様の言葉に周囲の貴族たちがさざめく。
三十年近く断絶していた国交がようやく回復しようとしているのに、そんな貴族たちの心の声が聞こえそうだ。
このままでは国交回復に尽力した人々の努力が水の泡になり、これからの貿易で富を得ようとしていた人々の目算も外れることになだろう、と考えているのかもしれない。
「なぜだ」
「なぜもなにも、わたしは昨年の春から隣国北部セトレア共和国に留学をしておりました」
なぜ、とはこちらが聞きたい。
なぜ、仮にも将来結婚する可能性の高い婚約者候補の筆頭だったわたしが留学するのを知らなかったのか。
なぜ、わたしが国を空けていることに気づかないのか。
学院に所属する貴族子女について情報に抜かりがあったのはわたしの落ち度だけれど、ヘルムート殿下のそれとは比べ物にならないはずだ。
「ヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「俺は知らなかった! 留学の証拠はあるのか!? お前はマヌエラが嘘をついたと言うのか!?」
今度こそため息がもれる。
ヘルムート殿下は昔から思い込みの激しい性格だった。この様子ではわたしがなにを言っても納得されないだろう。
どうしたものかと考えていると、そっと肩に手を置かれる。振り向くと深いスミレ色の直毛を一つ結びに肩に垂らし、柔らかな蓮のような薄赤の瞳を細めた男性、ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト様が立っていた。
ご入場はまだのはずなのに、なぜここにいるのだろう。
「ディーデリヒ様」
「大変だねぇ」
口角がむずりと動く。表情を引き締めるとディーデリヒ様はヘルムート殿下に相対するようにわたしの前に立った。
「ヘルムート殿、お初にお目にかかる。ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒトだ。貴方のお噂は色々と聞いているよ。よろしく」
「ああ、俺はティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスだ」
前半、敬語ではないことに気分を害した様子を見せたがディーデリヒ様が隣国の皇太子と知ってヘルムート殿下は一応の挨拶をした。
「パトリツィア嬢が北部セトレアに留学していたことは僕がルセアノ皇国の皇太子として証言しよう。なんせ北部セトレアで共に学んだ仲だからね」
まあ、このティリシス王国の高位貴族でパトリツィア嬢の留学を知らない人間の方が少ないだろうけど。
そう言い添えてディーデリヒ様は一歩下がった。
「申し訳ございません。せっかくの歓迎の場ですのに、主賓である貴方のお手を煩わせてしまって」
「いいよ、面白い見せ物とでも思うから。まあ、ヘルムート殿が王位を継ぐようなら今後の国交については考えなければいけないけどね」
ディーデリヒ様の言葉に周囲の貴族たちがさざめく。
三十年近く断絶していた国交がようやく回復しようとしているのに、そんな貴族たちの心の声が聞こえそうだ。
このままでは国交回復に尽力した人々の努力が水の泡になり、これからの貿易で富を得ようとしていた人々の目算も外れることになだろう、と考えているのかもしれない。
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