婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし

文字の大きさ
6 / 21
第1章 夜会

(6)ようやく夜会が始まります

しおりを挟む
「だが、お前は俺の婚約者として扱われていただろう」


 確かに学院へ入学して留学するまでの一年半は周囲――とくに第一王子派の貴族の令嬢たちから実質婚約者のような扱いを受けたけれど、実際には婚約していなかったのは学院の誰もが知っていたはずだ。

 わたしが筆頭とされていたけれど婚約者候補は他にもいたからだ。


「お前が望み、ラインマイヤー公爵が権力を手にせんがために婚約したのではないのか?」


 わけが分からないという顔をされても、わけが分からないのはわたしの方だ。


「ヘルムート殿、この辺りにしてはどうだ。客観的に見ればどう考えてもパトリツィア嬢にマヌエラ嬢とやらを虐める利はないし、理由もない」

「……」


 ヘルムート殿下がディーデリヒ様を睨み付ける。それを受け流しディーデリヒ様は会場前方の大階段を見上げた。


「それに夜会の始まる刻限も過ぎている」


 段上にある王族専用のテーブルの前にはすでに国王王妃両陛下と王子殿下方、そして先月一歳になった王女殿下を抱いた側妃様が並び立っている。

 本来ならヘルムート殿下もそこに並び、国王陛下の声でディーデリヒ様が迎え入れられる手はずになっていた。


「ディーデリヒ殿、息子が手間を掛けた」

「なぜ私が!」

「ヘルムート、下がりなさい」


 威厳ある国王陛下の声にディーデリヒ様が静かにボウ・アンド・スクレープで応える。
 対してヘルムート殿下は抗議の声を上げたが、陛下は退出を命じた。


「もとはと言えばパトリツィアが……!」

「下がれと言っている」


 その厳しい声に侍従たちがヘルムート殿下へと近づく。
 促されてヘルムート殿下はマヌエラ様を連れて不承不承退出した。会場は静まり返っている。


「ディーデリヒ殿、こちらへ」

 国王陛下に呼ばれディーデリヒ様が大階段を上がる。
 王族の揃う段上の一段下でディーデリヒ様が立礼を取った。さらに促されて段上へ上がるとディーデリヒ様が会場へと向き直る。


「では、みなに紹介しよう。ルセアノ皇国皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト殿だ。このたびの国交回復の立役者でもある」


 会場から拍手が鳴ると国王陛下が頷いてそれを収める。


「そして、ここで喜ばしい発表がある。パトリツィア、こちらへ」


 国王陛下の声がやたらと響いて聞こえた。大階段の近くにいたわたしは後方へ向き直り軽く立礼をする。それからゆっくりと大階段を上がった。

 大階段の三分の二ほどまで上がると階段の奥行きが広くなっている場所がある。先ほどディーデリヒ様が立礼を取った場所だ。

 そこで王族に向かいカーテシーをする。深く頭を下げて二呼吸。ゆっくり頭を上げると、さらに段上へと呼ばれる。
 ディーデリヒ様と並んでわたしも会場へと向き直った。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません

かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。 ……約束の時間を過ぎてから。 侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。 貴族の結婚なんて、所詮は政略で。 家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。 なのに…… 何もかも義姉優先。 挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。 挙句の果て、侯爵家なのだから。 そっちは子爵家なのだからと見下される始末。 そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。 更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!? 流石にそこはお断りしますけど!? もう、付き合いきれない。 けれど、婚約白紙を今更出来ない…… なら、新たに契約を結びましょうか。 義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。 ----------------------- ※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

婚約破棄で見限られたもの

志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。 すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥ よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。 一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。 更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

処理中です...