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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
十四話「捜索、難航」
しおりを挟むどうやら盗賊探しは難航しているようだ。
キースは朝から晩まで帝都の周りを捜索しているが、一向に手がかりが掴めないらしい。しょげた顔のキースが申し訳なさそうに私にそう言い、ガルスさんはイラつきながら机を叩いていた。
そう、なぜかガルスさんがうちのギルドにいる。討伐隊を再編成した結果うちのギルドメンバーが約半数となったため、作戦本部も協会ではなくギルドに作ればいいとなったそうだ。場所も近いから。
いやいや、場所近いんだから尚更協会でよくない?支部長は支部にいなよ。しかも会議室とかじゃなくてロビーの一角にって、いくら端っことはいえ邪魔だって。
「ガルスさぁん。なんでここで作戦会議してるんですか」
「ここが一番効率良いんだよ。柔軟に移動できるし、デカい投影地図があるし。何よりお前の見張りもできるしな」
「私を見張ってどうしようっていうんですか」
ギルドハウスのロビー壁面にはキース特製、帝都近郊の地図を投影できる魔道具がある。まあ私が攫われまくるのでその位置をギルドメンバーに共有するために作られたものなんですけど……
ガルスさんは今回の盗賊団に関してすごい私に固執してるけど、何なの?関係ないってば、ねぇ?
「あれ、ギルは?」
諦め悪く作戦本部に張り付いて、ガルスさんに疎まれてたはずなんだけど。
「邪魔だから訓練でもしてろと言ったら、あっちの訓練場の方に走っていったぞ」
くい、とガルスさんが親指で指したのはギルドの裏手側。ギルド裏側にはギルドメンバー専用の宿舎と訓練場があるため、ギルはそこに行ったんだろう。
「お前もふらふら様子を見に来るくらいなら少しは手伝え。情報を吐け」
「嫌ですよ、通りがかっただけです。何も知りません。頑張ってください」
一階の酒場に柿ピー買いに来ただけなんだって。あーやだやだ、さっさと執務室に戻ろう。
私にできることはもう何もないんでね。
+++
「本当に、何なんだあいつ……」
「……うちのマスターが申し訳ありません」
捜索からすでに二日が過ぎ、討伐の日は翌日にまで迫っているものの、盗賊団の潜伏先はいまだに判明していない。最初に盗賊団を見つけ出し、一度目の討伐の際にも助け舟を出したクリアは何かしらの情報を掴んでいそうだが、今度こそ自力でやれとばかりにこちらに丸投げしている。
シーファがガルスに謝るが、シーファは彼女の投げた仕事をしばしば代わっている。彼女に振り回されている被害者の一人だ。
「遠くには行っていないはずだ。いくら遺物を使っているとはいえ、大人数が隠れながら移動するのは容易なことじゃない。必ず近郊にいるはずだ……」
『こちらリアーナ、地点十四から十六にも形跡なしです』
「ちっ、リアーナは東方面に移動し地点二十五と二十六の捜査に向かえ」
最後に盗賊団が確認された地点を中心に、潜伏できそうな場所に番号を振り風潰しに捜索しているが、今のところ全て空振りだ。
捜索の面子はシャルティエ支部で捜索に優れている十数名に加えてキース・マルセルとユリエラ・リッヒだ。遺物の個数の関係で少人数になってしまったことが悔やまれる。
リアーナは普段受付嬢として働いているが、彼女は本来偵察部隊所属の星三冒険者にも勝る強さの持ち主だ。少人数になってしまった分精鋭の者を揃えた。それでも、まだ、見つかっていない。
「もう、あらかた探し尽くした……なぜ見つからない……!」
「これ以上捜索範囲を広げてもおそらく無意味でしょうし……一体どこに……」
作戦本部にて状況を聞いているガルスやシーファ、一部の討伐隊参加冒険者達も敵を見つけられなければどうしようもない。明日までに盗賊団を見つけられなければ討伐は中止、奴らの勝利だ。
『……あ、あの』
「どうした、キース」
『あ、はい……一つ、捜索して、ない場所が……あるかなと……」
「! どこだ!」
『……遺跡の中、です』
帝都近郊には三つの遺跡がある。
遺跡には魔力の力場が発生しているため、外から中の様子を魔道具や探索魔法で探ることはできない。
確かに遺跡内に潜伏された場合こちらも中に入ってみないからには捜索は不可能であり、まだ見つかっていないことにも納得がいく。だが。
「遺跡内に拠点を作るなんて、不可能だろう。遺跡内に沸く魔物をコントロールすることはできない上に冒険者の出入りが激しい。しかも長時間滞在するには環境が過酷すぎる……」
『でも……可能性は、あるかなって……』
「……分かった」
キースが言うのであればその可能性もかなり高いということだろう。確かにこれだけ探して出てこないということは、見逃していると考えるよりまだ捜索していない場所に潜んでいると考える方が妥当だ。
「総員に継ぐ!これから三部隊に分かれて帝都近郊の遺跡内を捜索する!それぞれ現在地から最も近い遺跡へ誘導する。遺跡近くに到着したらそこで各自合流して遺跡内の捜索を開始しろ。あくまで盗賊の捜索だ、無理に魔物を倒す必要はない!定期的に外へ出て体調面には気をつけろ。隅から隅まで調べ尽くせ!」
▷▷▷
時刻は夕方。
捜索隊からの報告は芳しくない。遺跡のレベルはどれもそこまで高くはないが、通常の捜索と遺跡内での捜索は全く勝手が違う。
魔物と戦闘になる確率は隠密系の遺物を使用していることから通常よりは低いが、遺跡にはトラップや特殊環境などに気を配らなければならない上に遺跡の強い魔力の力場は魔力強化がされている冒険者でも長時間居続けると調子が悪くなる。
つまり捜索効率が著しく下がるのだ。
「遺跡じゃないのか?いや、だが……くそ、もっと人員を投入できればいいんだがな」
「遺物なしで動けばまたしてもこちらの動きを察知されるでしょうからね……」
「……あのー、すみません、少しよろしいですか?」
声をかけたのはギルド受付のニコラだ。申し訳なさそうに縮こまりながら作戦本部へと近づいてくる。
「ニコラさん、どうしたんですか?」
「もしかしたら、もっと早くに伝えれば良かったかもしれないのですが……マスターが、」
「クリアがどうした?」
「マスターが、昼前に出かけなさったきり帰ってきていません……」
「―――!?」
「マスターは何と言って外出を?」
「ちょっとそこまで、屋台の焼き芋を買いに行くと……すぐに帰ると仰ってたのですが……」
「……確定ですね」
クリアが動いた。
あいつはもう盗賊の居場所を特定したというのか。
「マスターからの連絡を待ちますか?」
「……いや、散々知らんふりをしておいて、今さら助けてやろうってのも生意気だ。連絡がくるまでは自力で捜索を続ける。あいつに出し抜かれてたまるもんか!」
ガルスが机を叩いて吠える。
「何としても盗賊を見つけ出せ!!あいつがおちょくっているあいだに!!」
討伐開始まで、あと一日。
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