41 / 64
第一章『大規模盗賊団討伐作戦』
*閑話4「牢屋と悪夢と人生論」②
しおりを挟む「さーて」
リオは倒れた男を見下ろす。
クリアの指輪を取り返す時、その時にもこの『悪夢さよならのお守り』を使って記憶を消しつつ眠らせたのだった。
リオの存在を隠蔽するため記憶を消しに来たのだが、この男はそもそも記憶を消去済みだったし姿を見られてすらいなかった気もする。
(まー、クリアにちょっかいかけた分ってことで)
この遺物は記憶消去の際におぞましい悪夢を見せる。
精神に作用するような遺物は危険物として隠密系の遺物と同じく許可がいるが、リオは当然無許可である。そもそも最悪気が狂うレベルの悪夢を見せるこの遺物は十分規制の対象になり得る。申請したところで回収されるだけだ。
リオはするりと牢屋を抜け出すと、もう一人のお目当ての人物を探して歩き出す。
遠くに見張りの騎士が二人。リオに気がつく様子はない。今日のリオは『隠密パーカー』に加えて他の隠密系遺物を複数使い、完全に気配を消している。
リオが自ら姿を見せるか、相当探知や勘に優れた者ではない限り、まずバレることはない。
帝国騎士団もリオにとってはその程度だ。
一つの扉に目を留め、リオは再びガシャンと扉を開けて中へと入った。
狭い年の端に転がっている、茶髪で細身の男。リオと少しだけ戦い、あの盗賊達の中で唯一リオの姿をまともに見ていたビジャンであった。
リオは彼の腹を蹴る。
「うっ……あー?」
「起きろよ」
ゲシゲシと蹴っているとようやくビジャンが目を覚ます。昨日の軽い攻撃で今の今まで伸びていたとは考えられないが……彼の焦げた髪を見て、クリアが何かしたんだな、とリオは悟った。
「……あ!あー!お前っ……!ここどこだよ!?」
「牢屋だよ、帝都の」
モゾモゾと動いてビジャンが身体を起こす。
「牢屋……牢屋?くそー……あ、シュゼットは!?他の、他の奴はどうなったんだよ」
「全員捕まったよ」
リオがだるそうに答える。
ほんの少し戦っただけではあるが、リオはこの男がどうも嫌いだった。人を信用していなさそうな軽薄な感じが似ている故の同族嫌悪か、単に気が合わないのか、うるさいのが嫌なのか……
早く済ませよう、と遺物を手に握り直す。
「……っ、なあ、お前騎士じゃないだろ?冒険者……かもしれねぇけど、あんなコソコソしてたし、やましいことでもあるんじゃないかー?」
「…………」
「お、俺を逃がしてくれよー……そしたらお前のこと黙ってるよ、お礼もする!頼む、俺が稼がないと……妹が酷い目に遭うんだ……」
「……は?」
くだらない命乞い。こいつを逃がしてもリオに利点は何もない。
表情は真剣であるため言っていることは本当なのかもしれない。だが、こいつの言い分が気に食わない。
「お前が助かりたい言い訳に他人を使うなよ。所詮他人でしかない兄妹のために命なんかかけないし、兄妹を言い訳に命を助けてもらうなんてことはあり得ねーんだよ。自分のための命乞いもできない奴が都合良く「きょうだい」のためとか言うんじゃねぇ」
腹が立つ。
こいつの都合が良い時に「きょうだい」をダシに使おうとするその姿に、反吐が出る。
血の繋がりがあろうと無かろうと、きょうだいの繋がりなんてものは本来他人と同じくらい希薄なものだとリオは思っていた。
きょうだいを大切にするかは自分次第で、その優先順位は自分よりも必ず下にあるものだと。
ビジャンもまた、顔を赤くして叫んだ。
「っ、俺はずっと妹のために生きてる!スリやってた時も、あいつに言われてシュゼットのところで盗賊やってた時も、俺がそうしないと妹を守れなかったんだ、だから」
「自分はやりたくなかったのに仕方なくとでも言いて一の?全部お前のため、お前が決めたことなんだよ」
「誰かのため」など、あり得ないのだ。
たとえ本当に誰かのためを思って行動したのだとしても、最終的な意思決定は自分にあるのだから。結局、自分が何をするかを決められるのは自分しかいない。
だからこそ、リオはビジャンの軽薄そうな繕った顔の裏にある、不服そうに不貞腐れている感情に腹が立つ。
したくないならしなければいい。
自分のためだけに生きればいい。
それが、この世で最も楽に生きられる手段なのだから。
こいつはそれができないからという理由を「きょうだい」という観念に押し付けているだけだ。
「まー、おれには関係ないけど」
リオは急に脱力すると、バシ、と強めにビジャンへと遺物を押し付ける。
ビジャンは自目をむくとドサリと床に倒れ伏した。
こいつの事情など知ったこっちゃない。こいつが気に食わないのなら、もう関わらないようにすればいいだけだ。
「あー………もう帰ろ」
腹を立てたら疲れた。
本当はボスであるシュゼットの様子も見ておこうと思っていたリオだったが、やる気がなくなったためそのまま帰ろうと牢屋を出た。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる