黄金と新星〜一般人系ギルドマスターのなるべく働きたくない日々〜

暮々多小鳥

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第一章『大規模盗賊団討伐作戦』

*閑話4「牢屋と悪夢と人生論」①

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 討伐作戦の翌日のこと……


 何かを忘れている気がする。

 と、いうより直近の記憶がまとめて消えていた。
 ここはどこだろう、とベイドが痛む身体を起こす。

「……牢か」

 窓がなく薄暗い石の壁に囲まれた部屋。その一方に取り付けられた鉄の扉には、鉄格子の付いた窓がある。
 腕には魔封じと、よく分からない重たい腕輪。

「捕まっちまったのか……」

 盗賊団が全員捕まったのか、ベイドだけなのか。それすら分からない。
 ベイドが覚えているのは、帝都で芋っぽい少女を捕まえて、遺物『かくれんぼロープ』を使いながら遺跡の下にある拠点へ……

「行った……よな?」

 どうも、拠点へと戻ってからの記憶がない。
 何か、恐ろしいものに遭遇したような気がするが……あと雷に打たれたような気も…………だが、よく思い出せない。

 仲間達も捕まっているのだろうか。ベイドがいるのは狭い独房のようで、窓から外の様子を見ても他の牢屋は見えなかった。

 あの拠点が見つかるとは思えないが、ベイドが捕まっているということは拠点自体は見つかったということだろう。
 他の仲間も何人か捕まっているかもしれないが、頭領のシュゼットや幹部のビジャン達は逃走の手段を用意していたため逃げ切れているかもしれない。ベイドも一緒に逃げるつもりではあったが……置いて行かれたのか失敗したのか、やはり記憶がないため分からない。

 しかしながら、ベイドにはシュゼットがやられて捕まったとは到底思えなかった。

 シュゼットの強さは桁違いだ。ベイドはこの盗賊団ができた初期から彼の強さを見てきたため、彼が負ける姿は想像ができなかった。
 それに、今では強力な後ろ盾が付き、そこから十分な物資や強い道具、強い仲間まで揃った。ビジャンも確か、始めはその筋から紹介されたのだ。

 その後ろ盾がどんな人、または組織で、何のために自分達を支援し、自分達に何を望んでいるのか。
 ベイドは知らないし分からなかったが、シュゼットはその後ろ盾とも上手く付き合っていたため、ベイドは彼に従うだけだった。

 もしシュゼットまでが捕まっていたとしたら、一体どんな経緯で、どんな奴が……

「はぁ、やめだ。捕まっちまったからにはもうどうにもならねぇ」

 恐らくここは帝国騎士団の管轄する牢屋だろう。ベイドはこれから尋問を受け、帝国の法で裁かれる。
 帝国内ではまだそこまで犯罪を犯してはいなかったが、他国ではかなり窃盗を繰り返したし、人も殺した。どれほどその罪が計上されるかは分からないが、最悪死刑、たとえ軽くても数年間の強制労働だ。

 死にたくはないが、逃げるなんてことはできそうにもない。素直に従い、少しでも刑を軽くしてもらえるようにするだけだ。

「みーつけた」

「あ?」

 ガシャン、と年の扉が開いて誰かが入ってくる。
 灰色のパーカーを着た、男、だろうか。何故か目の前にいるのに存在が希薄で上手く認識できない。

「誰だ……?」

「あ、お前は別に見られてないし前にも同じの使ったか……まーいいか」

 男は軽い足取りでベイドに近づく。
 ズキ、と頭が痛む。身体の底から覚えのない恐怖感が湧いてくる。
 ズリズリと後ろに下がるが、狭い年の中に逃げ場はない。

 唐突に頭に浮かんだのは、小さな赤い宝石が付いた、金色の指輪だった。これは何だ?

「お前はクリアを危険に晒した。少しやりすぎたとしても、ユーリスも許すだろ」

「や……やめろ、何するんだよ……!」

 男の手がベイドの頭に伸びる。その手には、古びたアミュレットのようなものが握られている。

「悪夢を見ている間に、おれのことも、クリアのことも、みーんな忘れる。じゃーな」

 あ。

 ベイドは一つだけ、思い出した。
 この男は知らないが、この目だけは、ニヤリと細められた目、その奥にある澄んだ青い瞳のさらに奥、黒く滲んだ深淵は、つい先日に見たことがあったのだ。

 頭が意しく拒絶する。
 これ以上は思い出すなと。今すぐこいつから逃げろと。

「あ……ああぁぁあ!!」
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