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中編
しおりを挟む面白いオメガに出会った……
一見して普通の男にしか見えない。いや、それどころか、アルファの男のように、容姿も体格も恵まれた男だ。抑制剤を使い続けていると言うが、ホルモンバランスでも崩しているのだろうか? 少し体調が気にかかる。
女やオメガのような、柔らかさは全く感じないが、美しい白い肌をしていた……
銀色の髪に青い瞳。虎の獣人など腐る程見たことあるが、白虎は初めてだ。
俺は明日の面会が、急に楽しみになった………
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玉座には既にバランドル王陛下が着座していた。
獅子のアルファはネコ科では珍しく『プライド』と呼ばれる群れを形成する。一人のアルファを中心に、数人の獅子の女性と男のオメガから形成される云わばハーレムのようなものだ。
獅子王の後宮には、現在三人の女性と、二人の男のオメガが居て、マリアは六人目となる。
この中で最初に世継ぎの王子を産んだ者が、正妃となる。
どういうわけか現在の獅子王は、子を成そうとはせず、それがより一層ハーレムでの争いを過激化させているという……
ルーシアに、思いの人を残してきたマリアも、バランドルをうっとり見つめている。獅子は実力社会だ。強いアルファである程、獅子の女性やオメガは惹き付けられる。
最初から、その辺のアルファに勝ち目はないのだ。
マリアと挨拶を済ませたバランドルは、俺にも話し掛けてきた。
「ラミール、首の計測は終わったか?」
「はっ、明日には首輪を着用できます」
「そうか……それから医師の診断も受けよ。お前のその体は、おそらく抑制剤の過剰摂取によるホルモン異常だ。これからは、医師の指示を受けて、適量を摂取すること…… これがお前が後宮に入る条件だ」
「……はい?」
(後宮に入る? 勿論護衛としてってことだよな…… 俺、獅子じゃないし)
「薬、これだけですか?」
「これでも多いくらいじゃよ……今までどれだけ飲んでおったんじゃ!死ぬぞ!」
「でも最近効きが悪くて……」
「もう一度言う、お前は死にたいのか?」
「…………」
こんな量では飲んでいないのと同じだ。ヒートが来たら速効性の抑制剤を打って貰えるだろうか……?
後宮では、なぜか俺の部屋を用意された。マリアの護衛に支障をきたすかと思いきや、女達の嫌がらせの標的が俺になったことで、マリアは事なきを得たようで、それどころか一緒になって嫌がらせをしてくる始末だ。
(何なんだ!? この状況は!)
薬を減らしたせいで、筋肉も痩せてきて、このままでは護衛として役立たずになってしまう。
俺は日々の鍛練だけは怠らず、優雅にお茶を飲む女たちを尻目に一人で剣を振っていた。
「あら、ご覧になって、野蛮な大虎がまた剣を振ってますわ」
「白い首輪なんてどう云うつもり? 自分は特別だとでもおっしゃりたいのかしら?」
マリアも一緒になって俺に侮蔑の視線を送ってくる。マリアの護衛が要らないのであれば、俺はここに居ても意味など無いだろう。
「バランドル様!どうなさったの?こんな時間に」
一人の女の声に皆浮き足立つ。
珍しくシャツ一枚のラフな格好で訪れたバランドルは腰に帯刀していた。
「ラミール、剣の相手をしてくれないか?」
(くそっ、最悪のタイミングだ。女どもが俺を見る目が「侮蔑」から「殺意」になったではないか!)
「俺などでは、物足りないのではありませんか?」
「何を謙遜している、お前の剣技なら、我が国でも三本の指に入る……アルファの男でもお前を打ち負かせる者はそうはいまい」
変わった男だ……世間では賢王といわれ、武力に頼らない政治力に定評のある男だが、俺と話す時はまるで子供のようだ。
それに、子をなさないとはいえ、ここに居る全員のヒートに対応する精力は相当なものだ。女たちの顔を見れば満足させているのであろう事は分かる。
武闘派の体力バカでも、ここ迄、精力が漲ってはいないだろう。運動して発散させるのもいいかもしれない。
「ふっ、では少しだけお相手願います」
「ああ」
バランドルの目が光を帯び、腰から剣が抜かれる……
一太刀交えれば分かる。俺などが敵う相手では無い。
しかし、かなり手加減しているようには見えるが、バランドルの表情はことのほか楽しそうだった。実力が突出し過ぎて、手応えのある相手を見つけるのも難しいのだろう。
暫く手合わせする内に、俺もいつの間にか笑っていた。おかげで、嫌がらせによるストレスも、どこかに吹き飛んだ。
俺達がいつまでたっても打ち合いを止めないので、女たちは一人、二人と姿を消し、終わった時には二人きりになっていた。
「強いな……想像以上だ……」
「ならば、正式に兵として雇ってはいただけないでしょうか? マリア様はこの後宮でもうまくやっていけそうです……」
「それは出来ぬ」
「私がオメガだからでしょうか?」
「違う。お前が俺のプライドに入ったからだ」
「はっ……? 私は獅子ではございませんが……」
バランドルは俺の腕を引き、身体を引き寄せた。
「よく見ると、美しい顔をしているのだな……」
俺の顔を覗き込み、そう告げると、おもむろに唇を奪った……
「んんっ…… 離して下さい!私はマリア様の護衛としてここに参ったのです!」
「必要ない。男爵との契約は切らせてもらった」
「何ですって!? 勝手なっ!」
厚い胸板を押し返すと、俺のオメガにあるまじき力の強さに驚いて、金色の目を見開く……
そしてからかう様にニヤリと笑うと、両腕で俺の体をガッチリとホールドし、力の差を見せ付けるように締め付けた。
「う、うぅ放して……下さい」
「少し線が細くなったようだ。抑制剤は過剰に使うと内臓を痛める。これからヒートの時は俺を呼べばいい」
「なっ!!なんて事を!!」
俺は渾身の力でバランドルを振り払い、自室へと戻った……
(俺を相手にするなど、どれだけ物好きなんだ!? いや、精力が有り余っているのか?)
俺は獅子じゃないし、番を得ようと考えた事も無い。ハーレムには、とてもじゃないけど馴染めない。
俺は、正攻法で出られなければ、抜け出してでも出て行く覚悟を決め、翌日から抜け道の探索を始めた。
毎日のように俺に会いに来るバランドルのせいで、女達の嫌がらせに拍車がかかった。女達だけでなく、男のオメガの嫉妬もすごい。アルファの場合、相手がオメガの方が着床率がいいと云う。自分こそ正妃にと躍起になっているのだろう。
俺との剣の手合わせを終えるタイミングで、一人のオメガがバランドルに、駆け寄ってくる。
「バランドル様……僕、今夜あたりヒートが来そうなんだ。抱いてくれる?」
態々俺の前で言わなくてもいいのに、これ見よがしに、バランドルにしなだれかかり、俺を牽制してくる。
「勿論だ、待っていろ」
バランドルが、男の蟀谷に口づけると、男は勝ち誇ったようにニヤリと笑った。
どうでもいい、バランドルが他の誰かを抱こうと、俺には関係ない。
なのに、俺は何をイライラしているのだろう……
最近、近隣のヒグマ族や狼族との戦闘が激化している。狼族は前総長ノインの時代は、他の種族と協調して獅子族ともいい関係を築いていたのだが、よい後継ぎに恵まれず、血縁の無い若いゼイルと云うアルファが年老いたノインを打ち負かし総長になると、他種族の領地を侵略し始めた。
強大な勢力を誇る狼族に対抗できるのは獅子族くらいだ。
バランドルの元には、庇護を求める多くの種族が押し寄せて来て、連立軍を創設する動きが進んでいた。
王国の庇護を求めると云うことは従属を意味する。王国は戦わずして巨大な国家へと成長しつつあった。
「お前がここに来て二か月だ、ヒートはまだか?」
「少量ですが、抑制剤の服用は続けておりますので」
だが、いよいよまずい事になってきた。最近筋肉が急激に細くなった。流石に身長は変わらないが、オメガの特徴が目立つようになり、顔立ちも男らしいゴツゴツした感じが薄れてきた。
(時間が無い……今夜、ここを出よう)
今日は新月だ……夜目が利くとはいえ、闇は深いほど都合がいい。
準備を済ませ予め調べておいた逃亡ルートで後宮を抜け出す。警備兵を一人黙らせ、王国兵の装備を拝借すると、王宮の通用門に向かった。
(外に出たら他国に逃げよう。バランドルがそこ迄俺に執着するとは思えないが、用心に越したことはない)
しかし門に到達する前に、バランドルに遭遇してしまった。
(大丈夫……甲冑も着ているし俺だとわかる訳が無い!)
緊張したまま軽く会釈をしてバランドルの横を通り過ぎる……
(よかった……後は門を抜けるだけだ……)
「ラミール、そんな格好で何処に行くつもりだ?」
安心してホッと一息ついた俺に、背後からバランドルの声が掛かった。
(なんで……分かった?)
「気付いていないのか?フェロモンが出始めているぞ」
「はっ!!あぁっ!!」
後ろからバランドルに抱きすくめられると、バランドルから甘い香りが漂った。相性の良い相手にはアルファからも呼応するフェロモンが放出されるのだ。
「いい香りだ。こんなに呼応したのは初めてだ」
バランドルのフェロモンに反応してヒートが急激に加速する。
「はぁ……ああ……ダメ、薬を……」
「ならぬ、これ以上命を縮めることは、王命により禁ずる」
バランドルは俺を抱き上げ、自分の寝室に向かった。フェロモンだけでも辛いのに、アルファの『威嚇』の能力を発揮され、身動きできない。
俺を寝台に横たえたバランドルは、甲冑だけでなく首輪以外の衣服を全て剥ぎ取った。自分の服も床に脱ぎ捨てると、躊躇いなく俺に覆い被さった。
頭が朦朧とする……フェロモンが呼応すると、こんなにグズグズになるものなのか?
バランドルは俺の頬に触れ唇を合わせると、一気に口づけを深め、口内に熱い舌を差し入れた。
「ふっ、ぅぅ」
(甘い……)
それに、何故か嬉しい……
俺は、バランドルに惹かれていたのだろうか……
バランドルの大きな掌が脇腹から胸を撫で上げる。
「美しい身体だ。女の柔らかい身体より、この引き締まった身体を組み伏せる方が興奮する……」
バランドルの指がいつの間にか芯をもった乳首を転がすと、身体がビクッと跳ねた。
「はっ、ああっ!」
俺の反応に気を良くしたバランドルはザラつく舌で乳首を舐めながら、空いた手を脚の間へ滑らせた。
「ここも立派なものだ、可愛がり甲斐がある……」
バランドルの手がリズミカルに、亀頭の境目を上下する……
クチュクチュといやらしく響く水音に、自分が大量の蜜を溢していることが分かった……
親指が鈴口にかかり敏感な先端を押し潰すと、背中が仰け反り、ピュッと勢い良く透明の蜜を溢れさせた。
「あぁぁ……はぁっ」
「ここで達しても気休めにもならんだろう?」
悔しいがバランドルの言う通り、先程から奥が疼いて仕方ない。
俺の無言を肯定と見なしたバランドルの指が後孔の表面を撫でる……
二本の指を交互に動かし、入口を和らげるように揉まれると、そのままクチュリと音を立て、揃えた指を差し込まれた……
「ああっ!……ん……」
自ら潤う内壁を揉まれ、中で二本の指を広げられる。徐々に硬い入口が寛げられて、いつの間にか指を増やされる……
体がグズグズに溶けて行き、三本の指で中のしこりを押されると、足の先まで痺れが走り、堪らず白い蜜を放ってしまった……
「あぁぁぁ!」
初めて中で味わう長い絶頂に、思考がついていかない。首を左右に振って限界を訴えるが、バランドルは放出で収縮を繰り返す後孔に、熱く滾ったペニスを押し当てた……
「ひゅっ」
あまりの大きさと熱さに、息を飲む……
ゆっくりと侵入してくるペニスの熱さを内壁に感じると、ザワザワと肌が粟立ち、足の先まで痙攣した。
「あっ……はっ……」
(気持ちいい……)
辛いはずなのに、快感と幸福感しか感じない……
俺はこの男のものになれて、嬉しいと感じている……
俺の前では、子供の様な表情を見せる若き賢王を、いつの間にか愛しく思っていたのだろうか?
バランドルの上半身が獣化していく……
ああ……すごい……こんなに色が濃くて立派な鬣は見たことがない……
「もっと……来て……」
「ふっ……」
俺は何を口走っているのだろう……
逞しい腰が打ち付けられ最奥を突かれると、再び絶頂の波が押し寄せる……
「ん………あぁぁ!!」
(……知らない……こんな……)
終わらない絶頂感に、全身から汗が吹き出す。快感が強すぎていつ放ったのかも分からない白濁が腹を汚しているが、バランドルは動きを止めなかった。そして、バランドルの楔が硬度を増し、最奥に熱い飛沫が放たれたのが分かった……
「あぁぁ……なんで……?」
(バランドルは子をなさない筈だ……)
男のオメガは最初の性交で妊娠することはないが、アルファの精を受け入れることで、妊娠可能な身体に作り替えられる……
「なんで……中に?」
「俺の子を孕め、ラミール。俺の正妃になるのはお前しかいない……」
何を言っている!?
獅子族の世継ぎが、獅子以外などあり得ない!!
ましてや中途半端な混血児など、許される訳が無い!!
それに、俺は……
「俺は獅子じゃない…… 他のオメガどもと、お前を共有するなど御免だ! 俺が欲しいなら俺だけを見てくれ!!」
獅子の習性だ……出来るわけが無い。
無駄な事だと分かっていながら、俺は言わずにいられなかった……
応援ありがとうございます!
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