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ドキドキ

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魔王にドキドキするようになって、リスはお菓子が食べられなくなった。
厳密には結構食べているのだが、本人比として、食べてない、と言い張っている。

リスがお菓子を頬張るのをみるのが好きな魔王は、お菓子を持って行くのだが、リスがいらないと言うので、日に日に心配になっていった。

魔王は気付かなくても、使用人は気がついていたのだが、面白いから誰も指摘しなかった。魅了の花の効果はリスにしか効かない。魔王も、ピアも、使用人もすでに慣れきっているからだ。

リスもそのうち慣れて、また食べ始めると使用人たちは思っていた。

使用人の中にウサギの獣人がいた。
ウサギの獣人は、リスをはじめて見た日から可愛いと思っていた。

リスは魔王様のお気に入りだから、近づくことは出来なかったが、リスが庭の木に住まいを移したと聞いて、様子を見に行った。

どうやら、リスが魅了の花の影響を受けていることを知った。

ウサギにもまだチャンスはあるのではないかと思った。幸いなことに、まだ魔王は自分にリスが、ドキドキしてることに気づいていない。今なら、自分が魔王の代わりになれるのでは、と、

ウサギは肝心なことを忘れていた。
魅了の花自体には、大した力はない。せいぜい、少しある好意に手助けするぐらいだ。そもそも、リスと積極的に関わっていないウサギは、好意も何もない。

リスの考えは単純だ。

リスはお菓子をくれるのは、いい人だと思い込んでいる。母の教えなのか、経験に沿ったものかはわからないが、そう思い込んでいる。だから、お菓子をくれたことのないウサギにはなびくはずもない。

お菓子くれたからと言って、知らない人について行っちゃダメよ、とか知らない人から貰ったものは食べちゃだめとか、子どもでも知っていること。

だけど、リスは知らなかった。
と言うより、学習能力がないのだった。

こういったことから、リスがドキドキする相手とは、美味しいお菓子をくれて、リスに積極的に絡んでくる魔王以外にいない。

リスに言い寄るのに、今ほど最適な時期はない。言質さえ取ってしまえばいいのだ。けれど、魔王もまたお子様で、まだリスを可愛がりたい、一緒に遊びたい盛りだったため、絶好のチャンスを逃した。

しばらくして、魅了の花の効果にリスが慣れたとき、ドキドキする気持ちも消えてしまった。




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