私が殺した筈の女

mios

文字の大きさ
4 / 18

嫌な一致

しおりを挟む
これから起きることに目を光らせる、とは言っても、そうそう大したことが起きる訳もない。

それでも、同じ屋敷に自分の愛する人と、大嫌いな女が一緒にいる、ということに耐えられなくて、婚約者の家を頻繁に訪ねることになった。

カリーナは、侍女ではあるが、入りたてと言うことで、下働きに近く、屋敷内にはあまりいない。以前の彼女からは想像もできないぐらい、その仕事っぷりは良く、不満も言わずに過ごしている。前ならきっとあれこれ理由をつけては、気に食わない女性に丸投げしていただろうに。

「やっぱり偽物だと言うのが、しっくりくるのよね。」

偽物が彼女に成り変わるなら、その理由は?結局はその疑問に落ち着いて、思考が止まってしまう。

彼女がカリーナらしいところと言えば、ローガンの周りを常に彷徨いているところぐらいで、プリシラが近づくとタイミングよく居なくなることが多い為に、プリシラとしては、二人きりで何を話しているか気になってしまう。

以前なら見せつけるように態々、プリシラの前でローガンに話しかけたりしていたのに、今はまるでプリシラに会わないようにタイミングを見計らっているようだ。

「それか、記憶が戻って、私に会うのを恐れているのかもしれない。」

それならそれでやっぱりおかしいと思うのは、以前のカリーナはそれを利用してプリシラを貶めようと画策してきただろうと言う、ある意味確かな信用があるから。

「わからない。彼女が何を考えているのか。」

彼女に会った後のローガンは、いつもより更に優しいような気がして、プリシラにはそれも、何だか嫌な感じになる。

「浮気をした人間は、後ろめたさから、恋人により優しくなる」と言う話を聞いたことがあるからだ。単なる世間話として、聞いていたその話が今頃になって、この状況に刺さるとは思っても見なかった。

「全く、こんなことでまた悩むようになるなんて思わなかった……あの時始末したと思っていたのに。」

プリシラは自身の言葉で、気がついた。そうだった。どうしてそれを忘れていたのだろう。

彼女はもう死んだ人間なのだから、また殺せば良いじゃない。今度はもう二度と生き返ることのないように入念に始末してしまえば。

「あれが本物でも偽物でも関係ない。殺して仕舞えば良いのだわ。」

プリシラは一度目の時も、彼女に対する後悔などはなかった。それどころか、彼女に再会するまで、そのことすらも忘れていたのだ。きっと心が綺麗な女性なら、生きていたことに感謝し、過去の自分の行いを後悔するに違いない。だが、プリシラにはその気持ちが全くない。故に、こんなに簡単な思考にたどり着いてしまった。

「殺し損ねたのなら、仕方がないわ。さっさと始末してしまいましょう。」

鼻歌でも口ずさむように軽やかに屋敷を出ると、殺害の準備をする為に家に帰っていく。

ローガンは楽しそうなプリシラの様子に目を瞠る。帰ってしまうのは寂しいが、また後で教えてくれるだろう、と彼女を見逃した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

貴方の幸せの為ならば

缶詰め精霊王
恋愛
主人公たちは幸せだった……あんなことが起きるまでは。 いつも通りに待ち合わせ場所にしていた所に行かなければ……彼を迎えに行ってれば。 後悔しても遅い。だって、もう過ぎたこと……

安らかにお眠りください

くびのほきょう
恋愛
父母兄を馬車の事故で亡くし6歳で天涯孤独になった侯爵令嬢と、その婚約者で、母を愛しているために側室を娶らない自分の父に憧れて自分も父王のように誠実に生きたいと思っていた王子の話。 ※突然残酷な描写が入ります。 ※視点がコロコロ変わり分かりづらい構成です。 ※小説家になろう様へも投稿しています。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

処理中です...