私が殺した筈の女

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引き止めるのは

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「わー、ちょっと待って。お嬢様、俺、俺!」

準備を終え、カリーナの姿をした誰かを始末する為に、行動したプリシラを止めたのは、そのカリーナ本人だった。

聞いたことのあるその声は、カリーナを埋める為に運んでくれた伯爵家の影のもの。

「ああ、貴方。あの時の。」
「あ、良かった。思い出して、くれたんです、ね?」
「ええ、勿論。」

話しながら手を止めないプリシラに、影の彼は戸惑っているみたいだ。

「お嬢様、これから何故俺がこの女に化けてこの女のふりをしていたか、ちゃんと説明しますので、手を止めて貰えませんか?」

本気を出せば簡単に非力なご令嬢の拘束なら取れそうなものを、彼はそうしない。どうにか説得を試みるが、プリシラは別にどうでも良かった。

彼がカリーナに化けようが、プリシラにとって無害だろうが何だろうが、ローガンとプリシラの間に入り込むつもりなら、邪魔なものとして、始末するしかない。 

「理由は、話したきゃ話せば良いわ。でも貴方を助けるかどうかは確約できない。」

彼はプリシラの言葉に困惑しながらも、話をし始めた。

「お嬢様はあの男以外はやっぱりどうでも良いんですね……いや、まあそれは良いとして……俺がこの女を生きているように見せているのは一つにはこの女にまだ役割があって、それを完遂させる為です。まあ別にこの女でなくとも良かったんですが、手頃に罪をなすりつけられる女がいなくて、ですね。もう死んでいる人間なら丁度良いだろう、となった訳です。

ちなみに、その罪とやらをなすりつけた後には、彼女を始末したことにして、変装をやめるつもりでした。

まあ、だから、少しの間だけは見逃して欲しいんです。カリーナ嬢が生きているふりをしている方がお嬢様にとっても都合が良いんじゃありません?」

確かに彼女が生きていることにすれば、プリシラが彼女を始末したことを見破られる心配も少なくはなる。

「それはいつまで続けることになっているの?」
「もうすぐ、終わると聞いています。」
「なら、今貴方を殺しても何とか辻褄は合わせられるんじゃないかしら。」

「いやいやいや、聞いてました?だから、すぐにこの女は消えて無くなるんですよ。それまで少し待って貰うだけで、罪を無かったことにできるんです。と言うか、俺をどこまで殺したいんですか。俺はお嬢様を裏切ったりしません。」

彼がプリシラを裏切らないのは知っている。だって、彼は伯爵家の忠実な影だもの。主人の娘に歯向かうことはない。そんなことはプリシラには百も承知だ。

「貴方を助けてあげたいとは思うわ。だけど、ローガンの、彼の側にいるのはダメ。その格好で、彼の側にいたら、彼の思いが再燃してしまうかもしれないでしょう。」

「それは……ないとは思いますよ。」

ローガンの考えていることは、殆どプリシラのことばかり。それを知っている影としては、あまり不用意な発言は命取りになると、曖昧にぼかすことしかできない。

プリシラは単に婚約者に自分以外の女性が近づくのが嫌と言う可愛らしい思いを持っている(若干発想が物騒な)だけだが、ローガンの考えはそれとは異なる。

彼の答えを口にして、なら、と彼女がこちらに矛先を向けることはできれば回避したい、と殺されたくない影は、考える。

話している間もプリシラから、殺気は消えることはない。まさに、命の危機に晒されている途中。綱渡りの瞬間だった。
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